主導権
「冬木さん...
実はお話がしたくて。。
だから、送ってください。なんて無理言ったんです。
あの日のこと…覚えてますか?
あの日もこうやって、車で送ってくださいました。
でも、その次の日。
白鳥さんって方が、私のところに来ました・・。」
そこまで、抑揚のない声で一気に話した。
冬木さんは、“白鳥さん”と聞くと、一瞬私の顔を見た。
でも、窓の外を見ていた私は、その時彼がどんな表情をしていたか
見ることができなかった。
”送ってください”
咄嗟に口から漏れたその言葉に、本当は理由などなかったけれど
全ては後付けで・・。
冬木さんを遠ざけるために。
しっかりと、きっぱりと離れるために。
事実と嘘を織り交ぜながら、話を続けた。
「白鳥さんはあの日、私が冬木さんの車に乗っていた事実確認と
冬木さんにはご家族がいて、私なんか構っている暇はない・・
冬木さんは優しいから、その優しさを本気にして甘えるべきではない。
ご迷惑になるからって・・。」
そこまでいうと、冬木さんは
「ちょっと待って。そこでストップ。」
話し続けようとする私を制して、車を停めた。
いつのまにか到着した所は、ダイニングバーの駐車場だった。
「麗、続きはここで話ししてもらっていいかな?
ちゃんと顔を見て話しが聞きたい。」
そう言い、彼は運転席を降りると
助手席を開けて、私の手をとり車から降ろしてくれた。
“ね?”そう耳元で囁き、当たり前のように私の手を握り
お店へと冬木さんは向かった。
彼のペースに飲まれ始めてしまった私は、
絡みつくその手を、離すこともできず
連れて行かれるがままお店へと付いて行った。
薄暗い照明の落ち着いた雰囲気で、
白いひげを生やした白髪の店員さんに案内され
対面式のテーブル席に通された。
時間が時間のせいか、まばらに数名客がいた。
その客層も、冬木さんと同世代・・それより上くらいで
ここなら落ち着いて話ができる。そう冬木さんは
思ったのかな、と感じた。
「さて、何食べようか。」
明るい話ではないことを察したはずなのに、
なんてことない笑みを浮かべて
メニューを渡してくれる冬木さんを見て
“この人にはかなわないな・・”そう思った。
「ほら、これ美味しそうだね。」
優しくそう言い、嬉しそうにメニューの一つ一つを指差す彼が
昔の父と重なり・・
不覚にも涙が出そうになった。
“嫌だ。こんな気持ち…早く離れたい。”
パッと目にうつったオムライスを指差し、
「これにします。」
そう言って、メニューを閉じた。
きっとすぐに出てくるだろうし
食べるのにも、そんなに時間がかからないだろう。
そんな理由から、オムライスにした。
「お、オムライスか〜。いいなあ・・。
いや、でも僕は・・これだなあ〜
すいません。オーダーいいですか?」
私のオムライスの後に
冬木さんが注文したのは、ステーキだった。
こんな時間に、よくもまあ、そんなヘビーなものを・・。
と思いつつも、嬉しそうにしている冬木さんを前に
かわいいなあ・・と思った。
「あ、麗、軽くお酒飲んだら?明日休みだし。
僕が送っていくし・・。」
突然の提案に、驚きながらも
「いや、でも、私だけ頂くのはちょっと・・。」
そう言っている矢先に
「すみません〜。赤ワイン一ついただけますか?」
と、勝手に注文した冬木さんに
え!?!?っと大きな声を出してしまった。
そのせいか、注文を受けた店員さんが承っていいものか
困惑の表情をこちらに向けたため
「あ・・お願いします。」
そう言うしかなかった。
ふふ・・と笑い
「麗、赤ワイン好きだもんね。」
そう茶化してくる冬木さんに
無言で睨むことしかできなかった。
確かに、泥酔したあの日はずっと赤ワインを
呑んでいたが、それは上司が赤ワインをボトルで
頼み続けたから。
嫌いではないけれど、酔いがまわるのが早いので
ゆっくり呑もう・・と心に決めた。




