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Prologue 魔法学園入学試験

 高速の飛来物が風を切る。僅かに顔をよじって躱す。

 スピードと摩擦熱で焼ききれた皮膚から血が滲む。間を置かずに後続が来る。

 一歩二歩と前進しながらギリギリで避ける。頬に傷が一本二本と刻まれる。


「そろそろ負けを認めたらどう?」


 円状のフィールドの中、俺の視界には二名の人間がいた。投げかけられる狂おしい音量の歓声の中でも、視界の真ん中に捉えている金髪ツインテールの女王様――釣り目といい具合に顔が整ってたらそんな感じに思えるだけだ――然とした高圧的な視線は変わらない。腕を組んで余裕の表情だ。

 

「さんざっぱら大口叩いて俺に掠り傷だけか? 底が知れてるな」


 頬から伝う血を拭い、持っている剣を振り回して挑発するとすかさず攻撃が飛んでくる。


「なら、再起不能になっても知らないわよ!」


 手を前に出してぶつくさと何かを唱え、まっこと恐ろしい事に空に円環が発生した。それ(・・)は一秒と待たずに光って効力を発動する。


 トゲをびっしりはやしたツタ――〈(いばら)〉が十二本、俺に向けて伸びてくる。


 〈荊〉の先端は鋭く尖っており、伸びる速度もそこそこ速い。加えて一本一本に無数の棘がある。内臓に刺さったらこの世からおサラバするのは想像に難くない。

 空中をうねりながら俺の体を刺し貫こうとする荊に対して大きく下がった。半分は空を切って地面に突き刺さり、もう半分が勢いそのままに下がった俺を追尾する。


 上体を深く落とし、俺は全力で正面の荊を剣で切り落とし、胴体を貫こうとしている荊を限界まで引き寄せてから身体を捻って避けた。次に足を狙った荊を飛んでいなし、最後に頭狙いの荊を全力でぶった切る。


「んで地中だ!」


 着地後にすかさず左に転がると、荊が六本地中から生える――最初に地面に刺さった荊が地中を掘り進んで突き上げてきたものだ。


「ふぃー、あっぶねぇ」

「チィッ!」


 悔しそう――違う、苛立っているな。

 顔に「刺し貫かれて当然だ」って書いてあるんだ。低級な攻撃でさっさか終わらせる気に違いなかっただろう。実力差があると思って適当に乱発したところで俺には当たらない。


 俺もイラッと来た。こりゃあ業腹ものだ。


「おい、イバラ女!」

「その口を開く事が不愉快よ!」


 高速で詠唱をこなすと、今度は荊の棘を作り出して飛ばした。


 魔法属性(カラー)は植物、固有特性(タレント)は荊――植物系では珍しい攻撃系。

 植物系は攻撃に不向きで回復に特化する傾向があるが、固有特性(タレント)が荊という物理的に攻撃性が高い植物だったことが功を奏している。物理攻撃力は今回の『試験』の中でも随一だろう。


 とはいえ、アイツは強くはない。戦いに臨むヤツの態度でありありと伝わってきた。

 ここまでの攻防で練度が高い事はよく分かった。それでも未だに戦いではなく一方的な嬲り殺しとでも思って戦いに臨んでいた。

 荊は全弾直線的な軌道だ。何の捻りも面白味も無い飛び道具――単調な攻撃は相手を愚弄している事を象徴している。


「舐め腐ってトゲ飛ばしてるだけじゃあ勝てねぇぞ!」


 その場から動かずに、腕力任せで剣を振り回し、全弾撃ち落としてやる。それでようやっと顔色を変えてきた。こいつはできる――今更だと俺は毒づく。


「貴族はどうにも横綱相撲をしたがる。もちっとハデなヤツを撃てねぇのか?」

「……お望みなら、くれてやるわ!」


 沸点低いなと思いつつ、何が来るかを俺は待った。

 またもや詠唱を始める。このまま突っ込んで対応を見てみるのも面白そうだったけど、挑発した分楽しませてくれることを期待して待つことにした。

 詠唱時間約三秒、距離が遠いため正確に聴き取れないが、効力が発動したようだ。俺の周囲を黒色の荊が檻のように覆いつくす。


「〈黒荊(こくけい)の牢獄〉――収監された囚人が待つ未来はただ一つ、処刑よ」


 高らかに笑い詠唱を紡いでいく。今度は長い。つまりは大技だ。

 自ら待ったがこうなっちまった以上は動けない。挑発を受けたアイツは俺を殺す気でかかってきているということだ。それについては喜ぼう。こちらに対する見方を多少なりとも変えたってことは確かだ。

 にしても、まともに喰らえば結構痛そうだ。


 俺は剣を構える。右手でしっかりと握って肩に担ぎ、左手を前に突き出す。


「咲き乱れろ――〈惨劇の赤薔薇〉!」


 足の裏から感じる点々と土が盛り上がる感触――地中から発生する範囲攻撃だろう。その場から動かない俺を見てイバラ女は勝利を確信して笑うが、既に攻撃の意図を掴んでいる。


「〈奴隷剣技・戦嵐(せんらん)〉」


 地面から無数の赤い薔薇が生える――瞬間俺は剣を水平に構え、竜巻さながら一回転。


「え――」


 強固な荊の檻へと放たれた回転斬撃は、形成しているツタを容易に断ち切る。そのまま体当たりをするだけで軽々と俺は解放された。


「脱獄だ」


 赤い薔薇を俺の血でさらに紅く染めれると思い込んでいたイバラ女は、脱獄した俺から驚愕し、飛び退きながらも詠唱を止めない。こういっちゃなんだが、俺自身もイバラ女を舐めてたみたいだ。檻から解き放たれた事をコンマ数秒でこのエリアを危険域と察知し、引きながら驚異的な詠唱速度で次の魔法を発動させた。色気を出さずに戦況を三秒程度で読み切った。


 今度は詠唱文すらも省略して陣を地面に向けて発動すると、極太の荊が地中から生えるが、織り込み済みの展開だ。

 

「〈奴隷剣技・柳流(りゅうりゅう)〉」


 突っ込む勢いと荊の突き出る勢いに合わせて、荊の表面に剣脊を押し付ける。軸を剣脊の中心に据え、そこを支点に前方宙返り――刃を荊表面に滑らして保持したまま着地する。

 これでゼロ距離に詰め寄った。最後の詠唱チャンスをくれてやるほど俺も優しくはない。剣脊で思いっきり腹を叩く。 


「あぐぁっ……」

「峰打ちだ……安心せい」


 気を失って前のめりに倒れるイバラ女をしっかりと抱いて支える。

 ……これはデカい。何とは言わないがデカいし柔らかい。俺はつい顔をほころばせかけた。

 人生で中々お目にかかれない美貌、金髪ツインテでスタイル抜群……そうだった、目を覚ませば女王様だったんだ。役得と思いながらも後々怖いので、やって来た救護班が持ってたタンカに乗せてやる。


「ふーい……なーんでブーイング混じりなんかねぇ……?」


 勝利宣告はされたらしく、俺は退去を促されていた。それも大歓声で聴こえなかったが。

 本来は俺が荊でズタボロになるのを期待したものだったんだろう。それがおもっきし腹に峰打ちをかますや否や、罵詈雑言の雨あられが俺に吐かれ始めた。

 こんな状況には慣れっこだから、別にどうと言う事は無いが。ちょっち、女の子に打ち込んだ事は反省しているが……こっちも殺されかけたからおあいこか?

 着慣れない魔法学園の制服のボタンを全部外し、インしたワイシャツをキャストオフ――俺は平刃の剣を掲げた。


「ハイ注目ぅ!」


 どうせ周りが敵ならば宣戦布告をしてしまえ。


「俺は魔力を持たねぇ元奴隷だ!」


 どよめきが起こる。それはいったいどちらの言葉に向けられたものか知らんが。


「俺こと、カトレア・キングスレイブはここで頂点を取る! テメェらの魔法を全て、この身一つで叩き潰してな!」




 魔法暦五三六年春の月、王都魔法学園【エンドフィール】は第六七回目の入学試験を迎えた。

 作品の拝読ありがとうございました、伊弉諾神琴です。


 創作欲は異常なまでにあるのに時間が足りないジレンマに悩まされながら、新しく一作品を投じてみました。


 学園ものを書きたい! という思いは常ながらありましたが、やはり王道を行く成り上がりは書くのは難しい……ので、ひねくれものの私に相応しい内容にこれから仕上がっていくと思います。


 豪胆でちょっとスケベなカトレア君の活躍にご期待ください!


 あと小説用のツイッターアカウントを作ったので、よければフォローお願いします。

:https://twitter.com/izanagi0804

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