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使うあてのない小さなスプーンが床に転がっている

作者: まめめめ

 スイーツを買ったら勝手についてきた。


 入れてくれと頼んでいない二円だか三円だかの袋が欲しいとは言った記憶がある。

 これは聞かれるまでもなく、勝手についてきた。


 ところで私はこれを持ち帰ってから食べるつもりでいた。

 若者のように歩きながらかじりつくには、私はあまりにも歳を取り過ぎた。

 というかかじりつくのなら、いずれにせよこれは使わない。


 もちろん、すべての家にスプーンがあるわけではないだろう。

 だけど私の家にはちゃんとしたのがちゃんとある。

 いうても安物ではあるが、食後にデザートを食べるのに不足することはない。


 洗えば使い回せるようなのがあるのに、袋を開けて、おまけでついてきたようなこれを、果たして使うべきだろうか。

 結局私は自前のスプーンを使って、これは机の上に置いておくことにした。

 やがてそれは机の上から転がり落ちて……


 今、私の足下から、恨めしげにこちらを見上げている。


 かといって、まだ使えるようなそれを捨てるには忍びない。

 何せ未使用なのだ。床に落ちたとは言え、袋に入っているそれ自体には、ホコリもついていないだろう。


 急な来客があったときに?

 いやいや、そんな予定がないし、そもそもこれを提供するのか?

 だとすれば少し走ってちゃんとした店で、安物のスプーンを買った方が良い。


 つまり、本格的に用途がない。

 そもそもこれは無料で提供されたもの。

 長く保存されることなど想定もされていないだろう。

 それはわかる。理解している。だけど、こんな大量生産されたような安物にでも、人の想いがこもっている。


 それは、工場で働いている人や機械だけじゃなくて。

 この形を設計した人。これを生み出す機械そのものを、作った人、あるいは機械。

 スイーツを買った人に、これをつけようと決めた人がいるはず。その気遣い。

 店の人も、決まりや無意識かも知れないけど、私のためにこれを入れてくれた。

 この小さな、細長いプラスチックの小さじには、いろいろな人の思いが詰まっている。


 仕方がないなと、床からそれを優しく拾い上げ

 蓋を開け、袋の中に放り込む。


 これで今週のゴミの日に、晴れて旅立つことができるであろう。

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