宿の玄関にて
朝食を終え、宿泊施設の玄関先に一同が勢ぞろいした。心なしかラングゥの顔の血色がよくなっている。エクリはキラキラと光る湖面を見つめていた。それは、まるで水彩の風景画に見えた。そして、エクリは手記の中に記されていた短歌の何首かを思い出した。詠み人の声、というより調べが聞こえた。朗々としていながら、讃美歌とも思えるような声。風景が音と同調した。 風鈴が風の代弁者であるように。
「お揃いになりましたら、行きましょうか」
案内役となったのはシブヤという男性だった。促されたのは、
「これまた骨董品みたいな。旧式の移動手段だ。水上バスとは違う形状だ」
ラングゥがやはり教授のようにしてエクリたちに説明し、エクリたちももの珍しそうに体を揺らして見ていたが、情報文化庁の役人には珍しくはないのだろう。出張やらで渡航していれば、何度か乗車しているだろうし。
「これでも現役ですよ。旧式って言ってもシンシ州の交通手段が他地域よりも特殊なんじゃないですか」
シンシ州が水力や水脈を利用したのは、地形を無駄なく生かした結果だ。水運がなければ当然移動手段・機関は当地のそれこそ行政手腕によって整えられるのだ。
「動力は水素だから、昔みたいな化石燃料で空気汚染てこともないし」
シブヤ氏は自慢げに話し、乗車を再度促した。