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はじまり

“冬木さんって

なんか調子狂っちゃうなあ・・はあ"


噂通りの人だと言われれば、そうなのかもしれない。

確かに優しいし、ルックスもいい。

大人で、気も利くし・・・。


だけど、今日だけでとても振り回されてるような気もした。


そのせいなのか、私は冬木さんとの距離を詰めたくなかった。

ううん、そのせいな訳じゃない。

もともと私はこう言う人間。

他人は信用してない。自分を守るのは自分だけ。




ため息をつきながら、

冬木さんの部署がある階へ向かうためエレベーターに乗った。


彼のデスクは部署の奥の部屋にあり、

一度部署の中を横断しなければ、たどり着かない。

他部署の人たちに、またなんか噂されちゃうかなあ・・と心配していたが、

こんな時間まで残業をしている人は、誰一人もいなかった。


真っ暗の部署の奥で、ガラス張りの冬木さんの部屋だけが明るかった。

“そっか、冬木さんだけしかいないんだ・・。

あ・・もしかして、私のせいで遅くなってしまった?待たせてしまった?”


そう不安になった私は足早に、奥にある彼の部屋まで行き

ドアをノックした。


「どうぞ。」


そう響く彼の声が、なんだか懐かしく感じた。

部屋に入ると、冬木さんは微笑みながら迎えてくれた。


この時間に、こんな爽やかな笑みができる人いる?って自分に問いかけた。


「お疲れ様。

 ごめんね?こんな時間に呼び出しちゃって・・。

 今夜用事なかった?大丈夫?」


「あ、はい。大丈夫です。少しびっくりしたけど・・。

 私の方こそ、遅くなっちゃってごめんなさい。

 お待たせしちゃいましたか?大丈夫ですか?」


そう言うと、“そっか”と笑い

座っていた冬木さんは立ち上がり、背伸びをした。


「うん。大丈夫。

 僕もね、気づいたらいつもこのくらいの時間まで、仕事しちゃっててさ。

 それに車で来てるからさ、時間なんてないようなもんなんだ。

 時々、こんな自分が嫌になるよ・・。


 あ、それでね?そのー・・」


苦笑いしながら冬木さんはそう言い、少し距離を詰めて来たと思ったら


「これから、少しだけ君の時間を僕にくれないかな?」


そういって、デスクに腰掛けた。


え?

遠回しにそう言う彼の言葉の意味がわからず、何も答えられないでいると


「こんな時間だし、家に送っていくついでに、色々と話したいなぁと思って、、。お昼に少し話してさ、もっと話したいと思ったんだ。」


彼はネクタイを緩め、私の目をまっすぐ見てそう言った。


彼のストレートな言葉に

まるで蛇に睨まれたかのように固まってしまった私は

その目から逃れるように目をそらし、やっとの思いで言葉を発した。


「あ・・あの、えっと・・

 そんな送ってもらうなんて悪いです。。いつも帰り遅いので、慣れっこなんです。

それに、私何もない、つまらない人間なのでお話しても面白くないですよ、、。。」


早口でそう伝えた。

全て本音だった。

彼にとって、なんの得もないと心から思った。

後で、後悔されても私は何もできない・・。

ここまで言えば、冬木さんも何も言えないだろう。なんて思っていたが


「ねえ、それはさ、僕が君を知ってから判断しちゃだめ?

 あ、それとも遠回しに断ってるのか・・。」


「あ!いや、その・・断ってるって言うか・・んー・・・」


言葉に詰まり下を向く私の視線の先まで腰を屈め

上目遣いで、目を合わせて来た冬木さんは


「あーあ、ますます知りたくなっちゃったなあ・・

 送るからさ、帰ろう?一緒に。」


もうこの目からは、逃れられない・・・そう思った。

ただ家まで送ってもらうだけ。

お世話になった借りもあるし、ここまで言われているし・・

まるで自分に言い訳するように、そう思い込んだ。

反論する気は全くなくなった。


ゆっくりと頷く私の頭を撫で、彼はジャケットを羽織った。




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