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ただ幼馴染が美少女なだけなのに!

作者: Cost

短編なので気軽にどうぞ

【幼馴染がカースト上位に君臨している】も連載中です。

もし良ければそちらの方もよろしくお願いします。(ちょっとドロッとした人間関係が好きな人におすすめです)!

黒地(くろち)ツカサ!俺と勝負しろ!」


 そう言って俺に勝負をふっかけてきたのは学年一の秀才として有名な小沢(おざわ)タクミだ。うちの学校は毎回テスト上位者の名前が貼り出されるのだが、彼の名はいつも一番上にある。

 少々自信家だがルックスも悪くないので、女子からは好かれ一部男子からは妬まれている。

 そんな有名人の小沢がごくごく平凡な俺に何の用かと思ったが、心当たりがなくもない。


「えっと、小沢だよな?いきなり勝負しろって言われても意味わかんないんだけど」


 ただいま昼休みの真っただ中。できるだけ注目を集めたくない俺は落ち着いて対応する。小沢の知名度と声のボリュームで時すでに遅しだが。


「とぼけるな!天彩さんのことだ!」


 ああ、やっぱりか。

 皆まで言わなくても「天彩」という名前を聞けばおおよそのことは理解できた。そして想像通りであれば、また面倒なことに巻き込まれたようだ。

 俺が頭を抱えてため息をついていると、「おい聞いてるのか?」とさらに熱をもつ小沢。


「わかったわかった。んで、何で勝負するんだよ?」


「無論、テストの点数に決まってるだろ。来週のテストの合計点数で勝負だ。おっと俺に有利だとか言うなよ?テストは公平だし、それにこれは天彩さんが選んだ方法なんだからな」


 また無茶苦茶なことを……。予想はしてたけどヒメカのやつ、もう少し俺のことも考えてくれよ……。


「どうせ俺が勝つけどな。ま、正々堂々お互い頑張ろうぜ」


 小沢は自信満々な笑みを浮かべ教室を出ていった。その背中を眺めながら二回目のため息を吐いていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴っていた。





「おいヒメカ。お前また告白されただろ?」


「ええ、されたわよ」


「その時またなんか余計なこと言っただろ?今日昼休みにお前のクラスの小沢ってやつが俺んとこきたぞ」


 いつもと同じ帰り道の道中、俺は隣を歩く人物に今日の出来事を問い詰める。


「ええ、言ったわよ。いつものことじゃない。何か問題でも?」


 すました顔で俺の問いに答えたのは、俺の幼馴染であり今日のトラブルの発端となる人物、天彩(あまいろ)ヒメカだ。


「だからいつもいつも言ってるだろ?俺を巻き込むなって」


 そう、俺がこのようなトラブルに巻き込まれるのは珍しいことじゃない。過去にも天彩ヒメカによって同じように巻き込まれたことが何度かあった。その都度俺はヒメカに注意をしているのだが、この様子だと俺の言葉は届いてないようだ。


「はぁ……ツカサは全然わかってないわね。何回言えばいいのかしら」


 え?俺被害者ですよね?なんでヒメカが「やれやれ」みたいな顔してるんですか?

 ヒメカは説教するかのように俺に語り始めた。


「もう知ってると思うけど私はモテるわ。これまで数多の男の人から告白されてきたわ」


 もちろん知っている。ずっと隣で見てきたのだから。

 天彩ヒメカは美少女である。その美貌は芸能人と言われても違和感がないほどだ。それに加えて俺以外の前では性格も良く、文武両道、そこそこ家柄もいいので上品さも兼ね備えている。品行方正、才色兼備、そんなヒメカを周りの男が放っておくわけがない。


「だからと言って付き合うなら誰でもいいわけじゃないわ。私はその中でもより素敵な人を選んで彼氏にしたいの。恋人なんて生涯一人で十分なんだから」


 ヒメカは多くの人から好意を寄せられるが、とっかえひっかえしているわけではない。意外にもヒメカの貞操概念は純情そのもので、これまでに付き合った経験は一度もない。それがトラブルの原因でもある。


「だから告白してきた人たちを比べるのは当たり前でしょ?性格や相性は当然だけど、その人の能力も将来に関わってくるのだから」


 その言い分もわからないことはない。悪く聞こえるかもしれないが、選べる立場ならよりいい方を選ぶのは当たり前だ。


「私の男性の基準はツカサ、あなたよ。一番長くいるのだから当然ね。だから私が告白された時にツカサを引き合いに出すのは当然よ。あなたより優れている人がいれば今度はその人を基準にするのだけど、今までそうなったことはないじゃない。ということは現時点で私の知る限りツカサがいい男ってことよ。喜びなさい」


 ここが問題だ。ヒメカのこの考え方のせいで俺は何度も振り回されてきた。

 俺とヒメカの家は隣同士で物心ついた時からずっと一緒に過ごしてきた。幼い頃から一緒なだけあって、いつの間にかヒメカは俺が相手だと遠慮なくわがままを言うようになっていた。俺自身もヒメカに頼られるのは嬉しかったので文句を言いながらも言うことを聞いていた。

 ヒメカの態度が俺だけ違うのに気づいたのは中学に入ってからだ。そしてその時期から以前にもまして男から言い寄られるようになった。その度に俺は相手と比べられてきたというわけだ。ある時はサッカー部のエースとサッカーで対決させられ、ある時は学校一の不良と殴り合いをさせられたこともあった。ヒメカは告白してきた人の秀でた部分で競わせるので、俺からしたらいつも不利な状況だった。それでも勝つために自分を鍛え上げ、今まではなんとか勝ち抜いてきた。

 ここまで聞けば「だったら早く負ければいいのに」と思う人もいるだろう。確かに俺が負ければその瞬間からお役ごめん、用済みだ。振り回されることもない。だがそんなに単純な話でもない。俺がヒメカの為に頑張るのは幼馴染だからだけではない。


 ――――――俺もヒメカのことが好きだから。


「その話は何回も聞いたけど……そんな決め方でいいのか?」


「もちろんよ。この方法だと必然といい男と付き合えるでしょ?」


「そもそも競う内容が毎回違うのはどうなんだ?」


「そうね……いつもツカサが勝つからあまり考えなかったけど、ツカサが負けたら今後はその時の方法で競うのもありね。まあ相手にもよるけど、そこは総合的に判断してもいいわ」


「……もし俺が小沢に負けたら、今度からはあいつが基準になるんだよな」


「ええ、そうね」


「……そしたら俺は用済みか」


「……そうなるわね」


 俺はヒメカが好きだ。その美貌や取り繕った性格などの上辺の部分だけでなく、俺にしか見せない傲慢でわがままな素の部分も含めて大好きだ。だからこそ俺以外に素の部分を見させないために、俺がずっと基準であるために努力してきた。

 でも最近、この想いは俺の一方的なものなんだと思うようになった。どれだけ頑張ったところで一度でも負けてしまえば、その頑張りは無意味なものになる。そう考えると虚しくもなってくる。


 ――――――俺はヒメカを好きなままでいいのだろうか?このままヒメカを好きでいられるだろうか?


「急に黙ってどうしたの?」


「いや、別に……」


 俺が渇いた返事をして空を仰いでいると、ほっぺをつねられて鈍い痛みが走った。


「痛い痛い痛い痛い!なにすんだよ!」


「あなたまさか手を抜くつもりじゃないでしょうね?そんなことしたら許さないわよ!」


「んなことしないって」


「ふん!どうだか……。まあいいわ。帰ったら一緒に勉強するわよ」


「え?」


「え?じゃないわよ。いつもやってるでしょ?」


「今回は勝負だろ?いいのか?」


「別にいいわよ。どう勉強しようが構わないでしょ?というかツカサはいっつも最低限しかやらないんだから、今回は本気で取り組みなさい。その見張りも兼ねて毎日するわよ」


 俺が何か言うならば十倍になって返ってくるのでそれ以上は何も言わなかった。

 その日から短い期間ではあったが、ヒメカと真剣に勉強に取り組んだ。今回のヒメカは何故かいつも以上にスパルタだった。娯楽は一切禁止、睡眠時間の管理までされた。集中力が切れると逃げ出したくもなったが許されるはずもなく、そんな毎日がテストの最終日まで続いた。

 駄目押しにヒメカのあんな表情を向けられたら……。







 テストは滞りなく進み、あっという間に終了した。土日を挟み、テストの返却と同時にもうすぐ結果が貼り出される。

 俺自身今までの成績が悪かったわけでもないが、今回のテストはそれ以上に手ごたえを感じている。毎日鬼のような形相で横に座るヒメカのおかげというかせいというか。ちなみにヒメカの成績は学年トップの小沢とほぼ同じくらいだ。なのでヒメカと一緒に勉強していれば小沢に勝つというのも不可能ではない。可能性は限りなく低いが……。


「おい!貼り出されるぞ!」


 テストの度に毎度貼り出されるタイミングを各クラスに報告して回る謎の部隊が今回も報告して回っている。それを合図に大勢の生徒が掲示板のある広間に集まってくる。俺もその中の一員として前列で待機していた。

 後ろから人混みをかき分けて俺の隣に来た人物がいた。その人物はヒメカだった。

 上位に名を連ねる人は暗黙の了解で優先されるようになっている。ヒメカのオーラと相まって前列に来るのは簡単だったようだ。


「何回も聞くけど、真剣にやったのよね?」


 テストが終わってから同じ質問を文字通り何回も聞かれた。ヒメカ曰く、公平に比べるのが目的なので告白した小沢はもちろん俺も手を抜くことは許されないのだ。


「だからやるだけやったって。でも相手が相手なんだから負けても手を抜いたなんて言うなよ?」


「それは私が決めるわ」


「……だいたい俺が手を抜こうが小沢の点数が良ければそれで文句ないだろ……いてっ!」


 俺の気持ちを知らないヒメカにせめてもの抵抗として聞こえないように呟いた皮肉はしっかりと聞かれていたようだ。足の甲に踵で踏みつけられたような鈍痛が走った。

 俺が痛みに気を取られて下を向いていると、ちょうど結果が貼り出されたようだ。周囲のざわつく音だけが耳に入った。とやかく言いながらも気になっている俺はすぐに顔を上げて結果を確認する。

 小沢と競うとなると一番上の名前から確認していくのが手っ取り早いだろう。


「えーっと一番上は……え?」


 一番上に記されていた名前は俺でも小沢でもなかった。そこに記されていたのは天彩ヒメカという名前だった。


「ヒメカが一番じゃないか」


 当然ヒメカもそれを確認しているはずなのだが、当のヒメカの反応は薄かった。それを見て俺も勝負のことを思い出した。

 そうだった。大事なのは俺と小沢の順位だ。

 すぐに目線を掲示板に戻し確認を続ける。だが、すぐに俺たちの順位はわかった。なぜならすぐ下に俺たちの名前が書かれていたからだ。その順番は上から、小沢タクミ、黒地ツカサ、となっていた。


「俺の負け……か……」


 前回の結果と比べれば大健闘、もとより勝ち目の薄い勝負だった、仕方のないこと、自分に言い聞かせるように様々な言葉が頭の中で飛び交っていたが素直に受け入れることが出来ずにいた。覚悟はしていたつもりだったが、どこかで本気で勝てると思っていたのかもしれない。今までもそうだったのだから。

 ああ、これで終わりか……。ついにその時がきたのか……。案外あっけないもんだな……。


「―――カサ?ツカサ?聞いてるの?」


「へ?あ、悪い……なんだった?」


 思っていた以上にショックを受けていたのでヒメカが俺を呼んでいたことに気づいていなかった。


「しっかりしないさいよ。まったく……まああなたが何を考えていたのかはだいたいわかるけど」


「……そりゃ俺だって色々思うだろ。俺なりに本気で勉強したんだから、小沢が相手でも悔しいもんは悔しいんだよ」


 悔しいと思うのは「勉強したから」だけではないのだが、それをヒメカの前で口にするなんて出来るわけがない。本当は今だって目の奥でこみ上げてくるものをせき止めるので精一杯なのだ。早く人目につかない場所に行きたい。


「やっぱり……そうだろうと思ったわ。ツカサ、名前の順序だけじゃなくて横の数字までしっかり見なさい」


「どういう……もしかして」


 ヒメカの言葉を聞いて思考が混乱しながらもある可能性がすぐに浮かんだ。同時にもう一度掲示板に目線を戻すと、ヒメカの言っていた意味がすぐにわかった。

 小沢の下に俺の名前が書いてあるのは変わりないが、その横の順位を表す数字と点数を表す数字が全く同じだった。つまり、俺と小沢は同率二位だったのだ。


「勝手に負けたと思ったのかもしれないけど、ツカサは負けてないわ。引き分けよ」


 普段なら絶対にこんな早とちりはしないのだが、勝負に囚われすぎていて勘違いしていた。その瞬間胸の底から安堵や歓喜が入り混じったよくわからない感情が一気に湧き上がった。


「ヒ、ヒメカ!これって……」


「落ち着きなさい。この話は小沢君も交えて話すわ。放課後、校舎裏に来なさい」


 安心したのも束の間、一番気になる勝負の行方は放課後に持ち越しとなった。

 結局俺は負けてはいないが勝ってもいない。判断するのはヒメカなんだ。







 放課後、校舎裏にはすでに小沢とヒメカが待機していた。ヒメカには「遅い」と言われたが、俺は授業が終わってすぐに来たので君たちが早いだけで俺は遅くない。口には出さないが心の中で強く思った。

 集まっていの一番に口を開いたのは小沢だった。


「天彩さん、改めて僕と付き合ってください」


「待て待て待て。勝負の話はどこ言ったんだよ」


「勝負はその……何かの間違いだ。じゃなきゃあんな……とにかく、こんな奴より俺のほうが天彩さんに相応しい」


「こんな奴とは酷い言われようだな。そもそも俺が勝ったところで付き合うわけじゃないが、引き分けなのは事実だ。何かの間違いって言うならお前はヒメカの点数にもケチつけるのか?」


「ぐっ……でもたったの一回だ。それに負けたわけじゃない。今までは俺が一位だったんだ。それは紛れもなく俺の学力を証明しているはずだ。つまり総合的に判断するなら俺の方が勝ってるはずだ」


 小沢の言っていることは多少強引だが頷ける部分もある。それほど実績というのは説得力がある。以前の結果は今回の勝負には関係ないのだが、引き分けなので判断材料にするのはありえる話だ。

 せめて俺が勝っていれば……。


「それは違うわ。あくまで勝負は今回のテストの結果よ。それまでの成績は関係ないわ。それに今まで一位だったからって勝っているわけではないわよ。ツカサの肩を持つわけじゃないけど、彼は今まで本気で取り組んでなかったもの。現に今回は小沢君と同率で二位だったでしょ?むしろ急に本気で勉強してこの結果なら、今後はもっと伸びる可能性もあるわ」


 俺が言いたくても言えないことを言ってくれたのはヒメカだった。しかもそれだけじゃなくそれ以上のことも付け加えてくれていた。正直これまでも自分なりに勉強はしてきたし、伸びるとも思っていなかったが、ヒメカが言ったことなので何食わぬ顔で聞き流しておいた。


「そ、そんな……でも……」


「言ったはずよ。『勝ったら付き合う』って。でも引き分けだった以上私が判断するわ。ごめんなさい、あなたとは付き合えません。今日はそれを伝えるために来てもらったの」


 もともとヒメカははっきりとものを言う性格だ。告白を断る時もなんの躊躇もない。告白された際の約束や条件がある分、割り切るのも簡単の様だ。今までも同じ光景を何度か見てきたものだ。

 あまりにもスパッと切れ味良く言われた小沢は口をパクパクさせて何か言おうとしていたのだが、言葉が見つからなかったようでしばらくすると無言で立ち去った。去り際の背中は哀愁が漂っていて、同情してしまった。


「これで良かったのか?」


「ええ、そもそもあなたのことを『こんな奴』って……いやなんでもないわ。帰りましょ」


「今思ったけど俺が来る必要あったか?」


「あなたも勝負に絡んだのだから告白の返事は知っておくべきだわ。それにどうせ一緒に帰るんだからどこで待ってても同じでしょ?」


「一緒に帰るのは決まってるのかよ」


 そんなことを言いながらもヒメカの当たり前に俺が含まれていて少し嬉しかった。

 今日は家に着くのが早く感じた。あえてなの、お互い放課後の出来事に触れなかったのがそう感じた原因かもしれない。

 俺とヒメカの家は隣同士だが、いつも俺はヒメカが家に入るのを見てから帰るようにしている。小学校からずっとそうしてきた。だが今日のヒメカはすぐには家に入らなかった。扉の前で立ったままこちらを見ている。俺もまたヒメカの家の前から動かずにヒメカと目を合わせていた。


「なあ、もし小沢が一点でも俺より勝ってたら……やっぱり小沢と付き合ってたのか?」


「……そういう約束だったものね。でも勝てなかったから断った、それが事実よ。それでいいじゃない」


「本当にいいのか?ヒメカは俺をやればできる奴と思ってるかもしれないけど、実際維持するのは難しいと思う。能力的な問題だけじゃなくてやる気の問題でもあるけどな。それに比べて小沢はずっとトップを維持してきた。あんまり言いたくないけど、もし本当にいい男を選ぶなら―――」


「うるさいわよ。私が決めたんだからそれでいいの。仮に同じくらいの賢さだったとしても性格で比べればずっと一緒にいたあなたの方が相性いいのだから断って問題ないわ。というか今回に関しては二人とも私より下だったんだからどっちが勝とうがお断りしてたわよ。ツカサもこれっきりじゃなくて今後も真剣にやりなさい。私よりも上じゃないと許さないわ」


 最後の方はよくわからないが、腕を胸の前で組んで俺に厳しい言葉をかけるのはいつものヒメカだった。傲慢でわがままで厳しい、俺にしか見せないヒメカの一面。

 でもヒメカが俺にしか見せない表情は他にもある。テスト勉強の時に時折見せた表情もその一つ。ほとんどは鋭い眼差しで俺を監視していたのだが、俺のやる気や集中力が切れて本当に諦めそうになった時に見せていた、しおらしくただ「お願い……」とだけ呟くあの表情。あんなのを見せられたら……。

 そして今回も……。


「まあでも……今回はよく頑張ったと思うわ。ありがとう、ツカサ」


 そう言ってヒメカは優しく笑った。その笑顔はあどけなくも美しかった。

 ヒメカの性格も表情も、誰にも知られたくない、全部独り占めしたい。


 ――――――俺はやっぱりヒメカが好きだ。


「あーもう!次から俺を巻き込むなって言ってもどうせ聞かないんだろ?だったらとことんやってやるよ!」


「ようやくわかったのね。フフ……これからもよろしくね」


「でも頻繁にはやめてくれよ?一回一回楽じゃないんだから」


「それはわかんないわよ。でも頼りにしてるわ。じゃあまた明日」


「おう、また明日」


 そう言ってようやくお互い背を向けた。

 今日の出来事で最近もやもやと曇っていたものが晴れた気がした。ヒメカへの思い、ヒメカ自身の気持ち、自分への自信の無さ、色々と内面で渦巻いていたものが完全に消えたわけじゃないが、悩んでいたって仕方がない。俺はヒメカのことが好き、それだけで勝負に挑む理由は十分だ。


「勝ち続けて俺がヒメカの一番の男であり続ける!」


 ヒメカの前で直接言えないのが情けないが、その気持ちを胸に秘めたまま家に帰った。




「私はツカサが一番だって信じてるわ。私の生涯で一人の恋人はあなたって決めてるんだから、これからも勝ち続けてよね」







「黒地ツカサはいるか?俺と勝負しろ!」


 翌日の昼休み、扉が勢いよく開いたと同時に太い男の声が教室に響いた。


「おいおい……昨日の今日で嘘だろ……」


 俺を見つけるや否や近づいてくる男。


「天彩さんに聞いてきた!俺は野球部の堂島(どうじま)マサルだ!俺と野球で勝負しろ!」


「もう少し俺を休ませてくれー!」


 まったく、ただ幼馴染が美少女なだけなのに……俺の忙しく振り回される日々は当分続いていくのだろう。

読んでいただきありがとうございます。

面白ければ評価していただけるとありがたいです。


そしてこの度ご報告があります。

なんと連載中の【幼馴染がカースト上位に君臨している】が五月に書籍化していただくことが決定しました。詳細はまだですが、興味があるかたは是非ご一読していただけると嬉しいです!

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[一言] 主人公スペック高いし他の可愛くて優しい女の子探した方が絶対幸せになれると思うよ。 将来色々疲れ果てて幸せになれる気がしない。付き合えたとしても多分楽しいのはその時だけだよ。
[気になる点] ヒロインが何様のつもりなんだこいつってイラっとするのは置いておくとしても たとえ負けてもあなたがいいって言えない女のままならこの女と結ばれても男はいつかもっとスペック高い男に乗り換えら…
[一言] ヒロインに好感が持てませんでした。
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