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不全刀の透過性  作者: 斗話
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対魔剣士


「不全刀だ」


 振り返ると、そこに立っていたのはハルシより少しばかり身長の高い少年だった。ただ、上等な羽織に短く切り整えられた藍色の髪、そして腰には立派な脇差、と、ハルシの持っていない何もかもを少年は持っていた。


「フゼンガタナ……?」

「そうだ。対魔剣士の為に生まれた不完全な刀。嫌な気配がすると思ったらこんなところに落ちてるとはな」


 対魔剣士という言葉にハルシの目は輝いた。長きに渡り人類を脅かし続けている悪魔と唯一対等に戦うことのできる存在。そしてハルシの目指す存在だ。


「お前、剣士なのか! それに、この刀があれば剣士になれるんだな!」

「お前にはなれない」


 表情一つ変えず、少年は言った。


「え? そんなのやってみなきゃ分からないだろ」

「分かる」


 少年はハルシの手から不全刀を奪い取った。すると、何もなかった柄の先から、まるで早回しで見る植物の成長のように、立派な刀身が現れた。


「刀が……生えてきた……」

「不全刀は、持ち主の潜在能力を刀身に具現化する。お前が握っていた時、何も現れなかっただろう」


 ハルシは先程まで不全刀を握っていた豆だらけの手を見つめた。


「そういうことだ」

「でも修行したらきっと!」

「三十年修行すれば、小刀くらいにはなるかもな」

「じゃあ、三十年分の修行を一年ですれば俺も剣士になれるんだな!」 


 少年は明からさまに顔をしかめた。


「馬鹿には尚更無理だ」

「なる!」

「対魔剣士をなめるな!」


 少年は声を荒げ、剣先をハルシに突きつけた。思わずハルシは尻もちをつく。


「俺の兄は刀を振れば大地が震えるほどの剣士だった。だが、悪魔に四肢をもがれ絶命した。何の抵抗もできずに、だ。叔父は生きまま目玉をくり抜かれた。父は死体すら見つかっていない」


 ハルシは唾を飲み込んだ。ゴクリと喉が鳴る。


「お前に悪魔と戦う覚悟はあるのか」

「……」


 ハルシを見下ろす少年の目は、暗く深い海のようだった。


「トウキ様」


 いつの間にか、黒い衣装に身を包んだ忍者のような人が、少年、トウキの横に立っていた。


「神楽通りに悪魔が現れたとの報告が入りました」


神楽通り、ハルシの背筋が凍った。八百屋のばあちゃんの家が近い。


「分かった。すぐに向かう」


トウキはハルシには目もくれず走り出した。


「ついてくるな」


気がつけばハルシも走り出していた。


「八百屋のばあちゃんがいるんだ! 助けなきゃ!」

「お前に何ができる」

「分からないけど!」

「お前……」


 トウキは驚きを隠せずにいた。なぜこの速さについてこれる。トウキは足に流していた妖力をより一層強めた。

 それでもハルシは突き放されるどころか、トウキを追い越さんとしていた。にわかには信じがたいが、ハルシの身体能力は常人のそれではなかった。


「死んでも責任は取らない」

「あぁ!」


遠くで轟音が鳴り、土煙が上がった。二人はより一層足に力を込めた。


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