女子部屋にて
二時間ほどして部屋に戻った。すると、エクリはくりくりとした目を、それ以上にまん丸くさせた。ハロルは赤くなった頬でにやけているし、彼女を肩で支えるフィエはしんどそうな表情をしつつ、やはり驚いて声が出ていないようだ。というのも、出た時と部屋の様相が変わっていたのだ。テーブルは壁際に追いやられ、部屋の真ん中には白く四角い布が三枚敷かれていた。
「なに? なんかの作業する部屋なのかな」
「そんな。一応私たちはお客、なんだよね?」
「んなのいいじゃん。おやすみー」
まったくお構いなしにそこへダイブするハロルなどは、
「あ、なんか柔らかくて、いい匂い」
もう寝落ちしそうである。
「ちょっと怒られるよ。この施設の備品を汚したら」
「客の部屋に勝手に入って広げる方が悪い!」
酔っている者にはかなわないが、それも正論である。
「ねえ、どうしよう、エクリ」
「とりあえず聞いてみよう」
素面の二人がどうしようかと思っていると、ドアをノックする軽やかな音がした。
「俺だ、ラングゥだ。そっちの部屋にも布が敷かれているだろ。そのことで話しに来た」
不審者ではないし、まさにその件を知りたかったので、すでに情報収集を済ませた秀才から話しを聞けるのはもってこいだ。
エクリがドアを開けると、フィアンもいた。枕を抱えている。しかも笑顔で。
「あー、予想通りになってる」
「そうだな。まあこうなるわな。まあ正解だが」
フィアンとラングゥは顔を見合わせ、苦笑いをしている。
「ちょっとなんなのよ。早く教えて」
珍しくフィエが血色は帰る勢いだ。
「それ布団だから」
部屋の中央、ハロルが寝息を立てているところを指さす。
「「フトン?」」
言葉を重ね、首をかしげる女子二人。
「床に敷いて寝るベッドの代わりのものだ。昔はどこでも使っていたようだが、俺たちは使ったことなかったろ」
エクリ、フィエは感心しながら振り返る。白い布団と大の字のハロル。次の瞬間、二人して声を弾ませてそこに駆け込んだ。
「布団かあ。なんかあったかいにおいがする」
「面白いねえ。地面ていうか床に寝るのに、キャンプとかと違う感じだ」
それこそ寝返りをしたり、バタ足をしたりする。
「フィエ、枕なかったろ。それを僕たちが持って来たんだ」
すっかりはしゃいでるフィエにふんわりと放物線を描いて枕を投げる。
「枕があれば、もしかしたらとか思えたんだろうけど、なかったからねえ」
続けて二人分の枕を投げる。エクリはキャッチし、ハロルの分は顔に落ちた。
「あんまり遅くまではしゃいでるなよ。明日からいよいよ」
先生のようなことを言い出したラングゥだったが、最後まで言い終えることが出来なかった。なぜなら、
「うっさい、秀才」
ジト目で憤慨したハロルが枕を投げ返し、それがラングゥの顔面を直撃したからである。
一同は大爆笑した。