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闇夜に奏でるノクターン  作者: 槙村まき
第一曲 『花鳥風月』
4/47

(3) 舌っ足らずな少女

(あれ? 唄、風羽と一緒にどこ行くんだ?)

 中澤ヒカリが校門を出ると、唄と風羽が話しているのが見えた。傍から見ると二人はただ近くで歩いているだけのように見えるが、二人をよく知っているヒカリから見ると内緒話をしているように思えた。

 少しして、風羽が唄から離れると別方向に風のように消えて行く。どこに行ったのかは、彼がいきなり走り出して見えなくなったのでわからない。

 ヒカリは友達と一緒に帰っていたので、二人の会話を聞くことができなかったのを悔しがる。

(何だよ。気になるじゃねぇか)

「どうしたんだよ、ヒカリ?」

「え? あ、いやなぁ、何でもないぜ。ははは」

「あ、そういえばあそこに野崎唄がいるな」

 友人のいきなりの言葉に、ヒカリは「うぉ」と変な声を上げる。

「な、なんだよいきなり」

「あいつ目立たないよな。それなのに、女子に嫌われている」

「知らねぇ」

 どうしていきなり唄の名前を言い出したのか、ヒカリはそれを問い詰めたい衝動をこらえる。

 中三の頃からの友人である彼の趣味はお菓子作りで、『ドーナツ喫茶』の企画者だった。学際の委員長をやっており、リーダーシップを持っているところをヒカリはそれなりに尊敬している。

 友人はヒカリより身長が高く、さわやかな笑みを浮かべた顔をヒカリは「身長くれよ」とガンつける。

「あはは。知ってるぜ、お前が野崎の幼馴染だってさ」

「え? ああ、そうだ、よ?」

「お前さ、好きだろ?」

「うおおお、なんななななにがあ?」

「何どもってんだよ。わかりやすいなぁ。荒木から聞いたんだけどさ、お前小学校の頃からずっと野崎のこと見てるらしいじゃん。だからそうなんじゃないかって思ってさ」

 荒木とは小学校から仲の良い友達だ。

 ヒカリは平静を装うと努めながら変な笑顔を浮かべる。

「す、すすす」

「でさ」

「おうっ!」

「喜多野ってよく野崎と一緒にいるけどさ、あいつら付き合ってんの?」

「そんな分けねぇだろ!」

「そんなに向きになるなよ。ほんっとわかりやすいな、お前。まあならよかったよ」

「なんでだよ」

「だってさっきお前、憎らしげに二人のこと見てたじゃん。バレバレだよ」

「うわあ……知ってたのかよ」

 ヒカリは、「あはは」と爽やかに笑う友人から目を逸らすと前を向く。視線の先に唄はいなかった。

「でもなぁ。野崎か……。暗いよな」

「余計なお世話なんだよぉ」



    ◇◆◇



 十分後。ヒカリは友人と別れるとコンビニにいた。ついさっき、姉から「明日の朝食のパン買って来い」とメールがあったからだ。

 食パンを買うとヒカリはコンビニを出る。午後四時の空はまだ明るい。

「もう十月かぁ」

 ヒカリは食パンの入っている袋をスクールバックの中に入れると歩きだす。

「おにぃちゃん」

 微かに少女の声が聞こえてきた。

 ヒカリはその声に反応して辺りを見渡すが、近くに声の主は見当たらない。

 気のせ意だと思い歩きだすと、足に軽いものが当たった。なんだ、と思って視線を下げると、薄緑色の瞳と目が合った。

「わりぃ」

「おにぃちゃん?」

 肩下まであるさらさらとした金髪の、十歳程の少女だ。

「どうしたんだ」

 ヒカリは屈みこみ、少女と視線を合わせる。

 視線があった瞬間、金髪の少女は満面の笑みを浮かべた。

「えへへ」

「ん? 迷子か?」

「うー? ちがうよ。まってるの」

「そうか。ならよかったぜ」

「ねぇ、おにぃちゃん」

「なんだ」

「あたし、おにぃちゃんのこと、どこかでみたことあるきがするんだけど、きのせい?」

 舌足らずな少女の言葉に、ヒカリは首を傾げる。

 ヒカリは考えてみるが、少女とは面識がなかった。きっと彼女の気のせいなのだろう。

「気のせいじゃね?」

「そうかぁ。だったらよかった」

 満足そうに少女が笑う。薄緑色の瞳が、何かを見つけて逸らされる。

「おとうさん!」

 少女は嬉しそうな声を上げると、ヒカリの背後に立っている人物に向かって走り出した。

 ヒカリは立ち上がると振り返る。

 そこには背の高い男性がいた。赤色の瞳を優しそうに歪め、温厚な笑みを浮かべた金髪の男性。

「おかえり」

「ただいま、楓花(ふうか)

 パーマのかかった金髪の男性はしゃがみ込むと、少女の頭を撫でた。片手にコンビニ袋を持っているということは買い物帰りなのだろう。

 ヒカリは背後に気配もなく立っていた男性に警戒心の視線を向ける。

「ああ。すみません。僕の娘が迷惑をかけなかったでしょうか?」

「いや、別に」

「あのね、おにいちゃんとおはなししてたの」

「何を話していたんだい?」

「ないしょ!」

 少女が人差し指を口に当てる。

 男性はもう一度少女の頭を撫でると、立ち上がりヒカリを見下ろす。

 「身長たかっ」と思いながらも、ヒカリはいつでも動きだせるように思わず身構えていた。

 あくまで温厚な笑みを崩すことのない男性。その笑みがなんだか怖かった。

「では、僕たちはこれで」

「おにぃちゃん、ばいばい」

「お、おう」

 だから何事もなく男性が立ち去っていくのを、彼の後姿が見えなくなるまで、ヒカリは動くことができずに見ていることしかできなかった。


友人「どうして出番のない荒木に名前があって、俺に名前がないんだろうね。どうして?」


考えるのがめんどくさかったからです。



ということで、次の更新は29日です。お楽しみに♪

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