疑似インシュリン
「日本人はコメにも困ったものだ」
太田は嘆いた。
与党若手実力派政治家の太田は、今や厚生労働大臣になっていた。
「テレビのグルメ番組にも責任があるな」
藤崎は返した。
太田と官僚時代の同期だった藤崎は自分で名探偵と称している。
「今後もっと増えるだろうな」
太田は頭を抱えた。
「医療費を減らさないとこの国は破綻するぞ」
藤崎は手を上げた。
「カルアミルク」をマスターにオーダーした。
「お前それ頼むか」
太田はツッコミを入れた。
「糖尿病の事を考えている時に」
「最近、疲れて、甘いものが欲しくなるんだ。
頭を使い過ぎてな。
どこかの誰かが厄介事を持ち込むからな」
藤崎は太田を睨んだ。
太田は反論できなかった。
ずいぶん藤崎の知恵を借りていたからだ。
は~、とため息を吐く。
藤崎はグラスを引き寄せる。
ゴクゴクと二回大きく喉を鳴らした。
一度うつむき、プハーと小さく吼える。
「生き返る。
やっぱり頭が付かれた時は甘いものだな」
太田は呆れた様子で苦笑いを浮かべた。
「こんな時で悪い。
何かいいアイデアはないか」
藤崎は顔をしかめてから、カルアミルクをあおった。
また顔が晴れやかになった。
藤崎の表情が変わった。
少し首をひねる。
「いけるかもしれない」
藤崎は胸に手をあてた。
「名探偵にお任せあれ」
半年が経った。
政府は重要な発表をした。
「糖尿病予防に疑似インシュリンが有効」と。
糖尿病は血糖値が下がらない病気である。
一般的には、ご飯などの炭水化物の取り過ぎで、
血中の糖の量が増加し、インシュリンで分解しきれなくなり、
血糖値が下がらなくなるのだ。
初期症状では喉が渇きやすくなったり、疲れやすくなったりする。
しかし、合併症を発症すると、失明したり、体が壊死したりする恐ろしい病気である。
ところで、疑似インシュリンって?
それはなんと、ショートショートだった。
藤崎は想像したのだ。
糖をもっと消費すればいい。
どうやって消費する?
頭を使え!
まさに頭、脳である。
人間が最も糖を消費するのは脳だった。
そしてショートショートが最適だった。
脳医学界で証明されたのだった。
脳トレやパズルなどでは一部の脳領域が活性化するだけだった。
しかし、ショートショートは違った。
ネタをいろいろな分野から考える。
日常だけでなく、心理や政治、
時にはアインシュタインの相対性理論から思いつくこともある。
そして起承転結のように話を構築し、最後にオチまで付ける。
さらにどう読まれるか想像し、推敲するのだ。
脳を活性化するのにこれほど良い事はなかった。
小説家を目指している藤崎ならではの発想だった。
「みなさんもショーショートを作ってみましょう」
政府は国民に呼びかけた。
翌年、国語の授業に導入されることが決まっている。
ショートショート作家も注目され出した。
藤崎の策略で、日本にショートショートブームが巻き起った。
※みなさんもショートショートを書いてみましょう。
書き方が分からない時は、グーグルで
『ショーショートの書き方』を検索してみましょう。
ウソと想像なので信じないでください。
最後の最後のオチも見逃さずに!!