第11話
初めて味わう“痛い”。体中は血だらけになって視界まで赤く染まる。骨は折れて変な方向に曲がりそうだった。そして何より、感情が支配されて何も考えられなくなる。
痛すぎて指の一つも動かせない。もはや、感覚すらない。夕焼け空を見上げているような俺の視界には、そこから落ちてきた崖がうっすらと見えている。結構高いんだな…
「…おい。何している」
誰の言葉だろう。誰に対しての言葉だろう。リーヴァスかアジスが俺に対してか?
「…それ以上、動くな」
これは俺にか…。それともアジスが助けてくれているのか…。でも、それは確認できない。首すらも動かせない。このまま、死ぬのかな…
地面を伝って頭に体に足音が響く。一歩一歩が遅いその足音は、今の俺にとっては死神の足音に聞こえる。目を開けているのでさえ、辛くなってきた…
目を閉じ、光の入る闇の世界で死神の足音を聞く。やがて、その足音は止まった。そして、俺の腹に何かが触れる。思ったより強く押されて、意識が飛びそうになった。このままじゃ…
「誰…だ」
口だけを動かして声を出す。一言一言が体に響く。
「うご…かない…で。すぐに…すむから…」
かすかに聞き取れた声。アジスでも、リーヴァスでもない。一体誰が…
「あ…」
体が熱くなったかと思えば、いつの間にか痛みは消えていた。目を開ける。そこには全身傷だらけで、隠すところは包帯巻きをしている…少女だろうか。その子が俺の腹に両手を重ねている。そして何より可愛いかった…
目があった。そして、安心したように俺の体に倒れこんだ。乗りかかれても重さを感じないほどの軽さだった。これって、やばいんじゃないのか…
起き上がって立ち上がる。少女をゆっくりと地面に寝かせる。大分息が荒く、衰弱しきっていた。“助けたい”。心のどこかでそう思った。だからこの戦い早く終わらせる。
なんでこんな感情があるのだろうか…いや、まだこんな感情が俺にはあった。長い間触れてなかった優しさ。久しぶりに触れた優しさに…
「もぅいい。容赦なく、やらせてもらうよ。話なんて聞けなくてもいい。早くこの子を助けたいんだよ」
「…何の意味があるんだ」
リーヴァスの着ているものが揺れている。始めから風を身に纏っているのだろう。だから、俺の攻撃にもすぐに対処できた。使うか…
俺は、一心でリーヴァスを敵とした。リーヴァスだけを見て、その他を視界にいれずにいた。邪魔な存在だけを見ていた…
「もぅいい。消えてくれ」
俺は視界の中のリーヴァスに右手を当て、リーヴァスが体に巻いている風を操るようにイメージする。強烈な風で海まで飛ばすように…
「疾風怒濤」
一瞬にして、リーヴァスは消え去った。跡形もないくらいに。最初から誰もいなかったかのように…
「アジス。早く戻ろう」
俺は少女を抱き上げ背中に乗せてアジスを呼んだ。でも、返事が無い。アジスの方を見てみると、リーヴァスの吹っ飛んでいった方向をじっと見ている。
「アジス!」
大声で呼ぶとアジスは気づいて、崖から降りてきた。結構高いのに…
「早く戻ろう」
「あぁ。わかった」
そして、大事に至らない程度に走った。死なせない…
日は微妙に傾きつつあった。
謝ります。すみません。