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魔石物語~妖精郷の花籠姫は奇跡を詠う  作者: 宵宮祀花
幕間◆魔術学園体験入学
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星涙のふるさと

「皆、席に着きなさい」


 ざわめきが残る中、タレイアが教室を訪れた。

 良く通る一声で生徒たちは慌てて席へと散っていき、各々着席する。

 この学園の教室は、前方に教壇があり、それを見下ろす形で扇状に座席が並んでいる。一番前の中央列にジェルヴェラが、その隣にアーティカが座っていて、先ほどミアを取り囲んだ少年たちは一つ列を開けた斜め後ろの席についていた。

 ミアたちはタレイアの誘導で教卓脇につき、改めて紹介を受ける運びとなった。


「既に話は行っているでしょうが、改めて紹介します。此方は、冒険者のミアさん、クィンさん、そしてミアさんの護衛のルゥさんです。アーティカがお世話になったそうで、お礼も兼ねて暫くのあいだ体験入学して頂くこととなりました」


 それからと、タレイアはクィンに一度視線をやり、改めて皆を見回す。


「クィンさんには剣術指導を行って頂けることになりましたので、本日の選択近接戦闘術で剣術を選ぶ人はぜひ現役の戦闘術を学んでください」


 生徒のあいだから、拍手と共に感嘆の吐息が漏れる。

 冒険者の姿自体は学園の外で何度か見かけたことがあったが、彼らは仕事で来ているのであって学生の相手をしているほど暇な者はいない。声をかけるなどとんでもないことで、遠巻きに眺めることしか出来ない存在だった。冒険者にとっても、王立魔術学園に通うような令嬢子息など簡単に声をかけられる存在ではなかったのだが、それはともかく。

 そんな遠い存在が、臨時講師として教えを与えてくれる。魔剣士を目指している生徒を中心に、あからさまに目が輝くのが見えた。


 ミアはアーティカの隣に呼ばれ、クィンは更にその隣についた。ルゥはミアの足元で丸くなっていて、時折耳をピクピク動かしては授業に参加している素振りを見せている。

 魔術学園では、魔石の基本的な取り扱い方や生活での生かし方などの日常的なものから、魔物に襲われたときの対処法や攻撃魔術の基礎知識まで、様々な授業がある。

 タレイアが担当する星の魔術は、星降りの山から採取した星の欠片を使用する。それは星涙とも呼ばれる特殊な魔石で、地上で採取されるどの魔石も代わりにならない。アーティカの故郷の村がマギアルタリアに星涙を収めていて、村の貴重な産業でもある。


「これが、星涙です。星降りの山でしか採取出来ず、また、夜にしか加工出来ないという不思議な特性を持っています」


 タレイアが掲げて見せたのは、両端が尖った六角柱のような形に磨かれた青く光る鉱石だった。薄ぼんやりとした輝きは、夜空の星によく似ている。この石は年に二回夏と冬に星涙雨となって、星降りの山に降り注ぐのだという。


「星涙雨の夜はアティキア村などで星祭りも行われ、大層賑わうそうです。アーティカ、確かこの村はあなたの故郷でしたね」

「は、はいっ」

「星祭りについて、お話頂けますか」

「わかりました」


 予め今日の授業で取り扱うことを伝えてあったのか、アーティカは立ち上がって一枚の紙を手に話し始めた。


「あたしの故郷アティキア村は、星売りを生業にしています。大人も子供も星降りの山に登って、星涙専用の籠に詰めて持ち帰るんです。星祭りは、村人が星の恵みを山に感謝するお祭りです」


 星祭りの夜は、一晩中山に星が降り注ぐため、空がとても明るい。

 村の広場に祭壇を組み、村で採れた野菜や果物などを使った料理を大量に並べ、大人たちは酒を飲みながら、子供たちは滅多に出来ない夜更かしにはしゃぎながら、夜通し歌い踊る。村に伝わる伝統の歌と舞踊は、古代の星巫女が村に恵みをもたらさんと願って歌ったものだという。


「星巫女は毎年村の女の子の中から選ばれます。踊りが一番上手な証でもあるので、あたしも毎日練習したんですよ」


 アーティカは「結局あたしは、星巫女の補佐である舞巫女にしか選ばれなかったんですけど」と照れくさそうに笑って。それから少し寂しそうな顔をした。


「集めた星涙は、夜に特別な道具を使って加工されます。その道具っていうのが、星涙で作られたものなんです。魔石としての力を失った石……輝石が道具として使われているのは皆さんご存知の通りですが、星涙も例外じゃないんです。ただ、一般に出回ることはないと思います」

「どうして出回らないの?」


 翼人の少女が軽く手を挙げて問うと、アーティカは其方へ視線をやりつつ「普通の道具としては使えないの」と答え、改めて前を向いた。


「星涙は加工しやすいんだけど、日常使いするにはとても脆いんです。アクセサリに加工するにもすぐ傷ついちゃうし、ナイフや食器なんて以ての外。だけど、星涙を加工するときだけはすっごく優秀な道具になるんです」


 アーティカはローブのポケットから小さな青いナイフを取り出した。やわらかな布と丈夫な革で作られた鞘に収まったそれは、輝石となったいまでも星涙と同じ淡い輝きを帯びている。


「厚みのあるこのナイフで、星涙を加工します。不思議とナイフは削れなくて、星涙だけが削れる様はいつ見ても不思議なんですよね」


 最後にアーティカは、母から持たされたというブローチを取り出した。星涙部分には小さな傷が刻まれているものの、大事にされていることがわかる綺麗なブローチだ。


「村の子供は一人前の証に村長からペンダントをもらいます。あたしも村を出るときにもらって、いまも大事にしています。アクセサリにはならないって言ったのは、傷が付きやすくて売り物には向かないだけで、気にしないならこれはこれで綺麗だと思うんですよね」


 あたしからは以上です。そう言って礼をしたアーティカを、生徒たちの拍手が包む。


「ありがとう、アーティカ。発表にもあった通り、星涙の特性を理解した上で使用すればこれほど便利な魔石はありません。それに、とても美しい魔術だと個人的には思いますよ」


 それから星の魔術の中でも、基本的な術の使い方を教えると、タレイアは休憩時間を告げた。


「次は選択戦闘術訓練を行います。近接戦闘術は第二訓練場、星魔術は聖堂の裏庭、調教術は第一訓練場に集合してください」

「はい!」


 号令ののち、教室内の空気が緩む。と、ミアの前に、朝も群がってきた四人組が近寄ってきた。


「ねえねえ、お花ちゃんはどれ選ぶにゃ?」

「どれって言っても、ミアは近接戦闘って感じじゃなくね?」

「番犬がついているなら、調教術の授業でしょうか」

「星の魔術も綺麗よ。アーティカたちも選択していたわよね」


 唐突に話題を振られて驚いたアーティカが、移動の準備をしながら頷いた。


「もし良かったら、ミアさんも星魔術を学んでみませんか? 魔法種族に魔術っていうのも何だか不思議な感じですけど……故郷の魔術を知って頂きたいです」

「そうね。……ねえクィン、いいかしら」

「ええ。どうぞ、お心のままになさいませ。私はまた暫く別行動となりますが、なにかあればすぐお呼びください」


 そう言うと、クィンはミアの前に恭しく跪き。


「私の魂は、常にミア様のお側に」


 白い指先に口づけをして、迎えに来た近接戦闘術の教師と共に去って行った。

 そのとき、主に女子生徒から羨望と感嘆の溜息が漏れ、熱っぽい視線が二人へ注がれたのだが、当人たちは日常の一部のつもりでいたため、全く意に介していなかった。

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