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#5 魔力無しの一人目の友達

 『魔法』――『魔力』と称される物質で基本七つ、希少二つの現象を具現させる技法。


 魔力はとある時期に解明された物質であり、魔法もその時期から発明されていった。

 基本の七つは火・水・風・雷・地・植物と無、そして光と闇の全九属性で構成され、それらを総称して『魔法属性(カラー)』とされる。適性があるの各魔法属性(カラー)の魔法のみ発動が可能だ。


 主に人間種は前者七つの内無属性を除く魔法に適性を持つのが一般的であり、無属性は無を除く残りの魔法属性(カラー)を持つ者は、適正関係なく発動することができる。


 後者二種は適正を持つことがほぼ不可能とされており、適性がある者は例外なく異端且つ異常とされている。


 というのも、『魔王』と(おご)り力をもって支配する者や、『教祖』や『神』と(かた)って人心を洗脳する者など、光と闇を宿す者は一人として例外なく人に仇名す存在へと為っているためだ。

 曰く、光と闇は人の身では到底啓蒙し得ない領域の魔法であり、異常者へと為るのは禁じられた領域に踏み込んだ末路であると言われている。



 これについての考察として、『魔法属性(カラー)適正と『固有属性(タレント)』が本人の気質や性質に影響する』という説は、筆者も同意見だ。


 まず先に『固有属性(タレント)』について記述しておく。これは個人が持つ魔法固有の特性を指す。

 一個人が使用する魔法の変化であり、〈火魔法〉を例にとれば〈爆発〉や〈煙〉といった固有属性(タレント)が有名だ。固有属性(タレント)にも希少性は存在し、特に戦闘特化型や汎用性が高い固有属性(タレント)は重宝されている。


 この固有属性(タレント)は文字通り、その人自身の才能・才覚をはっきりと示してくれる。

 魔法術師にもピンからキリがあり、汎用性が高い優秀な固有属性(タレント)もあれば、使い勝手が悪い固有属性(タレント)もあり、それ以前に固有属性(タレント)に目覚めるか目覚めないかという問題もある。



 具体的に先ほどの説について解説を入れると、〈火魔法〉ならば感情に素直で直情的なタイプが多く、〈水魔法〉は冷静沈着なタイプが多い。〈風魔法〉は大らかで自由な性格、〈雷魔法〉は快活でどこか言動が突飛な者が多い。


 これも魔法世界の形成に一役買いながらも、その人個人の性格や気質を暗に決めてしまう要因に為り得る説と言える。一概に決め付けることはできないが、人としての自身の在り様や思想の一部を捻じ曲げかねないのではないだろうか。



 【エンドフィール魔法王国】は、名前通り魔法とともに発達した魔法術師の国だ。

 起源は『世界の虚』の中央部、唯一虚の影響を受けていなかった地帯を中心に、少しずつ虚の魔力を浄化しつつ領地を広げていったとされている。


 だが、その前途は多難極まった。建国初期は多数の魔獣の掃討を行う作業に見舞われたため、魔法術師だけでなく魔力無しも戦闘に駆りだす必要があった。そのため、魔力無しが独力で魔獣に対抗する手段を見つけなければならなかった。


 それは「魔力そのものを形として具現し攻撃する」という『魔術』――魔力そのものを矢や槍などに具現して叩き付ける術法であり、「魔力無しでも使える魔法」として発明された。

 特徴は「大気中に含まれる魔力を使用する」点。画期的な発明であり、これにより魔力無しも十分な攻撃力を得ることに成功したが、この術法は五百有余の年月で歴史に埋もれていった。


 その理由は、魔獣に対する攻撃力が低いという点に尽きる

 魔術が発明された建国初期、魔法術師の仕事は主に魔獣の掃討だったため、今以上に魔法における威力に関する関心は大きかった。そのため、魔獣に通用せず対人に有効な魔術は、寧ろ内乱の原因に繋がると危険視され封印されたのだ。


 ここで『魔獣』についても記載しておこう。

 魔獣とは魔力に触発された『世界の虚』の野生の獣の総称であり、虚の環境に合わせて様々な特異能力に目覚めている。判例に炎を吐く『サラマンドラ』や大型の鳥獣『グリフォン』があげられる。


 魔獣は例外なく魔力に対して耐性を持つ。魔力によって発達した外皮に、魔力そのものを攻撃として使用する魔術は相性が非常に悪い。物理的な耐久力も高い個体が多く、多数は強固な外皮に覆われている。

 このような性質から魔獣掃討は、魔獣一個体が苦手とする魔法属性(カラー)の魔法を叩き込むことが定石となったのだ。



 魔術という術法が歴史の流れの中で廃れていき、魔力無しの不必要性が年月を重ねるにつれて色濃くなってくる。建国から数十年後、魔力無しの奴隷化は起こっていた。

 魔力無しの利点は、強いて言うならば魔力感知で索敵されない事。体の中を流れる魔力で位置を割り出されないため、暗殺者の名目で実験的に教育された者も居るそうだが、逆を言えばこちらも魔力探知ができない。

 魔法術師の基礎の中に、魔力の活性を抑えて探知されなくする技もあるので、わざわざ時間をかけて教育する必要もない、ということだ。



 追記だが、「虚で生まれた人は魔力を持たない」という迷信から、「虚は魔力を吸収する」という性質があるとされるが、これが野生の獣、ひいては魔獣に適応されないのは未だに理由は明かされていない。人が魔獣化する可能性も推測されるが、筆者自身虚の中で数少ない安全地帯で暮らしていたので、恐らくは無いと推察する。




「くぁぁー……もうちっと書かなきゃってところかぁ……?」


 と、いったところで筆休め。

 今俺はエンドフィール魔法学園の図書室の隅っこで魔法についての論文を書いている。


 魔力無しの元奴隷が、魔法についての論文を。

 別の紙に飛ばし飛ばしで書きたいことを連ねている最中だが、どうにも納得がいかないことが一つある。


「なーんかふざけてる気がするんだよなぁ」


 しかもこれを課題として渡されたのが、皆から奇異の目で見られ続けた入学式終了後――それも生徒会長直々に存在否定された後だ。

 いや確かにさ、俺もあの時生徒会長相手に突っかかって、マイク奪って皆の前で宣戦布告したことは悪いよ。魔法学園の学生の頂点に君臨する男に喧嘩を売ったってことは、半ば全校生徒に喧嘩売ったようなもんだし。


 だからってあれは生徒会長も悪いと思うワケ。そもそもステラ学園長が入学を認めたのに、てめー個人の主観を勝手に総意とか抜かして、あまつさえ学園長を無能扱い。俺の学園在籍権を所詮は生徒一人に揺らがされてたまるかっつーの。

 だというのにステラ学園長は、今回の非は俺にあると言って原稿用紙を渡してきたのだ。抗議しても、「侮辱を差し引いても君も喧嘩売ったしね」だ。そこを突かれると確かに痛いが……納得いかん。


 ふてくされながらペン回しをしていると、ふと人影が目の前で止まる。


「進んでる? カトレア君」

「んー……まあまあかな」


 小声で俺に話しかけて対面に座ったのは、ミラ・アルベールという男子生徒だ。

 なんとなんと、学園生活一日目にして俺の友達になってくれた物好きっていうか、うん、物好きな奴だ。

 盛大なポカをしでかした問題児と共に行動すれば、遠からぬ内におかしな奴と認定されるのは火を見るより明らかだからな。


 薄いベージュの髪を後ろでポニーテールにしてまとめているミラは、整った中性的な顔立ちと俺より小柄な体格のため、女子生徒と見間違えそうだがれっきとした男子生徒だ。女子生徒はスカートが指定制服だから間違えるはずもないのだが、男装の麗人と言えばそれで通りそうだ。


「おっかしいよなぁ、なんで俺がこんなことせにゃならんのか」

「あれは……双方悪いと思うけどね」

「だろぉ!? お前もそう思うよなぁ!」

「ちょっ……ここ図書室だから……!」


 先輩と思しき生徒から、思わず振り返るほどの視線を頂き、俺は口にチャックをする。


「……なあ。俺、こんな世間知らずだから知らんのだけど、あの生徒会長ってなんかお偉いどこの坊ちゃんだったりするん?」

「知らなかったのに喧嘩を売るって……」

「どこの馬の骨だか知らんが人の存在否定してくるんだ、喧嘩上等ってことだろ」


 当然ながら反省なんてしていないぞ。


「『雷霆』の異名を持つ北の【グリームライト】地方を統括する魔法貴族が手塩にかけて育てた一人息子、親の異名と自身の固有属性(タレント)をもじって『雷迅』って呼ばれているんだ。」

「地方支配どころか姓名を地方の名称にしているってことは、相当どころの階級の高さじゃねえな。プライドバリバリ高そうだった態度の裏付けもできる」

「僕もあんまりいい印象じゃないかな」


 俺が好かないのは、顔云々を抜きにしてもあの見下した態度につきる。

 魔法至上主義世界がそのまま子供として産み落としたのが、あのアルベルトという男と思えてならない。

 三年生と俺の先輩にあたるが、実は後で名簿を見たら十七歳と俺より年下だったりする。

 それだけで俺も憤慨しているわけではなく、アルベルトは他の生徒は当然、先生すらも下に見た眼をしていた。

 自分の一族を至高のものとし、それ以外の一切は下民といった意識すらも感じ取れる。


「魔法術師の中でもあるんかねぇ、選民思想が」

「……あるんじゃないかな。貴族平民で隔てられて、昔は奴隷制度も平然と横行していた」


 奴隷制度は今は禁止はされている。が、民衆の根底にはいまだに根付いている。

 俺のように元奴隷ってだけで疎まれ嫌われるのはまだマシかもしれない。元の俺たちの『遊技場(アリーナ)』みたいに、奴隷として魔力無しを隠して所有しているところもある。

 現在はそれほど噂を聞かなくなったが、俺が奴隷生活から解放されてしばらくは、耳に入り過ぎて痛くなりそうなくらいだった。


「今でも抜けきってねぇけどな」

「そう、だね」


 俺の正直な感想に、曖昧な頷きを返す。


 ミラとは出会って数時間も経っていない。

 入学式終了後にすぐさま俺は教員室へと連行され、ランセリス先生にやんわりと叱られた。

 その後、論文用の原稿用紙を持って現れたステラ学園長の隣にいたのが、ミラだった。


「そういや、あの時なんで学園長と一緒にいたんだ?」

「ん、ちょっとね。僕がここに来たのは、学園長の推薦だから」

「マジか!?」


 意外や意外、まさかの君もエリート様だったか。


「両親とは、物心つく前に死別してね。孤児院で過ごしていたんだ」

「それを学園長が引き抜いた、と」

「他の子からは物凄く恨まれたけどね」


 寂しそうな微笑だった。

 仕方ないと思いながらも、他者の羨望に苛まされる板挟み、か。

 まだ出会って一日も経っていない。あまり踏み込んで聞いても、返ってくる答えに納得はできないだろう。話題を変えてみる。


魔法属性(カラー)は?」

「ノーコメント」

「主にどんな戦術が得意だ?」

「……それ以前に、僕は戦いは嫌いだ」


 ……逆効果だったんだろうか。


 普段は話題のチョイスミスなんてあまりしないんだが、今日はちょっと調子が悪いな。

 というか、話を止めたそうにもしている。これ以上触れてほしくなさそうだ。

 一旦話を止め、論文執筆に集中する。最後読んで誤字脱字とかを見てもらおう。



 一時間ほど、留めることなくペンを原稿用紙に走らせ続けた。


「おっしゃ、書き終わった」

「お疲れ様。読んでみてもいい?」

「んじゃ、推敲頼むぜ」


 一ページ目……ふむふむと頷きながら読了。

 二ページ目から五ページ目まで……なるほどそういう発想が、と俺の考察に軽く共感を得てくれている。

 そして最後のページ……目線の位置は、読了を終えたと察せるが、硬直していた。


「ねぇ、最後の文章……消した方がいいんじゃないかな?」

「なんで?」


 絞り出すような一言に、俺は疑問を覚える。

 別に俺は間違えたことを書いたつもりはない。文章自体は特に凝った書き方もしていないし、ありふれていると思う。

 それなのに、ミラは何故か顔を紅潮させ、読もうか読ままいか深く悩んでいる。

 俺が顔をじっと見てると、まこと不思議だが意を決したような表情をして――。


「え!? えぇっと……「魔法術師は想像力がある方が魔法制御力・魔法の独創性に優れることから、ムッツリスケベの可能性が非常に高い」って……な、何の謂われだよ!?」

「シーッ! 声がでかいっつの!」


 顔を真っ赤にして読まなくてもいいじゃねぇか、性欲旺盛な年ごろの男の子だろ――そう付け加えようとしたが、周りの刺さる視線が再び注がれる。痺れを切らした図書委員らしき真面目そうな男子生徒が、俺らに扉を指さす。出てけってことだろうな……。


「お前のせいだぞ」

「あ、あんなすっとぼけた結論を書く君の頭がおかしいせいだよ!」


 最後まで騒がしくしてすいません、と最後に律儀に図書室に謝罪を残し、俺とミラはそそくさと後にした。



 余談だが、消さずにそのまま提出したら、ステラ学園長は「一理ある」とだけ言ってくれました。本当にありがとうございます。

 ご拝読ありがとうございました。


 想像力が豊かな方が魔法の汎用性が高くなる傾向がある=スケベな方面も考えが豊かになる。


 あと初めての友人が出来ました。

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