O.P.2 静かなる夜明け 第1章 …挨拶…
親の心子知らず
ということわざがある
確かにそうだ
親にはなっていないけど
その心が今はすごく理解出来る
毎日思うから
教える者の気持ちを
教わる者はわかってくれているのだろうかと
by佐伯
O.P.2 静かなる夜明け
第1章 …挨拶…
両親が死んでから、
15年。
修は何故かこんな言葉が頭に残っている。
「今回で2人殺したがな…。」
誰の言葉かもわからない。
どこで聞いたのかもわからない。
ただ一つ感じることがある。
両親が死ぬ瞬間だったのだと。
そう信じている修は、
誰も死なさない医者を目指そうと小学生ながら決心した。
親がいなくなってから15年間必死に勉強し、医学部に合格した。
それも、東條大学だ。
彼は6回生だ。
卒業式を明日に控え、実習先の病院へ足を運ぶ。
といっても、東條大学病院なのでさほど遠くはない。
通常ならば卒業から研修医になるまで少し期間があるのだが、
病院側の都合により、卒業式の日から研修医として働くことが決まっていた。
研修医1年目はあちこちの科を回ることになっている。
いわゆる「スーパーローテート」だ。
修は病院に着くなり、院長室へ向かった。
ドアをノックする。
緊張でロックの音よりも心拍音の方が大きくなりそうだ。
返事はない。
しかし、修は焦らない。
いつものことだからだ。
もう一度大きな音でノックする。
やはり、応答はない。
「東條大学の林です。失礼します。」
そう言ってドアを開けた。
案の定、院長は椅子に座っていた。
「あぁ、どうぞ…すまないねぇ、明日から研修になって。」
院長がやっと重い口を開く。
「佐伯教授、何の問題もありません。
受け入れてくださり、ありがとうございます。
むしろ、早く研修を開始できて嬉しいです。
今日はそのことで少しご相談があり、伺いました。」
修は少し早口になる。
「そうかいそうかい。相談って何だね?まさか、研修やめたりしないよね?」