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それは忘年会の三日前だった。


一通の手紙が届いた。


送り主のわからない封筒にその手紙は入っていた。


“母が他界しました”


ただ、それだけが書かれていた。

何かのいたずらかと思った。


私には母がいない。そう思って生きてきたから。


だけど、気づくと玄関に膝をついて泣いていた。

何がこんなに悲しいのか。

いや、悔しいのか。


わからない。

この感情は一体何?





父と離婚した母は、一人で私と姉を育てた。

朝も昼も夜も働きづめだった母は、

心身ともに疲れ果てていた。


そんな母は、私を完全にいないものだとした。

以前のように罵倒することも、暴力を振るうこともなくなり

いないもの、そう思うようになっていた。


だから、ご飯も私だけ作ってくれなかった。

洗濯物も洗ってくれなかった。

服も、雑貨も全部、姉がいらなくなったものを使っていた。

授業参観も、三者懇談も

先生が困り果てるくらい放って置かれていた。


それだけなら、耐えられた。

ご飯も学校の給食だけで、十分だった。

洗濯も、お風呂場で洗った。


だけど、何より辛かったのは完全なる“無視”だった。

会話をすることを拒否されたことだった。


これだけは、心が悲鳴をあげた。

毎日のように声を殺して泣いた。辛かった。



そんな私を、姉も毛嫌いした。

母のお気に入りの姉は、もちろん母が大好きだった。

母が嫌いなものは嫌い。

母の敵は、姉の敵でもあった。


時々酔っ払って帰ってくる母は

寝ている私の顔をビンタした。

泣きながら、ビンタされた。

この顔が憎い。そう言って。


そんな状況を間近で見ていた姉は、全てこうなったのは

私のせいだと、そう決めつけていた。

だから、姉は私を助けることも構うこともしなかった。

妹はいない、そんな態度でいた。


ずっと、私には居場所がなかった。

泣いても、叫んでも

私の声が届くことはなかった。

どこに助けを求めればいいのか分からなかった。



世間体を気にする母は、高校までは行かせてくれた。


“金は出す。だから、卒業だけは死んでも絶対にしろ。”


そう言われて、必死に勉強をして高校に受かった。

高校生活も特に思い出はない。

ただただ卒業することを思って、日々を過ごしていた。


そして高校卒業後、“もう二度とこの家には帰ってこない”

そう心に決めて、田舎を出た。

母にも姉にも何も言わず、家を出た。


それから、一度も連絡を取らなかった。

あちらからも、連絡はなかった。

だから、私には家族などいない、そう思っていたのに。



きっとこの手紙は、姉からだろう。

どうやって住所を突き止めたのかは不明だが。



死んだ。

あの母が死んだ。


理由はわからない。

その事実に、何も思わないと思っていたのに

朝、疲れ果てた顔で仕事に行く母の後ろ姿を思い出す。


私を一度も愛してくれなかった母。

そしてそのまま死んでいった母。


死に際を見ることもなく、葬式にも出ることもなく

母と一生会えなくなった。


この時、本当に私は一人なんだと実感した。


その事実を受け止めきれない私は

リビングに行き、机の上のノートを開き


母に甘えることのできなかった思いを・・

母に伝えることのできなかった思いを・・


思いつくままにボールペンで殴り書きした。

書いては破り、書いては破り、

それを繰り返しているうちに、ノートの紙はなくなり

声を出して泣いた。




私の母が死んだ。





一度でいいから褒めて欲しかった

一度でいいから抱きしめて欲しかった


あなたは、どうして私を産んだの?






そう。

この時の紙を、そのまま机の上に置いたままにしていたのだ。

それを・・。


それを冬木さんに見られた。

頭が真っ白になった。





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