エクリ・チュールはたしなめられる
翌朝のことである。
エクリの寝ぼけ眼は一瞬にして覚醒した。栞が本に挟まっていたからである。六時間も経過していない間に現象は起きていたことになる。
一時間ほどしてイツヅ担当官と司書官長がやって来た。事情説明をする。つつがなく、蛇足なく。
「なんのために泊まったんだ、エクリ」
あきれ返るとは、まさに今のイツヅ指導担当教官の表情であろうと、エクリは新発見のキラキラしたまなざしを向けるが、今はそれを堪能している場合ではない。
「まあまあ担当官。やはり現象は起こるということが分っただけでも良しとしませんか。危険性があるとも思えませんし。あの場所に保管しておけば、そうそう取り扱いがあるとも思えませんから」
嘆く担当官をなだめる司書官長。エクリは明々白々な解明とはいかなかったが、司書官長が言った通りのことくらいは検証できたわけだ。
「よし! 司書官長! このエクリ・チュールが今度は睡魔に勝って更なる検証結果を導き出しましょう!」
血気盛んはいいのだが、それを聞いてイツヅ担当官はおかんむりになり、
「それよりも今日は使節が来る日だろ!」
たしなめられた。
この日はすでに研究室の学生が参加しなければならない予定が決められていたのである。それを無碍にすることは当然できるわけもなく、エクリは残念そうに、それでも再会を約束して待ち遠しそうな目で、司書官長が持つあの書物に視線を送りながら司書室を出て行った。
ちなみに、司書官長から依頼を受けた同大学の材料学の教官の解析によって、この書物が至って普通の紙でできていることが判明した。エクリが調べたように、昔の紙だとも。それを聞いて司書官長は汗をぬぐった。
「だったらもうやっぱり魔法ですよね、これ」
エクリ・チュールならこんなことを言い通しそうだなと予見できたからである。