蠢く憎悪
第三話です!
それでは本編をどうぞ!
「よし、授業終わり!」
打ち上げの翌日、授業終了を告げるチャイムが鳴り響き、すぐさま帰り支度を進める。
「怜斗!一緒に帰ろ!」
そんな風に、いつも通り声を掛けてくるリンに少し辟易してしまう。
本人に悪気はないのだろうけど、リンと一緒に帰る時はいつも周りの奴らの雑音を聞かされる羽目になるから勘弁してほしいというのが本音だ。
それに今日は博士との約束もある。
リンには申し訳ないけど、今日はさっさと帰らせてもらうか。
「悪い!今日は用事があるからこのまま帰る!」
「え?用事って何?私と一緒に帰るより大事なことなの?」
「急に愛が重い彼女みたいになるなよ…悪い、今日の用事は本当に重要でさ…それじゃあまたな」
それだけ言って、俺は走ってその場を後にした。
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「行っちゃった…」
怜斗が去っていくのを見届けたリンは呆然とそんな言葉を零した。
幼い頃から怜斗と一緒に居るのが当たり前と思っていた彼女にとっては、彼の明確な拒絶というのはあまり経験のない出来事だった。
もちろん、四六時中一緒に居るわけではないし、毎日一緒に帰るわけでもないのだが、怜斗から拒絶されたことはリンに少なからず精神的なダメージを与えていた。
(最近、怜斗が冷たい気がする…昨日だって、一緒に対魔部隊になろうって言ったのに断られた。まぁ、分かりづらかったかもしれないけど…)
昨日の帰り道で怜斗に語ったことは、遠回しに一緒に対魔部隊に入ろうということだったのだが、怜斗には伝わっていなかった。
まぁ、仮に伝わっていたとしても、怜斗が頷くことはなかっただろうが、彼女がその事実に気づくことはないだろう。
「なんだろう…なんか心がざわつく…怜斗、明日は一緒に帰ってくれるよね…?」
そう自分に言い聞かせるように口にし、リンは外へと向かう。
「葛城のやつ、やっと諦めたのかな」
「まったくあんなやつが神無木さんと一緒とか生意気なんだよ…神無木さんに比べたら大したことない癖によ」
「女子にモテるのもムカつくよな」
足が止まる。
怜斗を馬鹿にする会話を耳にしたリンは思わず怜斗を馬鹿にした生徒達にバレないように視線を移す。
陰口をたたく生徒達はリンと怜斗が一緒に帰る時にいつも彼を馬鹿にしていた生徒達だった。
それを認識したリンは今まで感じていた怒りが溢れてくると同時に一つの誤った結論に至る。
「そっか、そうだったんだ…」
まるで亡霊のようにユラユラと揺れながら、陰口を叩いている生徒達に近づいていく。
生徒達は未だに気づいていないようで、陰口を叩き続ける。
「大体、魔力を持っているだけで調子に乗りすぎなんだよ…神無木さんレベルになってからにしろよって話だよ」
「そうだよなぁ…如何にも自分は全部持ってます、みたいに振る舞いやがって」
そんな生徒達の言葉を聞きながら、リンはさらに近づき、生徒達の背後で底冷えした声を出す。
「あなた達のせいだったんだ…最近、怜斗が冷たいのは」
彼女の声に思わず振り返り、陰口を叩いていた生徒達は怯えたように言葉を返す。
「か、神無木さん…今の話聞いてたの?」
「うん、ばっちりね…怜斗のこと、なんにも知らない癖に好き放題言ってくれるね?」
ニコニコと貼り付けたような笑みを浮かべながら、剣を生徒達に向ける。
魔力で出来たそれはまるで雷を纏ったようにバチバチと音を立てており、それを向けられた生徒達は恐怖のあまり動けないでいた。
「魔力を持っていない人が魔力持ちに嫉妬する気持ちは想像できるよ?だけどさ、言って良いことと悪いことがあるよね?」
「でも……ひっ!」
「発言は許可してないよ?」
笑みを崩さないまま、言葉を発しようとした生徒に剣を向ける。
そこに普段の彼女の姿はなく、生徒達はただ怯えることしかできない。
「怜斗はさ、自分が魔力を持っているからって他人を馬鹿にしたりなんかしないよ?まぁ、あなた達の発言には思うところがあったから、ついつい強めの言葉を発したことはあったかもしれないけどね…それに怜斗は私よりも強いよ?近くでずっと見てた私が言うんだから間違いない!あなた達の認識が間違ってるんだよ。怜斗は優しくて、強くて、いつだって私を助けてくれるんだよ!自分の力に慢心せずに、もっと上を目指そうとする向上心もあるし!私はそんな怜斗が大好きなんだ!あっ、そっか!私、怜斗のことが大好きなんだ!単なる幼馴染としてじゃなくて、1人の男の子として…うん、そうだよ!明日からはもっとアピールしないと!……でも、その前に」
リンの狂気に満ちた発言を聞き、生徒達は恐怖に支配されていた。
だが、彼女はそんな彼らの様子など気にも留めず、延々と怜斗について語った後、生徒達に向けていた剣を振り、生徒達を気絶させる。
リンは本来であればこのまま生徒達を殺し、処理しようと考えていた。
だが、怜斗は人殺しを好まないだろうし、何より血で汚れた手で怜斗に触れるのが嫌だった。
「殺しはしないよ?だけど、それ相応の罰は受けてもらわないと怜斗に申し訳が立たないよね?あなた達は私の領域で、たっぷりと反省してもらうから…あなた達の陰口が無くなれば怜斗は何も気にすることなく私と一緒に過ごせるだろうし…あぁ、ドキドキするなぁ…これから怜斗に意識してもらえるように頑張らないと!」
もう、誰にも聞こえていないであろう言葉を口にしつつ、倒れている生徒達を領域に引きずり込んでいく。
倒れている生徒達は異常に気づかず、地面に出現した黒い穴に呑み込まれていき、やがて姿が見えなくなった。
領域とは膨大な魔力量を持つ人物が展開できる特殊な空間であり、そこに呑み込まれたものは領域を展開した人物の許可なくその空間から抜け出すことができない。
そして、その空間は人によって異なるが、展開者が味方と認識している存在や展開者自身には恩恵があり、敵と認識している存在は弱体化するという点では共通している。
だが、それはあくまで魔力を持っている存在に限られるため、魔力を持っていない人物が領域に呑み込まれてしまったらただではすまないだろう。
「安心して、ちゃんと反省してくれれば、解放してあげる。廃人化とか、植物状態とかになられたら気分が悪いし…まぁ、反省しないようならどこまでも追い詰めてあげるけど」
独り言のように口にし、彼女は下駄箱から靴を取り出して、学校から出る準備を進める。
そうして、まるで先ほどのことがなかったかのように軽やかな足取りで学校を後にするのだった。
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「えっと、確かここら辺だったな」
リンと別れた後、一度家に帰って荷物を置き、準備を進めて路地裏にある博士の研究所の入口にやってきた。
博士の研究所の入口は複数存在していて、日にちごとに入れる入口を変えている。
博士曰く、情報漏えいを避けるためにこういう仕組みにしているらしい。
今日はこの路地裏に入口がある。
一応、念の為周りを見渡し、人や動物の気配がないことを確認してから入口に入る。
入口は扉そのもので、それを開けて入ると、博士が俺を出迎えてくれた。
「よく来てくれたね!毎度すまないな…面倒だろう?ここに来るの」
「安心してください、別に気にしてませんよ。情報漏えいを避けるのは大事ですからね」
そんな風に会話をしていると、俺が入ってきた扉が消える。
博士が用意する入口は魔力を利用して作り上げたもので、この研究所の関係者以外には認識されず、博士が許可した人間が通ったらすぐにその場から消える仕組みになっている。
だから、他の誰かが間違って入ってくることはないらしい。
「さて、さっそくで悪いが試させてほしい」
「了解です!さっそく始めましょう!」
そう答え、俺は実験に備えて軽く準備運動をするのだった。
といった感じの第三話でした!
本当は幼馴染はもっと別な感じにしようと思っていたんですが、いつの間にやらこんな感じに…まぁ、これはこれで良いと開き直ります!
それでは、今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます!