表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

スミレ

作者: 石田 幸

Mへ。

三月の声を聞いたというのに、滅法(めっぽう)寒い北風に縮み上がりそうな午後だった。


うつむいて、ほとほと歩いていた私の目に小さな(むらさき)が飛び込んできた。

「お母さん!」

同じく、肩を落としてうつむき加減で足早に歩を進める母を思わず呼び止めた。

「え?」

力なく振り向いた母に足下(あしもと)の小さな花を指差して、

「これ、スミレやない?」

と小声で問うた。

「そう…みたいやね。」

寒そうに首をすくめた母は(せわ)しなく小さな目を瞬いた。


公立高校の合格発表の帰り道。


私の受験番号はなかった。


「サクラチル」三月。


けれど、寒風に耐え、可憐に咲くスミレを見た。


今まで(しぼ)んでいた私の気持ちは不思議といくらか明るくなっていた。


「私立、がんばるわ。」

ぼそっと呟いた私の声にうつむいていた母の(こうべ)が上がった。

「せやな。うん…せやな。」

母の声が震えた。

吹きすさぶ北風の中、小さなスミレの花が一斉に揺れた。

午後の傾きだした日射しが一群れのスミレを照らし、それを見ている私の頬に温かい光の(うず)(はじ)けた。


ぐいと顔を上げた私は

「ふぅっ」

と大きく息を吐くと、力強くずんずんと歩きだした。



可憐に咲くスミレの花からインスパイアされた作品です。

あなたの将来に希望を込めて。


作者 石田 幸

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ