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エクリ・チュールは叩き起こされる
そろそろブランチにするにはいい時間になっていた。
「ちょっと嘘でしょ」
フィエが驚愕の色を強くし、
「……」
フィアンがフィエをまじまじと見つめた。さすがに舞台衣装は着ていない。ただ、『ヘンゼルとグレーテル』をすぐに演じろと言われたら登壇できそうな格好ではある。その二人の目の前には、辞書や文献の塀に囲まれたエクリがいた。しかも、
「女の子がいびきかいているのを目撃するとは思わなかった」
机にうっ伏していたのだ。双子とはいえ、フィエがいびきをかいているなんてフィアンは見たことも聞いたこともなかった。どう手を付けていいのか思案をする二人に勢いよく近づく影があった。ハロルである。いつも通りなオリジナルアレンジの民族衣装姿である。この日は、以前は浴衣と呼ばれていた衣装をアレンジしていた。彼女は迷うことなく司書室で熟睡中の同学を文字通り叩き起こしたのだった。