少年と幼馴染、いきなり博士
初めまして、軌跡リンクと申します。
久しぶりに小説を書いたので、稚拙な文章になっているかもしれませんが、楽しんで頂ければ幸いです。
それでは本編をどうぞ。
この世界には魔力という超常の力が存在している。
ある日人々の中で目覚めたそれは多くの恩恵を与えた。
そうして魔力を宿した人物は人間離れした驚異的な身体能力や魔法を得るに至った。
この物語は、そんな世界で自らの限界を悟った二人が魔力という一種の才能に抗う物語だ。
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放課後を告げるチャイムが鳴り響き、俺はいそいそと帰る準備を進める。
「さぁて、帰ろうっと」
「あ、待って!一緒に帰ろ!怜斗」
俺が教室を出ようとすると、慌てて幼馴染の神無木リンが駆け寄ってくる。
長い銀の髪を揺らしながら俺に近づいてくるその姿は彼女の容姿が優れていることもあってか、思わず目を奪われてしまう。
くりっとしたサファイアのような碧い瞳に幼さの残る顔立ち、小柄でありながらも出るところは出て、引き締っているところは引き締っている、スタイルの良さ。
正直、彼女みたいな美少女と幼馴染というのは嬉しいし、一緒に帰るのも最高ではあるんだけど…
「葛城のやつ、また神無木さんと帰ってるぜ…魔力がそこそこあるだけのやつが神無木さんと釣り合うわけないのによ」
ある男子生徒のそんな言葉に周りの生徒達もヒソヒソと何か話し始めている。
リンと帰る時はいつもこうだ。
「あなた達ねぇ…!」
「良いよ。あんなやつらほっといて帰ろうぜ」
「でも…!」
「良いって。どうせ口だけで何も出来やしないんだからさ…あいつら、全員魔力持ってないし。負け犬の遠吠えってやつさ」
そう言って、リンの手を掴み教室を後にした。
リンは未だに不服そうではあったが、渋々といった感じで納得してくれた。
「あいつら、いつも怜斗を馬鹿にして…!怜斗は悔しくないの?」
「興味ないな…あんなやつらの言葉を受け取る暇があるなら、魔力について考えを働かせたい。まぁ、それはそれとして喧嘩を売られたら買うけどね」
「喧嘩を売られたら買うんだ……そ、それにしても、なんで怜斗が馬鹿にされなきゃいけないんだろう?怜斗は魔力を持っていてその魔力量だって多いし」
「さぁ?嫉妬じゃない?」
そんな風にリンに返しつつ、内心俺が馬鹿にされるのはお前のせいだよ、と思ってしまう。
この世界には魔力という超常の力がある。
その力は魔力を持っている人間に驚異的は身体能力や魔法という力を与える。
そして、人間離れしたその力は魔力量が多いほど強くなるのだ。
俺も魔力量は、魔力を持っている他の人達の平均よりは多いのだが、リンはずば抜けて魔力量が多いのだ。
例えるなら、100点満点のテストがあって、俺はそのテストで80点を取ったが、リンは何故か100点を超えて、120点を取っているようなものだ。
その魔力量は元々黒髪だったリンの髪色が銀色に変色するほどの量で、日本でも数人しかいないような魔力量を誇っている。
莫大な魔力量を誇る人間は髪が銀色に変色するらしく、その領域に至った人間は魔力を持たない人だけではなく同じように魔力を持つ人からも羨望の眼差しを向けられるのだ。
俺が馬鹿にされているのは、リンが凄すぎるから…これにつきる。
俺だってそこそこやる方ではある、だがリンと比べると見劣りしてしまうのだろう。
リンがおかしいだけで、俺だって弱くはないんだけどな。
「はぁ…まぁ、こんなこと考えても仕方ないか」
「怜斗?」
「何でもない…気にしないでくれ」
「そっか…あのさ!私、今度対魔部隊の入隊試験を受けるんだ」
「対魔部隊の?あれって、確か20歳を超えてからじゃないと試験を受けられないんじゃなかったか?まだ高2の俺達じゃ受けられなくね?」
そんなことを言いながら、下駄箱から靴を取り、それを履いて外に出る。
対魔部隊、正式名称は対魔力犯罪特殊部隊といって、魔力を悪用した犯罪に対処する特殊部隊だ。
魔力という超常の力を悪用するものも多く、普通の警察組織ではその犯罪に対処するのが難しいということで創設された魔力を持つ超人達で構成された部隊だ。
部隊の入隊試験は難易度が高いようで、対魔部隊に入る人達はエリートばかりだそうだ。
まぁ、俺には縁遠い話だが。
「なんでも、最近魔力を悪用する犯罪が増えているらしくて、才能がある人を集めるんだってさ」
「へぇ…でも学生にそんな危険な仕事をさせるとか正気かよ…やめておいた方が良いって」
「もしかして、心配してくれてるの?」
「当たり前だろ…対魔部隊に入るってことはガチの犯罪者、しかも魔力持ちを相手にするってことだろ?下手すりゃ死ぬし、もっと酷い目に遭うかもしれない…そりゃあ心配するって」
「怜斗は優しいね…でも、決めたことだから」
「何でそんなに対魔部隊に入りたいんだ?」
俺がそう尋ねると、リンは少し歩く速度を早めて、俺の先頭を歩きながら口を開く。
「怜斗は小さい頃にした約束を覚えてる?」
「…覚えてるよ。大人になったら一緒に対魔部隊に入って、悪いやつからみんなを守ろうってやつだろ?」
「そうそう!覚えててくれたんだ」
「まぁ、記憶力は良い方だからな」
幼い頃から一緒に遊んでいた時にリンとよく夢について語り合ったものだ。
あの頃はただ漠然と悪いやつらから皆を守っている対魔部隊に憧れを抱いていた。
俺とリンは幼い頃から魔力を宿していたから、警察よりも、同じように魔力を使っている対魔部隊に親近感を抱いていたのもあったんだと思う。
まぁ、今の俺は対魔部隊に入ろうとは思わなくなってしまったのだが。
「あの時の夢、叶えたいんだ…私」
「…そっか。わかった!頑張れよ!」
「…っ!うん、ありがとう……あのさ…怜斗は受けないの?入隊試験…」
「それに関してはごめん。今の俺は他にやらないといけないことがあってさ」
「そ、そうなんだ…じゃあさ!もし、怜斗がやらなきゃいけないことが終わったらさ…怜斗も対魔部隊の入隊試験受けてくれないかな?」
俺の方に振り返りながら、リンは上目遣いで俺にそう聞いてきた。
「…そうだな。やることやったら、受けてみるか…まぁ、俺が入隊試験に受かるかはわかんないけどな」
「大丈夫!怜斗なら受かるよ!怜斗はすごいもん!」
「あはは…リンのお墨付きなら安心だな」
「うん!安心して!…あっ、もう家に着いちゃった…怜斗と居ると時間があっという間に過ぎちゃうな」
色々と話している内に、気づけばリンの家の前に着いていたようだ。
俺の家はリンの隣だから、実質俺の家にも着いたようなものだ。
「それじゃあまた明日な」
「うん!また明日!」
そう言ってリンは俺に手を振りながら、家に入っていく。
俺もそれに応えるように手を振り、自宅に帰る。
そうして、家に入ると白衣を纏っている長い橙色の髪の女性が姿を見せる。
「やぁ怜斗君、家で待たせてもらったよ」
「博士、どうやって入ったんですか?俺の記憶が正しければ、母さんと父さんは海外旅行でしばらく帰ってこないから、誰かに入れてもらったとかはあり得ないと思うんですが」
「合鍵を使ったのさ」
「合鍵を使ったのさ…じゃないですよ!普通に不法侵入じゃないですか!てか、いつの間に作ったんですか!」
「それはこの前、君が私の研究所に来た時に少し拝借させてもらったのだよ」
「なにやってんすか…あんた」
俺に断りもなく合鍵を作ったこの女性は天野美希博士。
魔力についての研究をしている人で、3ヶ月ほど前から、よく研究所で彼女のお手伝いをしている。
「まぁ、良いじゃないか。私みたいな美女と一緒に過ごせるんだから」
「確かに博士は美人だとは思いますけど、普通に犯罪では?…まぁいっか、荷物を置いたら博士の所に行く予定だったし」
「その切り替えの早さ、流石だね…そうそう、君の協力もあって、例のアレがもうすぐ完成しそうだよ」
「マジですか!やったぜ!」
「あぁ、だから少々早いが、今日はそれを祝って打ち上げでもしようと思ってね。こうして君の家にやってきたわけだ」
「なるほど、それで…まぁ色々とツッコミ所はありますけど、今は打ち上げを楽しみましょうか。なんか買ってくるものはありますか?」
「大丈夫だ!一通り買ってきたからね。ついでに出前も頼んでおいた」
「他人の家で本当に好き勝手やってるなこの人…」
「安心したまえ。費用はすべて私持ちだ!」
「そういう問題じゃないんだよなぁ…」
俺はそんな風に呆れながらも、せっかくの博士の厚意を無碍にしないために打ち上げの用意を進めるのだった。
といった感じの第一話でした!
今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます!