俺の家に入り浸る近所のJKギャルに「おっさん童貞だろ」と言われたので、「うるさいヤリ◯ン」と言い返したら処女だと言い張ってきた。
閲覧ありがとうございます^ ^
――――俺は、人生最大の過ちを犯した。
あれは、まだ就職して間もない二十歳のことだった。
某スーパーの社員をしている俺は仕事を終え、自宅マンションに帰ってエレベーターを降りると、すぐ側の階段に一人の少女が座っていた。
自分の膝に肘を立てて頬杖をついて、つまらなそうな顔をしている。
思い出した。 この子は最近同じ階に越してきた子だ。
その日はそのまま通り過ぎたが、翌日、またその翌日も、その子は同じように階段に座っていた。
同じマンションの子供達と馬が合わなかったのか、だとしても俺には何も出来ない。 だが、前日レ○ンを観てしまった俺は、その子がナタリー・○ートマンに見えてしまったのだ。
だから俺は、つい声をかけてしまった。
それが俺、三井広輔人生最大の過ちだった……。
◇◆◇
天気の良い日曜の昼下がり、俺は自宅でお気に入りのアイドルグループのDVDを鑑賞している。
一人、悠々自適に…………―――の筈がッ!!
ベッドにはふんぞり返った茶髪の女。
今風の化粧なのか俺には分からんがソレをした、長い髪をくるくると巻いて、なんかヤラシイ肩を出したニットのワンピースを着ているギャルだ。
部屋にギャルが居るなんて羨ましい? いやいや、コイツはそんな良いモンじゃない。 大体俺は……
――――ギャルが苦手だ……。
ていうか嫌い?
だってコエーもんっ!
特にコイツはヤンキー混じりのギャルっていうか、きっと先祖は蛮族で象の上からブーメラン――
「おっさん」
……ホラ、聞きました?
そりゃ俺は三十二だ。 コイツからしたらおっさんだろう。 だからって年上に面と向かって言うかね?
俺の愛する推しメンやアニメのヒロイン達は絶対言わないっ! 『あの、よろしいですか?』とか言ってくれるに違いないんだっ!
「おっさんって」
「……なんだ」
「腹へった」
くっ……なんて言葉遣いだ―――親の顔が見てみたいわっ! 近所だから知ってるけど! しかも結構いい人っ!
………ああ俺は、なんてバカなことをしてしまったんだ……。
そう、コイツが俺の人生最大の失敗、御年十八歳になったナタリー・ポ○トマンこと北瀬悠麗だッ……!
ちくしょう……十二年前のあの日、前日にレオ◯さえ観なければ……っ!
「聞いてんの?」
「食いたきゃ勝手に作れ、いつものようにな」
なーんで俺はこんな生意気な女可哀想だと思っちゃったんだ! しかもコイツ、子供の頃は良い子だったのに……じゃないのっ! 前からなのっ!
ファーストコンタクトの六歳からこのままで、いきなり俺の部屋に入り込んで蹴られるわ乗っかられてバシバシもう悲惨だったッ!
そりゃ他の子供も遊ばんわ!
今思えば全然可哀想じゃない、自業自得だッ!
んで初日に合鍵奪われて、今日まで好き放題遊び場にされてるんですぅぅ……助けておまわりさ〜ん。
「しょうがねぇなぁ。 そんなに可愛いJKの手料理が食いたいかよ?」
「お前はJKなだけだ。 その他オプションは無く、そのブランドはお前の場合無価値だ」
「……いらねぇんだな」
「焼きそばで」
コイツの飯はまあまあだ。
いつしか作れるようになったが、でもまぁ、まあまあ。 それ以上の評価には値しない。
これが愛しのまみリンだったら『あっ! 豚肉としめ鯖間違えちゃった!』と言われようと『ソースと墨汁間違えちゃった!』と来ても黒ずんだ歯で『死ぬほどおいしかったよッ!!』と言える自信がある。
そして、まあまあの焼きそばを食べた後、まみリン鑑賞会を続けていた時……
――――事件は起こった……。
「おっさん」
「なんだギャル、今忙しい」
「何が忙しいんだよ、日がな一日アイドルのDVD観てるだけだろ。 モテないから」
「うるさいギャル、だまれギャル、俺にとって需要無しだギャル、ゆえに帰れ」
「はぁーあ、昔は悠麗ちゃんって呼んでたよなぁ」
「お前は成長しないが身体は勝手に成長した。 お前は悠麗ちゃんからガキへ、そして今ギャル、それだけだ」
お前だって最初は『にいちゃん』って呼んでただろうが。 その後、『おっさん』になった。 ………なんで俺だけ二段階なんだ、なんかムカつくな。
「おっさん、ドーテーだろ」
「…………ちがう」
「嘘つけ」
「だまれヤリマン」
「……あたしはヤリマンじゃない」
「ギャル=ヤリマンだ」
「ヤリマンじゃない、その偏った考え方やめろ。 あたしは寧ろ処女なぐらいだ」
「寧ろ処女が狂った日本語だと思わんほどのヤリマンだ」
「いい加減にしろドーテー」
「お前みたいな処女いたら処女に迷惑だ俺はドーテーじゃない」
「このおっさんドーテー」
「このギャルマン」
「「…………」」
(( ……こ、このやろう……これは……これはもう…… ))
―――――戦争だッ!!!―――――
俺はゆっくりと立ち上がり、ヤツもまたベッドから下りて向かって来る。 時代が時代なら象から降りて来てただろう。 お前など諸葛亮に征服されてしまえ。
そして向かい合い――――このおっさんドーテーvsギャルヤリマン紛争の戦いの火蓋が切られた。
「おっさん、今すぐ土下座して謝るなら許してやらなくもないぜ」
「十二年の時を経て言ってやろう、お前ここに何しに来てんだ?」
引く気はない………俺はお前のせいでリュック◯ッソン監督まで憎んだ男だ。
「あたしは寂しい三十路過ぎのドーテーが孤独死してないか見に来てやってるだけ、なんか貧相な身体してるからそろそろ死ぬと思って」
「頼んだ覚えはない、俺は太らない体質なだけだ。 お前は将来太ってるのに腹出しの派手な服を着て周りの嘲笑に気づかない残念なギャルになるだろう」
「は? あたし太んないし」
「神経は出会った六歳からデブだけどな、図太すぎ――ぶッ……」
……この野郎。
「そうやって話の途中でビンタするような女は頭が足りないと言っているような――ぐふッ……」
……ま、負けんぞ……今日こそは……っ!
「グ、グーでの腹パンはやめろ……」
「どうやってパーで腹殴るんだよ」
な、殴るをコマンドから外す思考はないのか……?
「とにかく、俺はドーテーじゃない」
「ゲームの女しか堕としたことないヤツがよく言うわ。 初恋はアニメのヒロインだろ? 二次元世界の住人のクセに」
「今は違う」
「三十なってからだろ? そっからアイドルオタクって落とし穴から這い出てまた落とし穴じゃん」
こ、コイツ……まみリンを落とし穴だとッ……!
………ダメだ、コイツは倒さなければならない……
―――一人のファンとしてッ!!
「ヤリマンが神聖なまみリンを穢すな、俺が落とし穴ならお前は穴だらけのフリーホールだ(パンッ)……いや、真っ黒の(パンッ)ブラック(パンッ)ホールだッ!」
いくらビンタされようと俺は止まらなかった。
止まる訳にはいかないんだよ、これは―――『聖戦』だ。 そして、俺はまみリンの元に集い戦う無敵のファン達の一人なのだから。
「あ、あたしのどこが真っ黒なんだよッ!」
「今の顔を鏡で見てみろ、黒い言葉の砲弾を放つ大砲にしか見えんぞ?」
「はぁ!? 結構可愛いって告られるんですけど!」
くっくっく……コイツ、笑わせてくれる。
「そりゃお前」
「な、なんだよ」
嘲笑うかのような目でヤツを見下ろし、渾身の嫌味を乗せて俺は言い放った。
「すぐヤラせてくれそうだからだろ? ―――ヤリマンだから」
「っ……こ、この――――おっさんドーテーッ!!」
「ぬぉッ!?」
床に押し倒され、怒り狂った蛮族の女戦士、その末裔が馬乗りになってマウントを取ってきた。
「ふ、ふんっ! やるならやれ! 真実を受け止め切れずに愚かにも暴力に訴えるがいいわッ!」
どうだ、これでヤルならそれは認めた事と同じだぞっ!
………………………………………
…………………………
…………
「ふぅ、ふぅ、ふぅ」
「………ば、わるかった……いいふぎまひた……」
ううぅ……ゆ、ゆるしてくれまみリン……お、俺は………
「あ、あたしは……あたしは――――処女だッ!!」
……ふっ、世迷言を……。
そこまで言うなら俺も出してやろう。
今まで封印していた切り札をな。
「聞くがいい」
「……なんだよ」
「確かに俺は、三十まで二次元世界の人間だった。 三次元に還ってきたのはつい最近だ」
「つまり、とりあえず三十までのドーテーは認めるんだな」
「甘んじて受けよう……だがッ! 決して今ドーテーとは認めん」
「……おっさん、そりゃ――」
「そしてっ!」
言わせん、言わせんぞ……今は俺のターンだ。
「お前が処女ではない証拠がある」
「はぁ?」
「それは、な……」
「……なんだよ、言ってみろ」
今までは可哀想だと思って胸に留めてやってたんだ。
だが、キサマの乱暴狼藉にはもう我慢ならん。
くらえ……これが俺の……
――――グングニルの槍だ――――
「俺は、聞いたことがあるんだよ、お前の……」
「ふんっ、そんな噂なんの証拠になるんだ? 近所のおばさん達なんて派手なだけでそう言うんだよ」
はははっ………可愛いヤツだ。
そんなモノが切り札だと?
食らうがいい、聖なる槍の一閃を……。
「違う。 俺が聞いたのはな、お前の………――――――オナラ……だ」
「…………」
どうした、ぐうの音も出んか。
「どうだ! 相手はおっさんとはいえ男の前で堂々と屁をこく処女がどこにいる!? 子供の頃じゃないぞ? つい最近だッ!!」
はーはっはっは! どうだこの野郎、何か言い返せるものならしてみるがいいっ! 言えんだろう? お前は到底花も恥らう処女には見えん! 蛮族無双だ祝融だッ!
ヤツを見てみると、馬乗りで俺を見下ろすその顔はまるで時間が止まったように瞬きすらしない。 いや、出来ないのか、ショックで。
一応コイツも女、この件は伏せておこうと思ったが、まみリンを侮辱した罪としては軽すぎる。 そうだろう? まみリン。
「………そつけ………」
ん? なんだ?
何か言ったか?
………なんだコイツ、ぼそっと何か言ったかと思ったらまたフリーズしたぞ?
……あれ? なんか……顔がどんどん真っ赤に……
「嘘つけこの野郎ッ!!!」
「――がッ……ゔゔぅッ!!」
ちょ、ちょっと待てッ………こ、これは………この勢いは……
――――し、死ぬって……ッ!!
俺の胸ぐらを掴み、まさに殺すに十分な力を込めて締め上げてきやがる……あ、あかんて、マジで……っ!
「あっ、あたしがそんなコトッ……!」
「じっ、じぬぅ……」
ま、まみリンごめん……俺……次のライブは……行けない………かも………
「あたしが広輔の前でそんなコトするかぁぁあああッッ!!!」
もはや視界がぼやけてきた……俺は、この蛮族の末裔に狩られて終わるのか……。
ぼんやりと見えるそのアマゾネスの顔は真っ赤で、目に涙を浮かべている。
いや、泣きたいのはこっちだって。
だが、いい気味だ。
最後に――――ひと泡吹かせてやった……ぜ……。
「聞いてんのか!? おいっ! 嘘だって言えっ!!」
お、おおう……今度は締めから俺の頭をガクンガクン振ってきやがった。 おかげで呼吸は出来るが……の、脳が震えるううぅぅ。
「な、何度でもいっ、いっ、てやっ―――言えるかボケぇぇッ!!」
俺はいい加減喋らせろとヤツの手を振りほどき怒鳴ってやった。 すると、
「広輔が悪いッ! 言っていいコトと悪いコトがあるだろッ!!」
……おい、お前がソレ言う?
今までどれだけ俺の心を土足で踏み荒らしてきたと思ってんだ? 凡人ならとっくに最終話のカミーユ・ビ◯ンの如く夢の世界に旅立っとるわ。
「何度でも言ってやる、お前はすかしたつもりでもその最後の瞬間俺の耳に確かに聞こえた小さな破裂音――」
「絶対嘘だこのドーテーッ! そもそもしたことなんてないッ!!」
「ぐッ……かはッ……!」
駄々っ子のように俺の胸を拳の平で叩く……ってか威力が駄々っ子のそれじゃないっ!
はははっ、しかし痛快だ!
涙の粒を撒き散らして悔しがっているその様はなっ!
「この嘘つきおっさんドーテーッ!!」
「トッピングを増やすなヤリマンがっ!」
「あたしはヤリマンじゃない! おならなんかもしないッ!」
「お前こそ嘘をつけっ! どうせお前は学校帰り悪そうな同級生がコンビニにたまってて同じ種族同士意気投合! その一人とチャラチャラ付き合ってそっこーエロいことして三年の今になっては仲間内ほとんどヤっちゃたなーなんて――」
「あたしは処女だッ!!」
「笑えるジョークだアマゾネスっ! キサマなんぞときめくファーストキスも記憶の遥か彼方でどれがどれだかわからんレベルだろうがッ!」
「――こっ、この……」
「な、なんだ!? ほ、本気で殺る目をしやがって………こ、殺すなら殺せっ! ドーテー死してもまみリンは死せずだッ!!」
―――あ、認めてしまった……ドーテーって………。
……くそぅ、一体ヤツはどんなドヤ顔で……
ヤツからの猛反撃に備える俺に、このギャルは思いもしない言葉を吐き出しやがった。
「あたしのファーストキスは九歳の夏休み八月九日っ! 場所はここで、相手は広輔だッ!!」
「……………は?」
………な、何を異次元の台詞を吐いてるんだコイツは……?
「………もう、帰る」
そう言って、馬なりになっていたアマゾネスは、その闘気を失くしてゆっくりと立ち上がる。
俺は言われた言葉を頭の中で咀嚼し切れず、上半身を起こしてただ見ていた………が、
立ち上がる時見た、清純そうな白いパンツと、本当に辛そうな悠麗の泣き顔が目に焼きついてしまった。
………なんだ?
俺が……悪いのか?
俺が………間違ってた………のか?
そして、玄関に立つ悠麗は、振り向かずに―――
「―――お前なんて一生アニメとアイドル追っかけてろッ! このおっさんドーテーッ!!」
………この野郎。
さっさと出ていけ。
広輔の部屋を出た悠麗は玄関の前から動かず、悔しそうで、悲しそうな顔を俯かせていた。
「……誰が、こんな近所に化粧して、髪セットして、こんな格好で来るんだよ……」
とぼとぼと歩き出し、自宅のドアを開けるのかと思えば素通りして歩き続ける。
そして、エレベーターの側、階段に座り込むと、
「広輔が……悪い……」
泣き腫らした瞳で、つまらなそうに呟く。
その背中に、冴えない細身の男が立っているのにまだ気づいていないようだ。
「おい」
「――っ……」
コイツは……いくつになっても変わらんな。
「忘れもんだぞ」
部屋に落ちていた、出会った初日に奪われた鍵を悠麗に見せると、
「……なんだよ、回収するチャンスだったろ……」
不貞腐れた顔で俺を睨んでくる。
「こんなトコで座ってるな、ガキじゃあるまいし」
「広輔が……悪い……」
……やれやれ、これだから……。
「……映画でも観るか」
「……なんの?」
そうだな。
良い機会だ、リベンジしてやろう。
「お前が主演女優のやつだよ」
「なんだそれ、アニメ?」
「いや、違うよ」
主演男優は御免だけどな。
ドーテーのまま死にたくないから。
膨れた顔で立ち上がった主演女優は、先を歩く俺の背中に小さく訴えてくる。
「絶対、してないから……」
「ああ、俺の聞き間違いだ」
とまあ、そういうコトにしておいてやろう。
俺は大人だからな。
「それより、さっきのアレ……嘘だよな?」
「アレって?」
「そりゃ、その……ファーストキス……だよ」
ど、どうせプロレスごっこでもさせられてちょっとかすったとか、そ、そんなもんだろ?
「……おい、なんとか言え」
「………ファーストキスとか、おっさんが言うとキモっ」
…………この野郎。
「お前、寝てたからな」
「なっ、なにがだよ……!」
「オナラした時」
「――っ!! こっ、この――――おっさんドーテーッ!!!」
ふんっ。
やはりキサマとは相容れない関係のようだ。
オタクとギャル、それは犬と猿。
白いパンツなど履くな。
ギャルのクセに。
いや、コレは………偏見だな。
読んで頂きありがとうございます^ ^
評価感想ブクマなど良かったらお待ちしてます!