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#11 〈奴隷剣技・断魔〉

 青と水色の二色の円陣が交差する。

 大海の激流を思わせる大量の水が、陣から溢れ出ると同時に凍り付いていく。

 放たれる圧倒的冷気にフィールド内が霧がかる。


「おうおう、こりゃまた大技だこって……!」


 霧の奥深く、シルエットが変形しているのが見える。

 氷を噛み砕くような破砕音がフィールドにこだまし、みるみるうちに凶悪な氷槍へと仕上がった。


「俺の魔力全てを注ぎ、得意ではない氷結力を付与した。凍り付いたお前の体を穿ち、貫くためにな」

「たははっ……そりゃホントにありがてぇわ――」


 極低温の冷気を纏った氷槍は、今もなお溢れる水を自らの刃の一部へと取り込み続け、一層の巨大化を続けている。残った魔力が尽きるまで槍は巨大化し続ける。


「ならばこちらも全力で応えようか!」


 黒鉄の剣を肩に乗せ、スタンスを広く取って前傾姿勢。

 肩で息をするウィトスの手の動きに合わせ、氷槍が俺に照準を定める。巨大化もなりを潜めた。魔力供給を発射にシフトしたのだろう。


 呼気を整え、眼を閉じ、イメージを作る。


 俺の脳裏に今、転結する未来が映った――開眼し、正面を見据える。



「勝負――!」



 足裏で地を捩じり込みつつ蹴り入れ、猛然と襲い掛かる。



 俺の攻勢を視認したウィトスの腕が投擲の構えを取る。 

 回転がかかる氷槍周辺が氷の霧で覆われ、冷気波をこちらに向けて解き放たれる。

 産毛が凍り付きそうな寒波に怯まず、一閃の範囲内まで足を止めない。


「どこまでも、頭のネジが不足した男だな! 尚も前進を止めないとは!」

「俺には前進あるのみだからなぁぁぁっ!」

「ならば容赦はいらんな! 絶対零度の氷槍よ、貫き給え――」



 強く握りこんだ拳をそのまま、俺に向けて殴りこむがごとく振り下ろした――!



「〈零式氷刃槍アブソリュートスティンガー〉ァァァァァッッ!!」



 螺旋回転が極寒の冷気を収束させ、一点の貫通力にて対象を突き穿ち砕く大技――氷の粒子を噴きながら、一直線に俺目掛けて飛翔する。


 フィールドの空気の水分が凝固して細かな氷の粒となり、通った氷の槍に触れて散る。


 対する俺は、その場から一歩も動かない。


 俺に必要なのは二つだけだ。


 決して臆さない度胸。


 己が歩んできた命の軌跡を、命がけの日々を歩み続けてきた自分への信頼。



 恐怖する必要など、微塵も無い――!



「〈奴隷剣技・断魔(だんま)〉――!」





 声を最後に響いたのは、ガギャンッッ――という甲高い硬質の物体がかちあう高音だけだった。


 土埃と細かな氷の粒子がフィールドを埋め尽くし、〈零式氷刃槍アブソリュートスティンガー〉が着弾した地点にいたカトレアの姿は消えた。


 静寂がフィールドを支配する。


 上層の生徒たちも固唾を飲んで見守る中、先に動き出したのはウィトスだった。


「なにが……起こっている……!?」


 場に残留する氷霧の中で膝をつくウィトス。

 魔力切れ間近の頭痛と倦怠感に耐えながら、唯一耐えきれない感情を口から吐き出した。


 それは、未知の現象への驚愕。


 乱れ切った前髪から覗かせる空色の瞳は前に向いている。

 覆い隠す霧と埃で遮断されたそこは、視覚からは何も情報を与えられない。

 魔法術師特有の魔力だけがそこの状況を確認できる唯一の手段だ。



 その魔力反応が無い――あるはずの〈零式氷刃槍アブソリュートスティンガー〉の魔力が。



 多大な魔力を込めて放った攻性魔法は意識的に残留させなくとも、魔法自体の魔力の霧消が遅いためにしばらくはその場に形として在り続ける。本来なら、〈零式氷刃槍アブソリュートスティンガー〉はその凶悪な氷槍としてのシルエットを、氷霧の中でも雄々しく君臨し続けているはずなのだ。


 土埃が解けた氷霧の水分で落ち着いてきても、シルエットは一向に見えない。


 つまりは破城槌さながらの一撃を――『クラスⅠ』の優等生の全力を、剣でどうにかしたということに他ならない。



 そして、件の人物が姿を現す。


 氷霧の中を悠々と歩むのは、カトレア。


 外傷はおろか、制服に凍った痕跡の一つも付けず、鋭い剣戟で霧を払いのけた。


「なぜ……なぜ無傷だ! なぜ俺の魔法が消えた! お前は今、霧の中で何をした――カトレア・キングスレイブ!?」


 氷の生成に伴って下がったフィールドの気温は、息を白く染める。

 ウィトスの元へゆっくりと、威風堂々とした面持ちで歩を進めるカトレアは剣を掲げて一笑する。


「簡単な話だ。『魔法を斬った』、ただそれだけだ」

「そんなわけがあるか!? 俺の魔法の中で最大の威力を誇る技を……いともたやすく……!?」


 淡々と語ったカトレアに、ウィトスは納得がいかなかった。


 人の身の丈を超える、ちゃちな言葉では表しきれない自身の特大の魔法を、たかが細っこい鉄を製錬しただけの棒きれで斬っただと?


 言い知れぬ苛立ちが頭をもたげ、戦闘の興奮と高揚、昂ぶりで熱された脳には、腹立たしさと憤怒で表情がゆがむ。普段の冷静さの影は一片も無い。


 意外な一面に軽く面を喰らったのか、カトレアは頬を触って挑発的に切り返す。


「ま、そんなわけがあったから今こうしてピンピンしてんだからな!」


 自分の長髪的な返しには気づいていないのか、それでも自信に満ちたカトレアの言葉と表情に、ウィトスは納得せざるをえなくなる。

 つられて表情を曲げてしまう――口角を上げ、諦めの境地へと至る。


「ハッハッ……馬鹿げてる、とは言えないな。その様子だと、本気で俺の魔法を真っ向から文字通り受け止めたのだからな。……化け物め」


 精一杯の虚勢と賛辞を込めて評した――化け物と。


「いい魔法だった。お前とはまた戦いたいぜ、ウィトス・F・ヴァルトール!」


 一転した鋭い眼で見据え、カトレアの姿が消えた。



 次の瞬間、鈍く重い圧力が肋骨の骨を軋ませる。


 呼吸が阻害され、意識が霞む。 


 側頭部へと振り抜かれた黒鉄の剣が、視界の端に紛れ込み――景色が暗転した。



 気絶とほぼ同時に薄れゆくウィトスの体。意識の世界から現実へと戻るのだろう。


「勝負あり――だな」


 十字に空を切り、腰に佩く鞘に剣を収めたカトレアは、横たわる強敵の姿が消えるさまを見て呟いた。

 最後までお読みいただきありがとうございました。


 なんだかんだで戦闘回は三話分でしたね。最初だからね、しょうがないね。

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