矛盾
15分ほど経って、冬木さんが現れた。
足早に歩く彼は、しっかりとジャケットを羽織っていた。
そんな姿に、自然と気持ちが高まった。
“こんな気持ちになってはいけないのに・・”
そう思いながら、冬木さんの元に駆け寄った。
「ごめんね、待たせたね。
さ、行こうか。」
そう言い、先を歩き出した冬木さんの後を追い
駐車場へ向かった。
あの日と同様、助手席のドアを開けて待っていてくれた。
その気遣いを、優しさを、当たり前だと思わないように・・。
そう自分に言い聞かせて、
「ありがとうございます。」
そう言って車に乗った。
運転席に座った冬木さんが
「ねえ、麗。少しお腹空かない?」
そう言って、エンジンをかけた。
「お腹・・そう言えば空きましたね。」
「ね。ちょっと軽く食べ行こうか。」
ニコッと笑ってそう言い、ゆっくりと車を出した。
彼の隣に座るのはまだ2回目。
なのに、こんなに安心するのはなんでだろう。
そんな居心地の良さを感じながら、
眠らない街に目を向ける。
「麗・・。あれから、全然会えてなかったね。
最近、膨大な仕事量でね。
誰がミスをしても、おかしくないほどでさ、
だからって、今日のミスが許されるものでは無いんだけどね。
そんな中で、ふとした時連絡したいなって思ってたんだ。
でもさ、麗の連絡先を知らなかった。」
車中に響く、低く落ち着いた声が
とても気持ち良く、ずっと聞いていたかった。
あ・・。そうだった・・。
でも、そんなタイミングが無かった。
そして何より、連絡先を必要としていなかった。
でもそれを、彼は必要とし始めている・・。
ここで・・。
プライベートで、冬木さんと繋がってしまったら・・。
いや、そんな深く考える必要はないのかもしれない。
彼にとっては、挨拶程度の行為なのかもしれない。
“連絡先だけを交換する”
それだけのことなのかもしれない。
だけど・・ここで教えてしまったら。。
もう後には戻れない気がする。
そんな気がしたんだ。
「あ・・そう言えばそうでしたよね・・。
でも、会社で会おうと思えば
いつでも会えるし、用があったら会社のメールでも・・。」
とっさに、腕を掴んで
“送ってください”なんて言った自分が
なぜ、連絡先を交換することを渋るのか
冬木さんは疑問に思っただろう。
私も、私がわからなくなっていた。
矛盾だらけの、行動に言動・・。
冬木さんを戸惑わせてしまっているのもわかっているのに。
信号待ちで、こちらを振り向き冬木さんは言った。
「麗?あのね、
辛い時、寂しいとき・・。怖い時、ううん。
楽しい時だっていい。暇で仕方のないときでも。
僕に連絡してくれたら、いつだって相手になる。
まあ、連絡くれなくてもいいんだけど。
ただ・・ただ君の連絡先を知っている。それだけで安心するんだ。」
言い終わると
うつむく私の頭を撫でて、再び車を走らせた。
何を言っているんだろう、この人は。
あなたには家族がいて、私なんか構う暇など無いでしょう?
一番は家族。
私なんかただの暇つぶし。
そんなのわかってる。だから、そんなこと言わないで・・。
何より、あなたにとって負担になりたく無い。
どうせ、あなたも私を裏切り、離れて行くのだから。
傷つくのだったら、浅いうちに終わらせたい。
ぐるぐるとする頭の中で、
口からポロポロと、言葉が出た。




