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不全刀の透過性  作者: 斗話
8/8

誰が為の

 全身が痛む。何度も球体の悪魔の攻撃を受け、ハルシの体はボロボロだった。相変わらず、刀身は出ない。


「くそ! どうすれば良いんだ!」


 何かが落ちる音がした。音のした方に目をやると、球体の悪魔が地面に転がっていた。


「あれ? 死んだ?」


 ハルシが近づこうとした瞬間、球体の悪魔の口が縦に裂けた。ゴボゴボという音をたて、中から新しい球体が現れる。球体は風船が膨らむように膨張し、ついにはハルシの身体の倍はあろうかいう大きさになった。


 球体の悪魔が大きな口を開け、突撃してくる。これをくらったらペシャンコになることは容易に想像できた。


 痛む全身に力を入れ直し、転がるようにして攻撃を避ける。


「うぉぉぉぉぉ!!!」


 体勢を立て直すと、ハルシは球体の悪魔の背後目掛けて走り出した。


「俺は最強の剣士になるんだ! こんなとこでつまずいてられるかぁぁぁ!!」


 両足に力を込め、跳躍する。不全刀を両手で持ち、叩きつけるように振り下ろした。

 しかし、刀身は現れず、大きく弾き飛ばされる


「ちくしょう……何で出ないんだよ……」

「お、生きてた。流石にギブアップ?」


 地面に倒れ込むハルシの顔を覗き込んだのは、カタギリだ。ハルシはゆっくりと立ち上がり、不全刀を構える。


「するわけない」

「気合いは認めよう。じゃあ、腕を強く振るにはどうすればいいと思う?」

「え? 何でそんなこと……」

「足を踏ん張って、上体を捻る、が正解。それと一緒だ。目先の事象ではなく、もっと深いところにある意識を変えろ」


 球体の悪魔が、ゆっくりとした動作で、体を反転させ始める。


「ハルシ、お前が刀を振るのは何のためだ」

「最強の剣士に……」

「なってどうする」

「最強の剣士になって……」


 父ちゃんと母ちゃんのカタキを討つ。そう心の中で呟くが、何となくそれは正解ではない気がした。


「もう一度聞こう。お前が刀を振るのは何のためだ」


 意識を変える。もっと深く。腕をより強く振るためには、足を踏ん張り、上体を捻る。それと一緒。カタギリの言葉を一つ一つ咀嚼するように繰り返す。何のために刀を振るのか。悪魔を倒すため。では何故、悪魔を倒すのか――


「民を守るためです」


 その瞬間、全身から右腕に向けて何かが伝わっていくような感覚を覚えた。何も無かった柄の先に、確かに重みを感じる。刀身は見えずとも、確かにそこにある。


「その通りだ。民を守るために刀を振れ。自分のためでなく、人のために不全刀を握る時、ハルシ、お前の刀は悪魔を斬ることができる」

 

 球体の悪魔が突進してくる。


 腰を落とし、不全刀を振り上げる。


「うぉぉぉぉぉぉお!!!」


 勢いよく迫り来る球体の悪魔に対し、ハルシは真っ直ぐ不全刀を振り下ろした。

 空気を切り裂くような轟音と共に、ハルシの視界が開けた。真っ二つになった球体の悪魔が、そのまま転がり、壁に激突する。


「できた……できた!!」


 カタギリの方を振り返る。少し驚いていたように見えたが、すぐにあくびをしたので気のせいかもしれない。


「その感覚を忘れるな」

「はい!」


 人のために不全刀を握る時、悪魔を斬ることができる……。ハルシは不全刀を見つめた、もうそこには先程までの重みはない。


「ハルシ」


 どこから取り出したのか、カタギリが大きめの巾着袋のようなものを投げてきた。


「まさかこれも悪魔……」

「制服だ」


ハルシの鼓動が一気に高鳴る。


「てことは……」

「明日から授業に参加してもらう。ま、せいぜい頑張れ」

「ありがとうございます!!」


 カタギリが少しだけ微笑んだ、ような気がした。


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