二人きりの打ち上げ
第二話です。
それでは本編をどうぞ!
「それでは乾杯!」
打ち上げの準備が終わり、博士のその一言と共に二人だけの打ち上げが始まった。
「それにしても…色々と頼みすぎでは?さすがに二人で食べきるのは難しくないですか?」
博士は色々と出前を頼んだらしく、テーブルの上には寿司やピザ、チキンが置かれていた。
「大丈夫だ。この為にお腹を空かせてきたからね」
「そうなんですね…まぁ、それならなんとかなるか」
そう言いながらジュースが入ったグラスに口をつける。
うん、美味い!炭酸のシュワッとする感じ、かなり好きだ。
「改めてありがとう、怜斗君。君のおかげで魔力の研究が進んだ」
「いえいえ…博士の努力の賜物ですよ」
「謙遜しなくて良い。本当に君に会えたのは幸運だな…まぁ、君はもしかしたら迷惑に感じているかもしれないが」
「それはないよ。俺は美希さんに会えて良かったと思ってる。研究を手伝うようになってから前に比べて前向きになれたし、感謝してる」
「そ、そうか…それなら良かった…それにしても…いきなり名前呼びは、相変わらず驚いてしまうな…」
照れたように顔を背け、博士はグラスのジュースに口をつける。
「研究を手伝っていない時は大体こんな感じじゃないですか…まぁ、俺も口調が崩れてしまうのは気にしてるんですけどね」
「いっそのこと、研究を手伝っている時以外は砕けた話し方をしてみたら良い…私としても距離が縮まっているようで悪い気はしないから」
「そうですか…まぁ、博士がそう言うならこれから研究を手伝っている時以外は普通に話しますよ」
「あぁ、それで頼む。さっそく今からそれでいこう!」
「了解…それにしても、美希さんと話してると初めて会った時のことを思い出すな」
「そうだね…あの時の怜斗君は相当落ち込んでたっけ…あまりにも悲しそうだったから、ほっとけなくて声を掛けたんだ」
「あの時、声を掛けてくれなかったら今の俺はなかっただろうし、本当に感謝してる」
博士と初めて会った時、俺はリンとの圧倒的な差を感じて自棄になっていた。
どれだけやったって天才には勝てない…普通より魔力量が多かったって圧倒的な強者には誤差のようなものでしかないのだと、打ちのめされていた。
そんな時だ、美希さんに声を掛けられたのは。
『君、良かったら私の研究所に来ないか?そろそろ助手が欲しいと思っていたんだ』
急に声を掛けられた俺は、困惑しつつもついていくことにし、そこで美希さんから研究内容と彼女の境遇について聞かされた。
美希さんは魔力を持ってはいたが、魔力量が他の人より少ないせいで周りから馬鹿にされていたらしく、そんな奴らを見返す為に魔力の研究を始めたと言っていた。
『魔力にはまだまだわからないことが多い。私のように魔力量が少ない者や魔力を持たない人々だってやりようによっては魔力量が多い人間と肩を並べることが出来ると私は信じているんだ』
そう語った美希さんを見て、俺は電撃が走ったような衝撃を受けたのを覚えている。
美希さんは俺よりも悪い状況だったはずだろうに、腐らずに自分なりの戦い方で自分よりも魔力量が多い人間に並ぼうとしていたのだ。
それなのに俺は諦めていた…どう頑張っても追いつけないと決めつけて。
それがとても情けないと思うと同時に、この人の力になりたい。
俺も魔力というものにもっと迫りたいと思った。
『俺に手伝わせてくれませんか!博士の研究!』
そう口にするのに時間は掛からなかった。
そうして、俺の言葉を聞いた美希さんは俺を快く受け入れてくれた。
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「やっぱり、美希さんは俺の人生を変えてくれた人だな…こうして改めて思い返してみても」
「そう思ってくれたなら嬉しいよ…だが、そういうことなら私の人生を変えてくれたのは君だよ、怜斗君」
「俺が?まぁ、お世辞でも嬉しいけどさ…」
「お世辞じゃないんだけどなぁ…ま、そういう謙虚な所も怜斗君の良い所か」
美希さんの言葉が、どうにもくすぐったくて、思わずグラスのジュースを飲み干した。
「ごめん、おかわりもらって良いかな?」
「良いとも。さぁ、じゃんじゃん飲みたまえ」
「なんかお酒を入れる人みたいだな…まぁ、ありがたく頂くけど」
そんな会話をしながら、テーブルの上の料理を食べていく。
「そういえば美希さん、もうすぐ完成するって言ってたけど、後どれくらいで完成しそうなの?」
「本当にもうすぐだよ。物自体は出来上がってるから、後は実際に試すだけ」
「俺達が作ってるのは相手の魔力を一時的に封じる道具だもんな…俺で検証するか…」
「そうだね…私じゃ魔力量が少なくて効果がどれほどのものかがわからないかもしれないし…ここは怜斗君に任せるしかない」
「わかってますって…美希さんもそんな気にしないでください」
申し訳なさそうにしている美希さんにそう伝える。
そもそもその道具を作ろうと提案したのは俺だし、俺の思いつきを美希さんが形にしてくれたのだ。
感謝こそすれど文句を言う気なんてさらさらない。
「そういえば、君は何故そんな道具を作ろうとしたんだい?まぁ、私としては研究が進んだからありがたいが…」
「作ろうとした理由?魔力犯罪に対処しやすくするためっていうのが一番の理由ですね…後々、これは万が一の時にも使えるんじゃね?とは思ったけど」
「万が一の時?」
「万が一、相手が魔力を無効化してくる技術を使ってきた時に生存率を上げられるかなと…俺の他にも魔力を無効化出来る奴が居てもおかしくありませんし…まぁ、美希さんに会うまでそんな発想すら俺は出来ませんでしたけど」
魔力を無効化されるというのは魔力を用いて戦う人達にとっては脅威だ。
こっちは魔力によって受けられる恩恵がなくなるのに向こうだけが魔力を使えるのは厄介すぎる。
というか、絶望的だ…おそらく勝てない、なんならほとんど死ぬ。
だが、相手の魔力を無効化できる道具があれば、体格差とかがあったとしても、まだ生き残れる可能性が高くなる。
少なくともお互いに魔力を使えないという状況までは持っていけるからな。
「なるほど…確かに君も相手の魔力を無効化することに成功していたな…そもそも私があれを作り上げられたのも君のデータがあってこそだ」
「まぁ、美希さんの技術力の高さがなかったら実現してなかっただろうけど」
「ふふっ、なら私達二人の成果だな」
「そうだね、俺達二人の成果だ」
そう言って、俺と美希さんは笑いあった。
「さぁて、明日は忙しくなるぞ!怜斗君、君には協力してもらいたいことが山ほどあるからね」
「はい!とことん付き合いますよ」
「よろしくね。さぁ、どんどん食べていこう!まだまだ残っているからね!」
そうして、美希さんと他愛のない会話を交わしながら、二人きりの打ち上げの時間は過ぎていくのだった。
第二話でした!
それでは、今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます!