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憧れの的

目の前には山積みの資料。

昼からこの山積みは減ることもなく、増えていく一方だった。

時計はもうすぐ20時半を指していた。


‘‘どうして今日に限って・・・’’

とため息をつきながら麗は、キーボードを叩いた。


入社して3年目になるが、定時で会社を出るなんて

奇跡だと感じるようになっていた。


有無を言わさず、今日も残業確定。

今日は確か、若手イケメン俳優が主演をつとめるドラマが始まるはずだった。

麗は、2つ年下のその俳優が出るメディアは全てチェックするようにしていたが、

今夜は、見られるはずもない。

その事実に肩を落としながら、一日中パソコン作業で

しばしばする目をこすって、仕事を続けた。


周りからも、カタカタとキーボードを叩く音が聞こえる。

皆、一分一秒でも早く帰りたいがために

必死でパソコンにしがみついて仕事をしていた。


‘‘明日こそは早く帰ろう。’’

そう毎日自分に唱えるように呟く。


やっとの思いで仕事を終えた頃、時計の針は23時半を指していた。


「やばい!終電!」


急いでパソコンの電源を落とし、帰り支度をして会社を出ようとすると

後ろから声をかけられた。


「今、帰り?遅いな。」


聞き覚えのあるその声に、無視することも出来ず振り返った。


「あ、冬木さん・・」


こんな時間まで仕事をしていたであろう彼は、ちっともそんな風に見えない出で立ちで私に微笑んだ。


「送ってくよ」


その言葉だけで、私は全てを理解した。



ーーーーーーーー



冬木さんとは、部署が違うため会社で関わることがほとんどなかった。

だけど、彼の噂は入社当時から耳にしていた。

この会社で彼を知らない人はいなかった。


身長は182cmの高身長、

整った目鼻立ちに、30代後半には見えない爽やかさを持ち

愛妻家の子煩悩。

会社でも常に笑顔で、

物腰の柔らかい言動に、落ち着いた立ち振る舞いが

女性社員の心を射止めていた。

何より仕事もできて、出世している彼は上司からも信頼されていた。

非の打ち所がない人と言えるくらい完璧だった。


今まで彼の悪い噂など聞いたことがなかった。



そんな冬木さんと、私は思わぬことから

急接近することになったんだ。





それは1年前の忘年会後でのこと。


まだ新米の私は、誰よりも飲まされ、そして誰よりも早く酔っ払ってしまった。



気がつくと、見慣れた自分の部屋のベッドに寝ていて、

時計を見ると、とっくに昼の12時をすぎていた。

帰って来るまでの記憶がない私は、ガンガンと痛む頭にうなされながら

昨晩のことを聞くため、同期に電話をした。


いや、私から・・ではない。

早朝、同期から

‘'ねえ!起きたら連絡して!’’

とラインが何通も来ていたのだ。


一体、私は何をしでかしてしまったのだろうか、とビクビクしながら

電話をかけるとワンコールで千沙は電話に出た。


「ちょっと!!麗!やっと連絡ついた!ねえ、今家!?」


第一声から興奮気味の彼女の声が、頭に響く。

ガンガンと痛む頭を抱えながら、携帯を少し耳から離し答える。


「ねえ、昨日私なんかしちゃった?」


朝から声を出していなかった私は、声がガラガラになっていることに、この時気付いた。


「え〜!?覚えてないの!?

 何かしたも何も、あの冬木さんが酔っ払った麗をタクシーに乗せてったんだよ?

 むしろ、その後どうなったか私が、聞きたくて仕方なかったんだけど?」


「え!?冬木さん!?なんで?」


「なんかね、家の方向が一緒だからって率先してタクシー拾ってくれて

 送ってったみたいだけど。

 私、その場にいなかったから詳しいことまで知らないんだよね。

 ラインしても麗、返事くれないし・・!

 それより!家なの?まだ一緒なの?」


「え!?一緒なわけないよ!家で一人、ちゃんと寝てたよ・・。」


「なんだ〜よかった。まさかあの冬木さんがお持ち帰りしたのかって、

 先輩達がヒソヒソ言ってたから。

 あ!でも、月曜にちゃんと否定しておくから、安心して?」


「ああ・・そうなんだ。厄介なことになっちゃったなあ・・。

 もう・・冬木さんになんて言おう・・。」


「とりあえず週明けにでも、お詫びはすべきだね。

 にしても、冬木さんに介抱されたなんて羨ましい〜!」


「千沙・・。そうだね、お詫びはちゃんとする。電話ありがと。」



羨ましいとかそう言う問題じゃないんだけど・・と呟きながら

電話を切った。想定外の事実に尚更頭が痛くなった。

最悪だった。

話もしたことのない皆の憧れ冬木さんに、迷惑をかけてしまった。

しかも、少しも記憶がない。

記憶を無くすまでお酒を飲むなんて。。介抱までしてもらって・・。

全てをなかったことにしたかったが、とにかく冬木さんにはしっかりと謝らなければ。


週末はその事実が憂鬱で、家から一歩も外に出なかった。




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