第5話
闇夜の森の中を歩いていく二人がいた。道の両脇には見上げると高い木々。暗くて道が分からないが、アルアはアジスについて歩く。そして森を進んでいく…
「そういえばまだ名前を聞いてなかったな」
「ん…あぁ。俺はアルア=アレフ」
考え込むアジス。アルアはその姿をじっと見ていた。腰くらいまである髪。月明かりのせいでハッキリとは分からないが、黒みのかかった白っぽい髪だった。
「聞かぬ名だな。どこの国の者だ。国というよりは軍だが」
アジスがそう訊いてきた。
「軍? そんなのないけど」
俺は困ってそう答えていた。そもそも最初からそんなのなかった。戦いたくても、戦えない毎日に嫌気がさしていたんだから…
「おかしいものだな。こんな場所にいるということはどこかの軍の者ではないのか…」
さらに考え込むアジス。さらに見つめるアルア。良く見ると、背は俺より高かった。俺が160あたりだから、えっと…170あたりかな…
「アジスって言ったっけ。あんたはどこの軍なんだ。ついでに何歳?」
ついでに訊いてるのが変な感じがしたけど気にしないでいよう…
「ん? あぁ。私はアストポリスの軍のものだ。それと19歳だ」
何も気にせずにアジスは答えてくれた。ノリのいい人…
「ときにアルアとやら。その着ているものが珍しいのだが、本当にどこの国の者でもないのだな」
いきなり話題を変えて訊いてきた。俺は自分の体を見る。何の変哲も無いローブのはず、全身を覆う大きな布のはずだった。それが珍しいのか…
「別に珍しいものでもないだろ。国もなければ戦いもないのに」
言って俺は気づいた。そもそも最初から国という存在がなかったことを…
「国がない? ふっ、おかしなことを言うな」
戦いがないから俺は嫌気がさしてたはず。なのに戦いがある…
「今は戦争の世の中だ。生きるか死ぬか、そんな世界だ」
俺はたちまち不安になっていた…
「…聞いているのか」
一瞬、それが耳に届いた。何を考えていたのだろうか…俺は…
「もうすぐ着くぞ」
アジスがそういうと、いつの間にか広い草原に出ていた。
月明かりに照らされた広大な草原。ところどころにある緩やかな坂が山を描いていた。風になびいて草が揺れる。短い草だ。
すると右奥が光っていた。
「あそこだ」
アジスも同じ場所を見ていた。ここからじゃよく見えない…
小高い丘まで歩いてその光を見渡した。昔、本で読んだ“刀”というものだろうか、それを抱いて寝ている傷だらけの人々がたくさんいた。目測でも100、200…いや、それ以上は居るだろう。その近くに、今度は“松明”というものを持ってキョロキョロと周りを見回す3人が何組かいた。光の正体はこれだった…
「この軍を潰すのが私の仕事だ」
俺とアジスはうつぶせて様子を伺っていた。
「こんな人数を相手にするのか」
驚き口調でそう言っていた。
「声がでかい、気づかれたら厄介だ。それに、私なら心配ない、すぐに終わらせる」
俺を落ち着かせる感じの言葉だった。
「あぁ、わるい。でもホントに大丈夫なのかよ」
落ち着いて訊いていく。
「まぁ、少々骨を折るが大丈夫だ」
俺はあることを考えてみた…
「なぁ、俺にやらせてくれないか」
なぜかそんなこと言っていた。なぜだろう…
「………」
アジスは驚いているのだろうか…気になる…
「死ぬ覚悟はあるってさっき言った。だからやらせてくれ」
アジスは俺を見ている。そして…
「あぁ、わかった。好きにしろ」
そう答えてくれた。ありがとう…
「さーってと」
一歩前に出た。心は躍り、胸は高鳴っていた…