story 01 - 黒
思い付くままに書き上げた
ドーン←
誤字脱字のオンパレード失礼します。
もし直しきれてない居ないところがあれば
ご指摘下さると嬉しいです。
作品内容へのご指摘、感想、レビューも
ばんばん受け付けております。
されたら嬉しくて飛び上がります←
思い出すのは愛しい家族やあの人の名前だった 。
己を裏切り捨てた者達を忘れた事は無かった 。
焼かれた木々の匂い 、人々の千切れる様な叫び 、嘆き 。
守って来た筈の民の涙 、嘲笑う様に私を見下したミルデ 。
焼けた喉が痛んだ 。 痺れも構うものか 。
絞り出す様に 、噛み締める様に 、私は懇願する 。
火の海を背にする彼女は 、
見るからに人ではなかった 。
宙に浮き 、背後に大鎌を背負った骸骨を連れていた 。
業火も飲み込む様な漆黒の姿には似合わぬ透き通った声だった 。
「 願いを言え 。それで 、我等の契約は 成される 」
全てが憎いと思えた 。
力 を 振り翳す権力者 も 、それに抗えない自分さえもが
死に絶えるべきものに思えた 。
ただ 、辛かった 。
何度絶望しても世界は変わらぬとわかっていても 、
絶望せずには居られなかった 。
良くも悪くも生命を取り留め 、沢山の死を見届けた 。
「 ____ この ...世 、の り を ... 」
「 届かんな 」
冷たく貫く様な言葉が私を奮い立たせた 。
最後の力等既に残っていなかったけれど 、
私を立ち上がらせる何かがあった 。
恨みと憎しみ 、そのすべてだったと思う 。
「 世界の .... 終わりを .... !この 、狂った 、ゴミの様な 、世界に ....!終焉を ...!!!」
がくんと膝が折れる感覚がした 。
目線が下がり 、頭部が崩れ落ちる 。
這い蹲る形になっても私は生きていた 。
鈍い痛みが太股を襲った。
火矢で射られたのだと 、ようやく悟った 。
少しして空気を切る刃物の音が耳を撫で 、
擦れる鉄と鳴る足音が近付いてきた 。
己の肢体を突き刺す鋼の熱さを私は忘れないだろう 。
きっとこの黒の使者がこの世界を滅ぼしてくれると信じていた 。
信用する根拠など万に一つも無かったけれど 、
何となくというものかも知れない 。
もしくは 、そう思わなければ私の心は死ねなかったのかも知れない 。
意識が薄れ行く中 、手首に香る最愛の人の残り香がした 。
もう 、涙は枯れ果てていた 。
小さく 。
「 ____ 契約は成された 。けれど 、お前は死んだ 。
願いは叶えられない 。」
その声はもう願いの主には届かなかった 。
それの生命を奪った軍兵には 、
黒の彼女の姿も声も認識されていない様だった 。
「 お前が次に生ける時 、必ず契約を成す 」
世界の終わりを 、必ず 。
黒の彼女は 、闇と共に消えていった 。
たったひとり 、それにしか見えず 、聞こえなかった
幻の様な彼女は 、死神だった 。
____ 時は経ち 。
▽
瀬人の世界は灰色だった 。
もやが掛かったような霞む世界に希望は無かった 。
そもそも 、瀬人は光等求めては居なくて 、
ただ過ぎるだけの毎日を消化していた 。
退屈や普通に囲まれた生活に嫌気が指しても 、
それを一変させる力も無かった 。
その日は 、灰色のクレヨンで塗り潰した様な空色だった 。
厚い綿飴をいくつも空に浮かべた 、絵空事の様な 。
予報では夕立が降ると言っていた 。
けれど瀬人は傘を持たず家を出た 。
小さい頃に両親は病死し 、唯一の肉親である
祖母も入院し 、空っぽになってしまった大きな一軒家である 。
部屋着で外を歩く事にもうなんの抵抗も無かった 。
往く宛も無くただ足を動かした 。
ぽつりと生温い雫が頬を濡らした 。
見上げた空は大きく膨らみ 、今にも破裂せんとしていたが 、
前方に一つだけ小さな亀裂が入り
そこから眩い太陽の光が降り注いでいた 。
照らされた大きなビル 。
先日建設が終わった大きなショッピングモールで 、
入口には大きな銀のオブジェが堂々と鎮座している。
子供向けの様な角の取れた丸い形であるのに 、
天辺から足元まで曇り無く光り輝く銀のオブジェは
万人の目線を奪うのだろう 。
瀬人も 、その1人だった 。
照らされたビルの足元やオブジェは見えなかったが 、
ビルの中枢まで銀の光が反射されキラキラと建物を飾る様に纏っていた 。
往く宛もない散歩に目指すものが出来た瞬間だった 。
団地を抜け 、駅前を抜け 、商店街を抜け 、踏切を渡ると
下町の景色が高層ビルの街中に一変する 。
その中でも一際高いビルを目指し 、ただ黙々と歩いた 。
大粒の雫が、不意に瀬人の頬を濡らした。
続くように、続くように、紡ぐように、紡ぐように、
雨はコンクリートに斑点を作り、水たまりへと変わらせた。
瀬人は雨が嫌いではなかった。
少し訂正するならば土砂降りの雨は嫌いではなかった。
雨音以外が遮断されたそれは
外であるのに内であるような気がするからだった。
額に張り付いた前髪を掌で掻き分けた。
目指した銀のオブジェは雨の中でも異様な程存在感を放っていて、
何だかオブジェの周りだけは雨が避けている様な気がした。
___ 突然の頭痛。
「 ッ!?う、うあァァァ 、あ"、あ" ... ッ」
鈍器で何度も後頭部を殴られたような。
吐き気とめまい。
思わず膝を折り、瀬人は痛みに悶え呻き声を上げた。
次に湧き上がるような不快感。
向ける場所を知らない、これは憎しみや怒りの感情だった。
元々黒のキャンバスに、無理やり赤の絵の具を重ね塗ったようなそんなイメージだった。
頭に浮かぶそれは叫び。そして嘆き。
頬を濡らす自分と、火の海。
痛みは少しして波引くように収まっていった。
荒らげた呼吸を整えた瀬人は、
ゆっくりと立ち上がると周りにも自分と同じように悶える
数人の男女を視界に捉えた。
彼等の叫びはすべて雨音がかき消す。
「 久しいな 」
声は唐突だった。
銀のオブジェの天辺に座る影がゆらりと揺らめき、落ちた。
音なく着地したそれは、漆黒のローブを纏っていて姿形がよく掴めない。
瀬人を含めオブジェを囲う男女が立ち上がったのを確認したように
漆黒のローブは口を開いた。
「 契約を成しに来た。」
漆黒のローブはさほど大きな声で喋っている訳では無いのに、
その声はこの雨音の中痛いほど瀬人の耳に響いた。
それは他の人達も同じだったようで、
皆不思議そうな顔をしながら、この不可思議な事態から
逃げ出したり騒ぎ喚く者はいなかった。
「 近く、寄りなさいな 」
漆黒のローブの言葉は透き通る女の声だった。
背丈もそこまで高くないけれど、
見るからに、否感じる限りは普通のものではないと瀬人は思った。
けれど、瀬人は誰よりも早くその足を漆黒のローブの元へと進めた。
人間とは誰かが行動すればそれに続く生き物なのだろう、
他の人達も恐る恐る近づき始めた。
漆黒のローブと、瀬人等の距離が
腕を伸ばせば届く程度までになった。
「 私は、死神。古に主らと契約を交わせし異形の者。」
漆黒のローブはそう言葉を置くと、
身に纏ったそのローブを脱いだ。
脱ぎ捨てられたローブが蠢き、
漆黒のボロボロの布を纏った骸骨と成った。
けれど、皆それには目にもくれず死神と名乗る者を見つめていた。
死神は女だった。
正確な所は言えないが、姿形は人間でいうところの女だった。
銀色の髪を腰まで降ろし、瞳は青い炎。
真白の肌にいくつもの紋様を浮かべたその女が、
あまりにも美麗であまりにも〝異〟であったものだから
瀬人等は息を忘れるほどに死神の女を見つめる事となった。
「 ...説明は、契約の場所で行おうか 」
死神の女は、瀬人等の様子を見ると
嘲笑を浮かべながらその背から左右非対称の翼を生やした。
赤のクレヨンで書き殴ったような右翼は大きく荒く。
白の水彩絵具で丁寧に書かれたような左翼は小さくも美しく。
これには流石の瀬人もぽかんと口を開いた。
その口が閉じる瞬間には、
瀬人の視界の中にあの大きな銀のオブジェはもう無かった。
「 !? 此処は ____ 」
瀬人等と死神の女は、足場のない闇の上に立っていた。
目の前には如何にもという洋館があり、
死神の女がパチンと指を鳴らすと
洋館までの道が現れ、洋館に明かりがついた。
「 来なさい。話は中で、だ 」
死神の女はそれだけ残し、
一人足早に洋館へと歩いていった。
瀬人はまず、当たりを見回した。
水平線の見えるような闇が続く以外に何も無い空間。
ぽつんと在るのは、紫に塗られた屋根の洋館だけ。
「 これ、夢ではないんだよな?さっきまでびしょ濡れだったのに、服乾いてるし。でも頭痛かったしな」
声は男性のものだった。
二十代前半を思わせる爽やかな青年で、
瀬人と同じようにキョロキョロと回しを見渡した後、
周りにいた人数を数えながら、もう一度言葉を置いた。
「 あ、俺 科野祐也って言います。えーと、大学生です。
どうでもいいかこれは 」
男女は合わせて7人居た。
男3人、女4人。
皆十代後半から二十代中間だと思われる男女だった。
瀬人は空気が切れないよう、タイミングを見計らい口を開いた。
「 瀬人 ... 、福原瀬人です。フリーターやってます。夢じゃないと思う、多分。」
幸運にも他の人と被ることもなく、
自己紹介のようなものを終えた瀬人は
リレーの順番を回すように隣の女性へと目線を向けた。
女性はハッとしたように慌てると、
大きく深呼吸をして口を開いた。
震えながら、けれど凛としてよく通る声だった。
「 えと、天谷咲です。大学生、です。」
そこからは順調にリレーが続いた。
繋がれたのはギャルと清楚の中間地点に立つような
高身長の女性。
「 遠藤妃。専門学生」
次はビシッとしたスーツを着たサラリーマンらしき男性。
「 伊藤 泉です。サラリーマンです。」
大人しそうな女性。
「 夢原香奈子です。...OLです。」
最後に、つややかな黒髪を靡かせた、女性の中では
一番若く見える女性。
「 黒崎凛です。高校3年、です。」
一通りの自己紹介を終えると、
〝待ちくたびれた〟と言わんばかりに
洋館と道に置かれたたいまつに火が灯り、洋館の扉が独りでに開いた。
死神の女の姿はもう見えず、
洋館の前に骸骨がふわりふわりと浮いていた。
少しの沈黙のあと、
科野が洋館に向かって足を進めた。
その後には誰も続かなかった。
科野は立ち止まり、振り向くと無邪気な笑顔を見せて、叫んだ。
「 俺達年もバラバラだし職もバラバラだけど
ひとつだけ同じとこあるよね 」
瀬人はその答えを聞く前に、
その通りだと思った。わかっていた。
そして科野の後を追うように洋館への道を進み始めた。
間髪入れずひとり、またひとりと歩み出す。
科野はそれを見て、一層楽しそうに甲殻を挙げた。
「 こんな異常なことが起こってる中、誰も可笑しくならない。
それどころか飲み込もうとさえしてる。」
その通りだった。
〝普通〟に考えて、呑気に自己紹介など出来る状態ではなかった。
7人は状況を理解こそしていなくとも
魂がそれを否定しなかった。
死神を名乗る女の話を聞かねばならないと思っていた。
あの頭痛の理由を、
あの憎しみの矛先を、知らねばならないと思っていた。
科野の言葉には誰も反応しなかったけれど、
代わりというよりに全員は彼のあとについて洋館へと歩いた。
洋館の中は明るかった。
入口は広く、赤のカーペットが敷かれていて、
二回へ続く螺旋階段とその脇に広がる通路には
沢山の部屋があった。
全員が洋館の中に入ると、先ほどと同じく
独りでにその扉は閉じられた。
ゆっくりと、ゆっくりと閉まっていく扉が
全員の緊張を高めた。
「 ようこそ 刹那の館へ 」
声は頭上からだった。
螺旋階段を上った先、二階から、声の主はもちろん死神の女だった。
「 ... 全てを知り、道を選びなさい とらわれの子等 。
契約者の生ける限り、私は契約を成す 」
ひとつ置いて 。
「 血よ沸き上がり、それを諭せ ____ 」
死神の女の声が響くと、
闇が沸き上がり、7人を包んだ。
そこで、7人の意識は断絶した。
読んでいただいて嬉しい。。。