第20話
照り始めようとする日の下、草原を歩き続けている。結構歩いた…
「ハァ…ハァ……」
歩くのに慣れていない。それだけで歩くだけの行動が疲れた。休みたい…
でも、アジスはスタスタスタと、一定のリズムを刻んで歩いている。すごいな…
正面から昇る日の光を受けて白銀に反射する白灰の長い髪。それは時折吹く風によってなびいていてはアジスの面をあらわにし、時に隠している。その表情には凛とした雰囲気が漂っていて、休みたいって言える空気じゃないな…
鈍く光る鎧も、歩くたびにアジスの体力を奪っていくハズなのに…ハズなのに俺はアジスより先に疲れていることに情けなくなる…
その右腰には刀がすえられており、長さも一般的、刃幅も一般的だった。打ち刀ってやつかな? 結構昔の武器だけど…
「・・・・」
比べると俺が悲しくなる。お気に入りと言うか、このマントを主に着ている。体全体が隠れるから目立ちにくくなるし、フードもあるから余計に隠れられる。元の年代では、色違いのマントを結構持ってたんだけど…。この年代でいろいろ見つけたからいいけど…
それ以外には何も持ってない俺。だから、見た目で魔法使いってわかってしまうな…。アジスも騎士として見えるのかも知れない…。っま、いっか。
と、色々と考えていたところで疲れていることには変わりはない。何とかしてー
「フラフラ〜…」
フラフラと口に出しながら蛇行する。すると、アジスの足が止まった。敵の登場かな?
「疲れたのか」
「…大丈夫。まだ平気…」
と思ったら違くて、俺の心配だった。別に大丈夫とか言っても、疲れていると分かってしまうんだろうな…
「仕方のない」
するとアジスはどこからか取り出した白い紐を使い、首の位置の髪をまとめた。そしてまとまった髪を前に持っていき、その場に右足をついてしゃがみ、両手を後ろに持ってきた。まさか…
「乗れ」
ただ一言だけを言って待っている。言葉通り乗れ…つまりオンブってこと? おぃ、恥ずかしいぞ。疲れているとはいえ、そこまで落ちぶれる気はないぞ! そんなに小さいプライドでもないぞ!
「……」
それでも、じっと待つアジス。やばい…、プライドが誘惑に、疲れに負けそう…
「じゃあ………」
ごめんなさい。さっきあれほど言いましたけど、負けました。誘惑に、疲れに、アジスに…。心は、プライドは泣いています…
そして、その背中へと歩み寄り、静かに体を預けた。鎧という金属のひんやり感、その奥から感じる温かさ、アジスの匂いを感じた。極楽〜…
そしてアジスは立ち上がってまた、歩き出した。この状態、誰にも見られたくないぞ…
疲れのせいでもあるけど、主にアジスから漂う匂いに包まれて眠りそうだった。つか、眠ろう。
眠りにつく俺は考える。俺のいた時代が、俺がいなくなったことで何か変わってないのかを。ミルクはどうだ? 俺がいなくなったことで清々したか? 他のみんなはどうだ? 喜んでいるか? 校長はどうだ? 何か考えているのか? 結局、俺も今までのいなくなった生徒と変わらないってことか?
少し、残念に思う。
すると、いつの間にかアジスが何かを話していた。それは俺に向けられた言葉ではないとすぐにわかって目を覚ます。いつの間にか辺りは暗くなっており、夜となっていた。闇を吹く夜風が草原を駆け巡っていて、寒い…
アジスの視線の先には、こちらを睨みつける一人の人物。小柄な体系は泥に汚れた服を着ていて、荒れた髪は肩まで伸び顔を覆って、男か女かはわからない。持ち物は特になく、結構なお疲れのようだった。これが…敵?
「アルア、話をしていてわかった。こやつが今回の敵だ」
敵とわかった。頭も覚めてアジスの背中から降りる。戦闘開始だ。