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魔石物語~妖精郷の花籠姫は奇跡を詠う  作者: 宵宮祀花
漆幕◆忘れじの子守歌
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帰還、そして歓迎?

 数日の馬車旅を経て、一行はマギアルタリアに戻って来た。

 遠くからでも目につく花馬車は、ミーチェの帰還をいまかいまかと待っていたアーティカたちに一目で到着を知らせ、一行は停車と共に生徒たちに囲まれた。


「お帰りミーチェ! 怪我はしてない?」

「へいきにゃ。皆強くて格好良かったにゃあ」


 ミーチェは馬車から飛び降りるや真っ先にダリアの胸に飛び込み、ごろごろと喉を鳴らしながらすり寄った。ダリアも当然の顔をしてミーチェを受け止め、喉や頬を撫でてやっている。

 ミアはアーティカの傍まで行くと、にこりと微笑んで「ただいま」を告げた。


「お帰りなさい。ご無事でなによりです」

「ありがとう。……あのね、アーティカに、伝えたいことがあるの」


 きょとんとするアーティカの手を取り、ミアはアルマファブルで后妃と話したことを伝えた。

 ローベリアの実験による犠牲となったアティキア村の子供たちを、アルマファブルの手によって村に帰すと言ってもらえたこと。命を落とした者たちを丁重に弔うと約束してくれたことなどを。


「アルマファブルでも魔石の騒動があったから、すぐにでもとは行かないと思うけれど、それでも出来る限りのことをしてくださると仰っていたわ」

「っ、……ああ……! 本当に……なんて言ったらいいか……」


 アーティカは目尻に涙を浮かべて微笑み、感極まってミアを抱きしめた。

 その背をジェルヴェラが優しく撫でると、堪えきれずに涙がぼろぼろと零れ落ちた。ペンダント一つ戻っただけでもと思っていたのが、故郷に遺体を帰すことが出来るばかりか葬儀まで出来る。ローベリアの有り様を、拉致された子供たちの末路に関する噂を、散々効いて育ったアーティカにとって、この上ない“吉報”だった。

 冒険者用の地図には名前も載らないような辺境の小さな村の子供に対して、これほどまでに厚く手を尽くしてもらえるなどとは夢にも思わなかったアーティカは、ミアやアルマファブルの后妃に対する感謝を涙ながらに零し続けた。


「はぁ……ごめんなさい。あたし、皆さんの前で泣いてばかりで恥ずかしいです……」

「気にしないで。起きたことを思えば当然だわ」


 赤くなった目元を恥ずかしそうに細めて、アーティカは微笑む。友の悲報を聞いたときと比べて随分自然な表情で。ジェルヴェラも安心したようにアーティカと並び立ち、ミアたちに改めて礼の言葉を述べた。

 ふと馬車のほうを見れば、ミーチェがルゥの手を取って大きく振りながら別れの言葉を交わしているところだった。ルゥも拙いながらも懸命に彼女の夢に対して「応援してる」と告げている。

 近接戦闘術の授業でクィンと手合わせをした男子生徒は、いつか自分たちもクィンのように剣と魔術を両立させてみせると決意表明しており、ダリアはそんな男子たちに「それならまず、私から一本取れるようになることね」と笑って言った。

 どうやら彼らの中で、現状最も単純な戦闘力が高いのはダリアであるらしい。ミーチェも大きな猫目をキラキラさせて、男子二人と手合わせの約束を取り付けようとしている。

 街の入口だというのに、まるで学園の中庭であるかのような平和なやり取りに、心を和ませた。

 叶うならばずっとこうしていたいところだけれど、ミアには使命がある。


「ミーチェも無事帰すことが出来たし、わたしたちはそろそろ行かないと」

「そうですよね……あまりお引き留めしては申し訳ないですし、名残惜しいですが……」

「皆様の旅のご安全をお祈りしておりますわ」


 一歩下がり、アーティカとジェルヴェラは晴れやかな表情で一礼する。

 それを見た学友たちも、それぞれヴァンたちから離れてアーティカたちの傍へと並んだ。


「本当に、色々とありがとうございました!」

「ありがとうございました!」


 生徒たちは真っ直ぐ学園へと帰っていった。恐らく、今後旅の途中で出会うことはないだろう。安寧の学園で学ぶ彼らと災厄の魔石を追う冒険者では、抑も交わるはずもなかった線なのだから。


 彼らの背が見えなくなって、誰からともなく歩き出した。

 目下の目的は、情報収集とアイテム補充だ。魔獣馬車のお陰で軽量な冒険用非常食以外の食品を持ち歩けるようになったため、食材も買い足す必要がある。

 マギアルタリアの街は、魔術師のための店が多い。パーティを組んでいる冒険者の中に魔術師がいるかどうかを探るなら、表情が生き生きしている者を探せばいいと言われるほどに、この街には世界でも随一の魔石加工品や魔術用武器、魔術師専用防具である魔装具などが集まる。

 ミアたちはヴァンを除いて魔法種族で構成されている上、そのヴァンも近接戦闘のみの戦い方であるためにマギアルタリアの恩恵に真の意味であずかることはないのだが、ヒュメンが発展させてきた技術の結晶は興味深いものがある。特に、シエルとクィンは魔術補助用アクセサリーに興味をそそられている様子だった。


「綺麗だね。効果が優れているだけじゃなく見た目も華やかで、これは私もほしくなるなあ」


 白銀の縁取りがされた装飾鏡の前でシエルが手に取った髪飾を合わせていると、横からクィンが鏡を覗き込んできた。見目の良い青年二人が、身を寄せ合ってアクセサリーを選んでいる様子に、店内で物色していた他の客が色めき立つ。


「良くお似合いですよ。普段身につけている若草色の魔石も良いですが、此方も良いですね」

「本当? 君に言われると何だか自信が出るよ。折角だし、買っちゃおうかな」


 シエルが選んだのは、白い貝殻を薄く削り出して作った花の髪飾だ。光に透かすと虹色に輝き、得も言われぬ艶を醸し出す。同じ棚に並んでいたアクセサリーを見るに、主に女性向けとして作成されたもののようだが、シエルには全く違和感がないどころか誂えたかのように似合っていた。


「毎度あり。此処でつけていくかい?」

「うん。そうしようかな。執事くん、つけてくれる?」

「はい。……この辺りで良いですか?」


 最初から身につけている月奏樹のサークレットに添える形で、左側頭部に小さな花を咲かせる。他にも雫状の小さな魔石がいくつも揺れる髪飾や風の魔石の耳飾などを身につけているが、それら全てが完璧に調和してシエルの美貌を引き立てている。

 クィンは、改めてシエルの顔を間近で見て、やはりエルフは美の種族だと実感した。


「どうかな? ちゃんと似合ってる?」

「ええ、お似合いです」

「ふふ。ありがとう」


 二人がアクセサリー屋を出ると、斜向かいの店からルゥが何故か大荷物を抱えて出てくるところだった。両腕には手提げ袋をいくつもぶら下げ、大きな紙袋を胸に抱えて、更にその上に何処かの店主らしき人が寄ってきて「これも持ってきな!」と追加する。

 このままではルゥが荷物に埋もれそうだと、二人も駆けつけて山となりつつあった紙袋の一部を受け取った。


「ルゥ、大丈夫ですか?」

「ん、へいき。これくらいなら軽い」


 一つだけでも嵩張るものを大量に抱えながら、ルゥは明るく笑う。

 その様子を見た周囲の人々が、どういうわけかクィンとシエルにも群がってきた。


「アンタたち、この子のお仲間さんかい?」

「ええ、そうですが」

「だったらこれも持ってお行きよ。いやあ、本当にいい子だねえ」

「うちからも送らせてくれ! あんまり旅の邪魔になっちゃ悪いから消え物ばかりだが、長旅には楽しみも必要だろう」


 なにが何だかわからないまま食料品をどっさりと受け取り、付近の店の店主たちと思しき人々に手を振られながら、三人は礼の言葉と共に見送られた。このあと食材を買い込むつもりだったが、その必要がたったいまなくなってしまった。ありがたいにはありがたいが、わけがわからない。

 なにはともあれこれでは情報収集もままならないため、三人は一度厩舎に立ち寄ることにした。

 魔獣の番をしてくれていた職員の視線が突き刺さる。留守番をしていた魔獣も、心なしか三人の大荷物に驚いた様子で首を傾けているように見えた。

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