ここから。
「麗さ・・。
僕が、連絡先の話したから、やばいって思って
あの話したの?」
冬木さんはきっと、茶化す時にするあの顔で聞いてる・・と
彼の顔が見えなくても、想像ができるような言い方で聞いてきた。
「・・・だって・・。
どんどん近い存在になっていくのが怖かった。
もし、離れられなくなったらどうしようって・・思って・・
私は、冬木さんの家族を壊したくない。」
拗ねたような口調で言う私に、笑みを含みながら
「大丈夫。だってこんなおじさん、麗は嫌でしょ?」
そんなことない・・。そう言ってしまいそうだった。
何より、冬木さんを”おじさん”だと思ったことがなかった。
男性として、異性として・・見ることなんて容易にできる。
いや、そう意識していたかもしれない・・。
でも、そんなこと言ってしまったら・・取り返しがつかなくなる・・
そう思って、何も返せないでいた。
何も言わない私を見て、抱きしめていた体を離した。
「さて、帰ろうか。」
頭を撫で、そう言う彼に
私は寂しさを覚えた。
彼には帰る家がある。
待っている人がいる。
そう考えると胸がチクチクした・・。
あっという間に家に着いた。
礼を言い、冬木さんが助手席のドアを開けてくれて
降りると、引き寄せられて抱きしめられた。
「ちょっ・・・。」
突然の行動に、驚いた。
今日だけで、何度抱きしめられただろう・・。
でも、何度されても胸の鼓動は早くなる。
「そう言えばさ、肝心な連絡先教えてもらってなかった。」
あ・・。
事の発端である連絡先のことを、忘れていた私は
冬木さんにそう言われ、携帯を出した。
此の期に及んで、教えないわけにはいかなくなっていた。
「ちょっと貸して。」
私の携帯を手に取ると、慣れた手つきで番号を入れ
どこかに電話をしていた。
「よし。これで麗の番号わかった。
なんかあったら、ここに電話して?
いつでも駆けつける。」
冬木さんは私の携帯で、自分の携帯に電話をし
私の番号を記録させたようだ。
“いつでも” なんて、そんな守れないこと言わないでよ・・。
軽はずみに聞こえたその言葉に、心の中でそう呟いた。
「それじゃあね。またご飯行こうね。」
そんなこと、私が思っているとも思っていない冬木さんは
そう耳元で囁くと、運転席に行き車に乗った。
運転席に頭を下げると
彼は笑顔で手を振り、ゆっくりと走り出した。
“寂しい”
率直にそう思ってしまった。
彼の温もり・・
声も匂いも優しさも・・
知ってしまった。
きっと・・・
この時にはもう彼の沼に、はまっていたんだろう。




