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葛藤



話終えたとわかると、冬木さんは



「そうか・・。」



それだけ言って、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。

何かをじっくり考えているような・・

目を伏せて、冬木さんはそれ以上何も話さなかった。



そんな冬木さんを前に、私も言葉を発することができなかった。



「麗。行こう。」



コーヒーを飲み終えた冬木さんは、

私がトイレに行っている間に、お会計を済ませてくれたみたいだった。

私の手を握って、手を引く冬木さんの後をついて行った。



“もう何を考えてるのかわからない・・”



本当に、この人がわからなかった。

意を決して、話をしたのに・・。

なんの答えもくれない。

振り回すのもいい加減にしてほしい・・




そんな思いが、頭の中をぐるぐるとし

店を出てすぐ

彼と繋がる手を振りほどいた。


急なことに驚いた彼は、振り向いた。



「麗・・?どうした?」



「・・んうう・・もう!冬木さん!!

 なんで?どうして!?手をとるの?どうして何も言わないの?

 話をしようって言ったのに・・言ったのに・・!

 どうして・・どうして・・

 私から・・離れてくれないの・・?」



言っている最中に、頰を涙が伝った。

次から次へと流れる涙を、止めることができなかった。


感情的になる私に、落ち着いた声で



「麗・・。おいで。」



離したはずの、大きな手がまた私の手をとった。

涙でぐしゃぐしゃで、そんな顔を上げることができなくて

抵抗もせず、

そのまま冬木さんに抱きしめられた。





優しく頭を撫でるその手が

全てを包み込む大きなその手が


まるであの日の父のようで。



冬木さんの胸で、小さな声をあげて泣いた。


あなたを父と同じようにしたくないのに・・。

あなたは父と違うと思っていたいのに・・。





それから

どのくらいの時間が経ったかわからなかったけれど、

流れる涙が止まり、少し落ち着いた。



「冬木さん・・。」


そう小さく呟くと

それを待っていてくれたかのように


「行こうか。」



そう言って、彼は抱きしめていた手を離し

その手で私の手を握った。


車に向かい、助手席の扉を開けて私を乗せ

運転席に座った。





どこに向かっているのかも

どこの道を通っているのかも

今何時なのかも

今冬木さんが何を思っているのかも


何も、何もわからなかった。



私は泣き疲れと、赤ワインのせいもあってか

気づくと、寝てしまっていた。



ハッと目をさますと

目の前には、真っ暗な海が広がっていた。

座席は少し倒されていて、ブランケットがかけられていた。

小さな音でラジオが流れていた。


隣にいる冬木さんは、まだ私が目を覚ましたことに

気付いていない様子で、海を眺めていた。




少し、体を動かすと冬木さんはすぐに

こちらに気付いた。


「あ、麗。おはよう。」



「ごめんなさい。私・・眠ちゃったみたいで・・。」


体を起こし、腫れぼったい目を手で覆った。



「ねえ、麗・・。

 

 僕ね、麗といるとね、とても楽しくて癒されるんだ。

 本音を言えば、もっと甘えてほしいし

 もっと頼ってほしい。

 そして、もっと君のことが知りたい。

 まだ、何も知らないんだよ。」



そう言って、冬木さんは私の頰を触った。



「白鳥には、正直困ってる。

 元々、彼女が部下として入ってきて仕事を身近で教えていたのが

 僕だったせいか、そのままずっと側にいるようになったんだ。

 僕はね、彼女を周りと変わらない、

 部下の一人として思っているのに、何をどう捉えているのか・・

 麗にそんなことを言いに言ってたなんて。

 それをさっき聞いた時に、驚きとともに

 なんだかとても申し訳なかったんだ。

 嫌な思いさせたよな・・ごめんね、麗。」


冬木さんは、また私に謝った。


「それにね、

 白鳥は、僕のこと何も知らないんだよ。

 僕は彼女に仕事以外の話をしたことがない。

 逆に、白鳥は聞いてもいない自分の話をたくさん話してくれるから

 なんだって彼女のこと知ってるけどね・・。」


なんて言って、困ったように冬木さんは笑った。



「ねえ、とても意地悪なことを聞いてもいい?」


ん?と、彼の方を向いて首をかしげると


「麗は、僕が既婚者じゃなかったらどうしてた?

 そばにいてくれた?」



ああ・・そんなこと、聞いたところでどうするんだろう。

冬木さんが、既婚者じゃなかったら・・?



「うーん。想像がイマイチつかないです・・・。

 でも、既婚者じゃなかったら、きっと冬木さんのそばにいた・・かな。」



そう。重要なのは、彼が既婚者で子持ちということ。

それを抜きにしたら・・なんて本当、

聞く意味がない質問だ。

実際、彼は妻子ある人なんだから。



「そっか。そばにいてくれたんだ・・。

 じゃあ、さ、麗。

 別に深く考える必要はない・・会社の上司として・・

 こうやって僕は麗と、これからもご飯を食べたりしたい。」



深く考える必要はないなんて言いながら

冬木さんは、言い終わると私の腕を引き寄せ

優しく抱きしめた。



「でも、その・・私が言っているのは

 ご飯だけ食べるにしても・・

 帰りが遅くなるのは良くないかなって・・。」



「どうせ、毎日残業しているんだから変わらないよ。

 それに、結構部下と呑みに行っているからね。

 週末にちゃんと子供との時間を作っているから・・大丈夫なんだ。」



ダメだよ・・・

部下だとは言え、二人きりでご飯とか・・

こうやって車での移動とか・・

今も抱きしめられてるし・・。


私が奥さんだったら、嫌だもん。



そう心の中で、つぶやいて・・

それでいて・・私は

彼の腕の中から出られないでいた。




“ここがとても安心する”



そんな風に思い始めてしまっていたから・・。







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