再来
それから、同じ毎日の繰り返し。
朝から晩まで、仕事に追われ・・・
寝るためだけに帰っている家は、荒れに荒れていった。
そういえば最近、ろくにご飯も食べていない。
食べるよりも、睡眠を優先にしているせいだ。
私は、なんでこんなにがむしゃらに働いているんだろう・・。
そう疑問に思いつつも、他に趣味があるわけでも
遊びに行く人がいるわけでもなかった。
仕事しか、私にはなかった・・。
あれから、白鳥さんの顔も見なければ
冬木さんの顔も見なかった。
部署が違えば、階も違うのだから、会おうとしなければ
会わないのは当然なんだが。
“これで良い。このまま私のことなんて忘れてほしい”
そう心から思った。
私は一人が一番なんだ。
けれど、その思いは早々に砕け散った。
2週間ほど経った頃。
冬木さんの部署で、大きなミスがあり
そのミスは私の部署でも、被害を被る内容だった。
そのため、冬木さんの部署はもちろん
私たちの部署もその日全員、強制的に残業確定だった。
いつものように残業をしていた私は、なんとも思わなかったが
千沙のように、定時に上がり
仕事終わりを謳歌している者たちからは
不平不満が漏れていた。
「はあ・・もう、今日の予定なしにしたよ・・。
なんで、うちのミスじゃないのにさ〜も〜。」
定時を超えて、お菓子をつまみながら千沙が愚痴を言いに来た。
「まあね、でも、同じ会社だしさ、ありえなくないミスだからね。
そこは仕方ないでしょ。」
「いやいや、麗・・。どんだけ温厚なのー?飲み込み早すぎ〜
ミスした本人に文句の一つや二つ、言いたいくらいだよ。」
口ばかりが動いて、全く仕事を始めようとしない千沙の背後に
近づいて来たのは、彼だった。
「申し訳ない。うちの部署のミスで。
全責任は僕にある。だから、予定のあった方は帰っていただいて
大丈夫だから。
その代わり、引き継ぎだけ、僕に言ってくれないかな。」
久しぶりに見た、冬木さんは
一人一人に同じことを言って回ったのであろう
疲れた顔をしていた。
「あ!いえ!そんな・・。では!仕事して来まーす。」
突然の冬木さんの登場に驚いた千沙は、くるりと背を向け
自分のデスクに足早に戻って行った。
そんな千沙を目で追い終えた冬木さんは
私の方に視線を戻した。
「麗?ごめんね?
仕事増やしてしまって・・・。麗も早く上がってもらって構わないからね?
あれ?見ないうちに痩せた?ちゃんと食べてる?」
こんな時でも、他人の心配をする冬木さんに・・
そして顔を近づけて話す冬木さんに・・自然と鼓動が早くなってしまう自分がいた。
落ち着け・・と自分に言い聞かせて
「あ・・いや、痩せてないですよ〜。最近、ダイエットし始めたからかな〜
それに、いつもの仕事と同じ量ですから。
大丈夫です。そんな顔しないでください。皆でやればあっという間ですよ!」
あまりにも、疲れ切った顔をしている冬木さんを前に
少しだけ元気にそう答えた。
何より冬木さんの人望なのか、誰一人先に上がる者はいなかった。
あの千沙でさえ、真面目にパソコンに向き合っていた。
それがなお一層、彼の罪悪感を募らせていったようで
「できる限り、こちらの部署で受け持つから・・。
後1時間くらいで帰ってもらえるようにするからね。」
冬木さん、こんな目の下クマあったかな〜なんて
彼が話している間、まじまじと顔を見つめてしまった。
それが気まずかったのか、彼は隣の席にお詫びをしに行った。
『冬木さん、大変だね〜。冬木さんのミスじゃないのにね。』
千沙からそうLINEが入った。
彼のミスでないのは、誰しも百も承知だが
責任者である以上、全て被るのは社会のルールなのだろう・・。
なんども、頭を下げている彼の姿が目の端に映るたび
切ない気持ちになった。
全て回り終えた冬木さんは
深々と頭を下げて部署を出て行った。
あんな冬木さんを誰も見たことがなかったせいか
彼の姿が見えなくなってから、皆が一斉に話し出し、ざわざわとした。
そのまま、1時間
誰も帰らず、残業をした。
すると、また冬木さんが部署に現れた。




