第4話
何かが変わったとすれば…
「…あったかい?」
突っ立っていた俺の体は、太腿から下が何かに浸って暖かい感じがしていた。
「…温泉か?」
体を曲げて、恐る恐る指をつけてみるとやっぱり暖かい。
「…これは、霧か?」
周りを見回しても白の一色しか見えなし、今は夜なのだろうか、霧の奥が暗くなっている。
「…しかたねぇ…」
俺は目を閉じて風を起こした。風の音が聞こえて風が視界を広げた。
「何処だこ…」
周りを見渡せば、森の中。そして夜。そんな中で俺はある一点…正面の少し下に視線が集中していた。そして、固まった。
そこには…温泉に入っている…一人の…女…が見えた…
「……ぅおおぉぉぉおおお!!?」
俺は、我に返って叫んだ。そして後ろに倒れた。
「なんだ、貴様は。温泉に脱がずに入るとはどういうことだ」
特に恥ずかしがる様子もなく、俺に対してそのまま言ってくる。少し見えているなかなか大きな胸も隠そうともしないし…まぁ、暗くてハッキリ見えないからいいんだけど…
「なっ、何だよお前は。つか、ここ何処だよ」
それでも俺は取り乱した。直視することが出来ない俺は、視線をズラす。女の裸を見たことあると言えば嘘になる。むしろ、女と話すこと自体無いに等しい。
「私か? 私はアジス=アベバ。そして、ここは見ての通りの森の中の温泉だが」
怪しいところもなく、そのまま問いを返してきた。というか、怪しいのは専ら俺だろうな…
「あ…っとえっと…」
すぐ言葉に詰まる俺。
チラッ
チラチラッ
…チラッ?
視線は胸へと向けてはすぐに逸らしていた。
沈黙が続き長かった。俺は、温泉の温度と恥ずかしさからか体温が急上昇していき、ついにお湯の中へと倒れた。
「おい、大丈夫か!?」
水の流れ、跳ねる音で彼女が近づいてくるのが分かった。
そして、お湯の中から持ち上げられて、生柔らかい感触を感じた。少し目を開けた…が、すぐに目を閉じた…
やがて感じたのは背中に受ける濡れた服がペタ付く感触と、やさしい手と生柔らかいのが離れていく感覚だった。
すぐに目を開けたらどうなるか予想は出来たので、しばらくそのまま寝ていた。
時間を見計らって右目を少し開けてみる。彼女が見えたから体を起こした。服は乾いてすらいないがそれでも少し温かかった。
「気がついたようだな」
彼女に目を移す。胸やら腰やらに頑丈そうな甲冑が月明かりに照り、内側には淡い赤色の布を纏っている。多分俺が横になってる間に着替えたのだろう。
後ろには温泉が暖かそうな湯気をたてていた。
「私より入浴時間が短いというのに、のぼせるのが早すぎだ」
反応に困ったので俺は沈黙していた。
「だが、問題ないようだな。わたしは行くぞ」
そう言って彼女は立ち上がった。両腰に柄のようなものが見え、俺は疑問に思って、
「何処にいくんだ?」
そう訊いていた。他に訊くこともあるだろうに…
「何処って、戦場だ。くわしくは話せないが、ここはたまたま見つけた温泉だから入ってた。それだけだ」
「戦場? 戦ってるのか?」
戦場という言葉に異常に反応した俺がいた。なにせいつも戦いたいと思ってるからだ。これを逃すわけもなかった。
「一緒に行かせてくれ」
彼女が答える前に、無意識にその言葉が出ていた。
「…まぁ、かまわないが。死ぬ覚悟はあるか?」
さっきまで無かった鋭い視線が俺を見る。
「…あぁ」
覚悟は最初からあった。いま、更に固めた意思。
「なら、ついて来い」
そう言って彼女は俺の横を通り過ぎる。俺も立ち上がってついて行った。服は大分冷たくなっていた。