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第11話 はっが おぶ だんじょん

*Side Mary


 きっと最初に見かけた人を殴ると最初から決めていたのでしょうね。話を聞くとか一切しませんでしたもの。

 

 ほら見てくださいあの満足そうな顔を。全て収まった見たいな顔をしてますけどまだ始まってすらいないのよ。貴女は始める前に終わらせたのよ。決して声には出しませんが。


「全くせっかちさんだね。まずは話をしようよ。ここまで来た冒険者は百年ぶりなんだから」

「その試すような話し方が気にくわんのだ! 我を誰だと思っておる!」


 三馬鹿のため口は許すのにそれは許さないのね。対等は許すけど上からは許さないと。よくわかりませんね。王たるプライド故なのでしょうか。


「これは失礼した。君は?」

「我はエルトリート! 魔王だ!」


 異世界の。


「魔王? 僕の記憶にあるのと違うようだが」

「この世界のは知らん! 我は異世界の魔王だ!」


 エルがそういった瞬間、男の目の色が変わった。反射的に身構える。 


「異世界!! そう言ったか!!」

「言った! だがそれよりお前も名乗れ!」


 会話が噛み合ってんだか合ってないんだか。エルは当然としてあの男もなかなかですね。


「僕の名前はハッガ。ただの研究者さ」


 うん? ハッガ?


「ハッガってあの……?」


 ユエもピンときたようだ。というかエル以外は気づいたみたい。


「そう。このダンジョンの主さ」


 あっさりと彼はそう言った。


「とは言ってもダンジョン部分は僕の管轄じゃないけどね。あれは勝手に出来たものだから。僕はただここで魔法の研究をしてるだけ」


 だからダンジョンで仲間が死んでいたとしても許してね。そう言いたげな口ぶりだ。


「ああでも、地下に置いてた魔物達は確かに僕のだ。でも許してくれ。そうでもしないと僕の安全が守れないんだから」

「つまり我を試していたのはお前と言うことだな」


 あ、駄目です。エルの怒りが再熱しそう。


「はいエル。そこまで」


 流石にもう一度殴り飛ばすと話が面倒になりそうなので間に割って入る。


「止めるなマリー」

「エル」


 エルの右肩を掴む。幸いにもこれで止まってくれた。


「また今度ね」

「……わかった」


 あのハッガとかいう男も大概にして欲しいですね。エルが本気で怒ったら私じゃ止められないんですから。今回は怒り八分だったようでギリギリ止まってくれましたけど。


「王が試されては配下に示しがつかんのだ。二度はないからな」


 エル、というより王の思考なんでしょうね。まあ普段から王の威厳なんてあって無いようなものですけど。


「すまない」


 ということで仕切り直し。


「先ほども言ったように僕は魔法研究者だ。専門は時と空間。最近の研究テーマが異世界渡航でね」


 なるほど。私達がドンピシャだと。


「貴方たちは非常に興味深い。是非とも話を聞かせてくれないか」

「話って言ってもなぁ。開発したのはバトラーだし。我らはその原理を全く知らん」


 なあ、という顔でこちらを向くエル。


「私は少し聞いたことあります」

「本当かい!?」


 前にバトラーが延々と語るのに巻き込まれたことがある。大半は理解出来なかったけど。

 ええと確か。 


「魔素同士を世界間で繋げるとか。魔素にも性質があって、ちょうど凹凸のようにかっちり嵌る異種の魔素が存在して……ごめんなさい。この先は覚えていないわ」


 如何せん興味の無いことだったので記憶が曖昧だ。


「魔素の性質……? 魔素そのものに仕掛けがあると言うのか?」


 ハッガは顎に手をやるとすっかり考え込んでしまった。


「ありがとう。とても参考になったよ」


 とってつけたようなお礼を受け取る。


「そうだ! お礼に僕の研究成果も少しだけ見せてあげよう」

「いいのですか?」


 そう反応したのはユエだ。


「研究者にとって成果は命よりも大切なものではないのですか?」

「勿論そうさ。だから少しだけ。それにどうせ君たちは原理を理解出来ないだろう?」


 確かにその通りなんですけど、面と向かって言われるとちょっとイラッときますね。


「僕の専門は時と空間。これはさっき言ったね。この二つの関係性というのは非常に面白くて、共依存のようになってる。どちらかが欠けるともう一方も成り立たなくなるんだ」


 もうこの時点で半分ぐらい理解出来て無いんですけどね。どちらかが欠けるってどういう状況なんでしょう。

 エルの方を見ると呆けたような顔をしていた。完全に興味を失ってますね。


「結果を先に見せようか。まあ、こうなる」


 次の瞬間、ハッガは私達の後ろに回り込んでいた。


「!?」

「時間をいじれば空間が歪む。単純なことさ」


 瞬間移動。誰もが望み、到達できなかったその領域に踏み込んだのか。


 エルが不気味に笑っていた。もしかして理解出来たのでしょうか。


「ねえエル、貴女もしかして解ったの?」

「全く!」


 ですよね。


「だが瞬間移動魔法は存在するということだろう? 口ぶりからして特殊魔法や元素魔法ではなさそうだしな。ならば我にも出来るはずだ」


 限定的なものを除いて全ての魔法が使えるエル。言われてみればあの子が全魔法の理論を覚えているはずもないし、理解を超えた感覚的なものがあるのでしょうね。


「さて、これからの話をしようか」


 ハッガはそう切り出した。


「僕としては君たちに研究を手伝ってもらいたい。僕の魔力量じゃ限界があるし、実際に異世界から来た君たちが居てくれると凄く捗る」

「断る!」

「まあ、そうだろうね」


 突っ込みませんよ私は。


「帰るんだろう? 奥に一階層に直通の部屋がある。空間魔術を利用した転移術だ。それを使うといいよ」


 えらくあっさりと教えてくれるんですね。


「君たちがそんじゃそこらの冒険者なら、僕だって無理矢理捕らえて奴隷にするんだけどね。流石に魔王様じゃそうはいかない。きっと勝てないしね」


 彼がどれほどの実力なのかはわからないけど、私達をまとめて相手出来るほどではないでしょう。


「そうか。助かる」

「エル、早く行きましょう。もう飽きたわ」


 帰れるとわかったのならさっさとここから出たいのですけど。


「気が向いたらまた来てね」

「嫌です」


 エルの代わりに私が応えて、奥の方へ歩き出す。


「あ、マリー!」


 それにつられてエルが、さらに後ろから残りのメンバーがついてくる。

 奥の壁に付けられたドアを開けるとボタンが一つだけある部屋があった。部屋と言うより窪みですね。七人で入るにはギリギリ……というか無理では?

 

「せ、狭いな」

「貴方たちは後から来れば良いのでは?」

「こんな所に僕たちだけで残れと? 無理だね」


 仮にもランク六の冒険者でしょうに。


「スイッチ押しますね」


 そうしてハーヴィがスイッチを押す。一瞬だけ目の前が真っ暗になったかと思うと、見慣れた小部屋に出た。私達が落とされた場所だ。


「さて、どうします?」

「一旦引き揚げた方がいいだろうな」

「そうね。私達もギルドマスターに報告したいし」


 というわけで来た道を戻ってダンジョンの外に出る。今は昼だった。


「ハーヴィ」

「はい魔王様」


 全龍化するハーヴィ。とうとう動詞がなくても成り立つようになってきましたね。

 全員が背中に乗ったところで街へ飛び立つ。

 すぐに着くかと思ったら意外と時間がかかった。まあ徒歩で三日の距離だからそれもそうか。


 結局一回休憩で一泊したので、街に着いたのは翌日だった。


 大きな入国門をくぐって冒険者地区に入る。


「俺たちは一旦ギルドに戻るけど、お前達はどうする?」

「とりあえずは宿に戻るかな」

「そうか。またダンジョンに潜ることがあったら呼べよ。ギルドカウンターにでも言づてといて」

「わかった」


 そうしてフィーラーズと別れた。


「それで、今後はどうしますの? ポイントもお金も稼げませんでしたけど」

「何も決めとらん。ひとまず宿に帰ろう。話はそれからだ」


 そうして前まで宿泊していた宿に戻る。冒険者向けの質素な所だ。

 一旦今日分の宿代だけ払って部屋に入る。


「またダンジョンに戻るんですか?」

「それはないな。せっかく異世界に来たのに一つの場所に固執しちゃつまらんだろう」

「そうですか……」


 納得しなくもないですけど。


「要するに魔大陸に渡るまでにランク五になれば良いんだろ?」


 エルが急に私の鞄を手に取る。そして中から冒険者ガイドブックを取り出すと、巻末の地図を広げた。


「魔大陸がこっち」


 地図の右端を指さす。


「我らがここ」


 地図の中央辺りを指さす。


「となると次はウェッドハイか?」


 エルがそうして指さした場所はここから少し右に位置した街だった。


「そうですね」


 地図で見る限り、規模はマ・シュレより一回り小さいでしょうか。


「出発はいつにします?」

「明日でいいだろ」

「また急ですね」

「別にここでやり残したこともないしな」


 という感じで次の目的地が決まった。

 


これで第一章は終わりです。次話より第二章に入ります。

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