関係
部屋に入って、一息つく。
携帯を開くと、
ラインの中に冬木さんが表示された。
それだけのことなのに、なんだか後ろめたさを感じた。
だけど、せっかく連絡先を知ったのだから
今日のお礼だけでも送らなければ・・と思い、簡単に送った。
そして、
そのまま気づいたら眠ってしまっていた。
朝、起きてすぐに携帯を開くと
案の定、冬木さんから返事が来ていた。
『こちらこそ、ありがとう。
またご飯行こうね。おやすみ。』
短文だったけれど、とても嬉しく感じた。
こうやって、つながりが増えていくことが怖くて
一度は断ったはずなのに・・。
結局、連絡先を交換してしまった。
そして、連絡を取り合い、喜んでしまっている自分がいた・・。
私は、弱い。
過去にあんなに苦しめられたのに・・。
孤独の辛さを知っているのに・・。
裏切りの辛さだって痛いほど、知っているのに・・。
忘れてしまったのか・・?
この時の私は、嘘でもよかった。
ただただ、優しさが欲しかった・・。
あの安心感・・温もりを愛しく思ってしまっていた。
土日は、いつも通り過ぎて行った。
心のどこかで、冬木さんからの連絡を期待していたが、
何もなかった。
月曜日。
いつも通りの日々が続いていた。
一つだけ違っていたのが、千沙だ。
なんだか、異様にニヤニヤしてこっちを見ている。
『何?なんかあった?』
朝、ギリギリに出社して来た千沙とは、話ができていなかった。
それで、あのニヤニヤ顔でいられたら気になって仕方ない。
すぐにラインを送ると、
『麗〜。なんで私今まで気づかなかったんだろう〜。
運命の人って身近にいるもんだよねえ・・。』
核心に触れない千沙にイライラしながらも、
どうやら身近に好きな人でもできたのだろう・・。
『え〜?お昼に!!聞かせてね!?』
即返信すると
『あ!お昼!その人も含めて麗もご飯行こうね!』
え・・?その人も含めて・・?
どういうことだ?
身近って・・この会社の人?それとも近くの会社の人?
ハテナが頭を支配した。
もう、ラインでのやり取りが面倒になり、
返信するのをやめて仕事に集中した。
お昼。
「麗〜!お昼いこ〜」
千沙がご機嫌な様子で、いつものように誘って来た。
「ねえ!どういうこと?誰?なに?」
千沙の顔を見るなり、質問攻めにした。
「いやさ〜、A部署のね、人と〜・・いい感じになって〜・・」
にやけながら、はっきりと話さない千沙は恋をしている顔だった。
A部署って・・冬木さんの部署か・・。
どの人だろう・・・
にしても、あれだけ合コンをしている千沙だが
恋愛にまで発展するのは珍しい・・。
「で?その人とお昼行くの?」
「そうそう〜!だから、一緒にA部署いこ〜」
うわあ・・そうかあ。
そういうことかあ・・。
ウキウキで歩き出す千沙の後ろを、重たい足を引きずってついて行った。
A部署に行けば、もしかしたら冬木さんにも白鳥さんにも
遭遇してしまうかもしれない・・。
ましてや、お昼時なんて・・。
憂鬱で仕方なかったが、何一つ事情を知らない千沙に
“行きたくない”なんて言えない。
それに、こんな上機嫌な千沙を前にしては、尚更言えなかった。
A部署に着くと、千沙はキョロキョロと辺りを見回し始めた。
「あれ〜。ここら辺にいるって言ってたんだけどなあ・・」
極力、うろつきたくない私は、どんどんと中に入っていく千沙から離れ、
廊下の隅の方で千沙を見守った。
あ!という顔をした千沙は、誰かに手を振って
合図をしている。
どうやら相手が見つかったらしい・・。
その視線の先を見ると、
冬木さんがいた。
え!?
驚いた・・。
が、千沙が手を振っていたのは、その隣にいる若い男性だった。
“なんだ・・びっくりした・・。”
とホッとしたのも束の間、
その人とともに、冬木さんも千沙の元に近付いて行っていた。
“いやいや・・冬木さんは関係ないでしょ?
なんで?"
胸の鼓動が早くなり、手に汗が滲んだ。
ビシッとスーツを着て歩く姿が、遠い存在の人のようで・・
ここ数日あったことが嘘のように感じた。
千沙が今度は私を探していた。
“うわ〜・・探してる・・。”
逃げ出したい気持ちを抑えて、
意を決して、千沙の元にゆっくりと向かった。
「あれ〜?麗がいなくなっちゃった・・」
そう言ってキョロキョロしている千沙の腕を掴み
「千沙!」
「あー!何処行ってたのー?もう〜!
でね、えっと・・A部署の五十嵐さんと・・冬木さんも!」
そう言われ、やっぱり冬木さんも一緒なんだ・・と
複雑な気持ちになった。
「初めまして・・ですよね?確か・・。
千沙さんとは、つい先日の飲み会で仲良くなりまして・・。」
私より、少し上かな?という印象のある五十嵐さんは
冬木さんの隣にいるせいか、フレッシュさが際立って見えた。
爽やかで優しそうな好青年だった。
その隣でニコニコしている冬木さんが
「ねえ、こんな若い所に・・おじさんが入ってもいいの?」
なんて茶化しながら言った。
「いや!むしろ無理に誘っちゃって申し訳ないです・・。
僕、こんな機会がないと冬木さんとご飯行けない!と思って・・。」
そう言う五十嵐さんに、千沙の目はずっとキラキラしていた。
やれやれ・・と思いながらも、
部下からそんな風に言われる冬木さんって、やっぱ憧れの存在なんだなあ・・
と他人事のように彼を見て思っていた。




