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エクリ・チュールは帰る
一泊してから帰路についた。宿は調査の時と同じだった。夕方にはホンマ氏が訪れて来てくれて、これまた抱えきれないほどのお土産を渡してくれた。さらに翌朝支払いをしようとすると、ホンマ氏がすでに宿代を納めてくれているとのことだった。バスを出してくれるシブヤ氏に、ホンマ氏への感謝を重ねた。
出航。遠ざかる島。昨年の姿と違って見えた。輪郭が明瞭で、万緑が少しずつ光り出したその姿を、エクリは甲板でずっと見つめていた。
帰宅して鞄の中身を出した。真新しい書物が出て来た。買った覚えはない。パラパラとめくる。見覚えのある字体と癖のある文体。そして、区切られたページには栞が挟まっていた。あの手記と栞だった。ラングゥに連絡して、司書官長への謝罪はなくなったことに喜んだ。喜んだが、古書が新刊の書物になった説明をどうしようかと、新たに頭を抱えることになった。
一方、拾った桜の小枝は、どこを探しても見つからなかった。