新たな絆と共に
――――翌朝。
「よーしよし、あんまり会いに来れなくて悪かったなァ」
馬車を牽引する魔獣を撫でながら、ヴァンが餌を与えているのを、ルゥが興味深そうに見つめている。街に着いたときヴァンが馬車を預けた駐停所は、何の偶然かノエ一族が経営しているところだったらしい。
充分に良質な飼葉と綺麗な水を与えられていたらしく、機嫌も毛並みも良い。
「オマエたちの馬車、デカいなー! これ、おれも乗っていいのか?」
「おう。席なら充分あいてるぜ。けどお前さんにゃ、制御も覚えてもらいてえから、広いところについたら練習してもらうぜ」
「わかった! よろしくなー!」
ヴァンに倣ってルゥが魔獣の頭を撫でると、魔獣は鼻を鳴らしてすり寄った。
どうやらルゥも仲間として認められたようで、撫でる度に気持ちよさそうに目を細めている。
「早速仲良しになったのね。やっぱり、とても人懐っこい子なのかしら?」
ルゥと魔獣が戯れる様子を見てミアが和んでいると、横から「そうでもありませんよ」と男性の声がした。見れば声の主は駐停所の職員で、飼葉の束を抱えている。
「そうなの? もしかして、なにか、ご迷惑を……?」
「いえ、とんでもない。ただ、我々職員にはあのように愛想良くはありませんでした。かといって攻撃されるなどということもなく、ずっと大人しくしていましたよ」
そう言ってから、職員の男性はやわらかく微笑んでミアを、それから魔獣を見た。
「彼なりに、寂しかったのでしょう。とても喜んでいますよ」
その言葉を聞くや、ミアはパッと駆け出して魔獣の首元に抱きついた。
ルゥのこと。初めての街で落ち着けなかったこと。理由は色々あるが、世話を職員に任せきりにした上、様子見をヴァンがしてくれていたことすら、ミアは気付けなかったのだ。
「ごめんなさい。わたし、ずっと自分のことで精一杯だったわ」
もふもふの毛並みに埋もれて呟くミアの頭に、大きな手のひらが乗せられる。チラリと見れば、ルゥが不器用な手つきでミアの髪を撫でていた。
「コイツ、喜んでる。おれもうれしい」
「これからは一緒にいられるわ。ルゥも、この子も」
出航の時間を知らせるベルが鳴った。
魔獣馬車は専用のエリアに収容され、また暫くは別々になるが、街で離れていた時間を思えば、あっという間だ。
「皆様、どうかお気をつけて。良い旅を」
職員の男性が、深く一礼する。
ミアたちは舷梯を渡って甲板に乗り込み、街を一望した。
別の奏空挺から吐き出される冒険者たちが、それぞれ闘技場を目指して歩いて行くのが見える。遠くで歓声があがり、何処かで諍いの声が飛び交う。
賑やかで、荒っぽくて、楽しいことも哀しいこともあった街が、遠ざかって行く。
「おれ、この街が好きだ。……好きだったんだ」
風に紛れて、ルゥの声が雨だれのように落ちる。
「また、好きになれるかなぁ……」
「ええ。なれるわ、きっと。いつか、また」
大陸を渡る奏空挺が、アンフィテアトラを地平の果てへと送るまで。
ルゥとミアは寄り添い合ったまま、甲板の風に吹かれていた。
【竜人族】
遥か北方、険しい山岳に囲まれた砂塵の国で生まれ育つ魔法種族。
古代種(神代種族)の一つでもあり、基本的に自身の出自に誇りを持っている。
種族の特徴として、虹彩が鋭いほかに肌がうろこ状だったり角や尻尾が生えていたりする。
人化の能力を持つ者はヒュメンに近い姿をとりヒュメンの街で生活したりもするが、殆どが故郷で生まれて故郷で生き、故郷で死ぬ。
近年、堕落した竜人族と呼ばれる、竜人にもヒュメンにも害をなす存在が現れ出している。
彼らは力に溺れ、力を誇示し、力で以て他者を食い物にすることに喜びを覚えるようだ。




