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闇夜に奏でるノクターン  作者: 槙村まき
第四曲 幻想祭一日目
38/47

(11) ネタバラシ

 夢の中。

 どこからか笑い声が聞こえてくる。

 くすくす、というその声は誰のだろうか。

 頭が微睡みボーとする。


 ――起きなさい。


 ああ、そうだ。

 これは……。


 そして、風羽は目を覚ました。



    ◇◆◇



 楓花が寝静まったのを見計らい、優真は英の自室に足を踏み入れた。

 ベッドの上で喜多野風羽が眠っている。

 薬で眠らされているので、そう簡単には起きないだろう。

 近づいて、ジッと見つめてみた。

(本当に寝てるのか?)

 優真はすんと鼻を鳴らす。

 自分の前髪をぐしゃっと掴み、黄色がかった白い瞳で睨みつける。

 わかりやすく殺気を放った。

 もし風羽が起きていたら気づいただろう。部屋中に、ぞわっという殺気が満ちていることに。敵対心を向けられていることに。

 だけど風羽は眠っているため、本人は何も気づかない。

 代わりに、しんっとした部屋の中に隙間風が入ってきた。

 その風は風羽の辺りを漂い、白い靄のようになる。靄は人の形を取り、少女のような声音で笑い声を上げた。クスクスという笑い声はすぐに消えてなくなり、風もどこかに吹き去って消えた。

(精霊というのは案外めんどうなんだな)

 四大精霊(エレメント)だからかもしれないが。

 優真は殺気を消していく。

 いくらニホンオオカミの遺伝子を埋め込まれて、身体能力が強化されて嗅覚が鋭くなっているからと言って、優真では精霊遣いには勝てないかもしれない。やり合うつもりはないが、彼の目的次第ではいつか相対する時が来るかもしれない。その時は全力を出すつもりだ。勝てるかどうかは微妙だが。

 時刻は二十二時を過ぎている。

 英の目的とは何なのだろうか。

 あいつは家族を守るために、『怪盗メロディー』を捕まえると言っていた。

 捕まえてどうするのだろうか。

 そしてその家族に、自分は入っているのだろうか。

 昔の英の言葉なら信じられた。「僕の家族になってよ」という言葉を忘れたことはない。

 けれど英は変わってしまった。

 優真が九歳の時、事故で英の妻が亡くなってから、あいつは心の底から笑わなくなった。

 温厚そうな笑みだけを浮かべて、その裏側で考えていることなんて優真にはわからない。

 呻き声がした。

 優真は視線を風羽に戻す。

「う……ん? ここ、は」

 目を覚ました風羽が、おぼろげな顔で天井を見上げる。

「何だ。起きたのか」

 優真の声に風羽がこちらを向く。

「君は……どうして……あ」

 やっと思い出してきたのだろうか。

 黒い瞳に、意思が戻り、静かに瞬きをする。

「そうか。あの探偵」

「覚えているのか?」

「やっぱり君は、探偵の仲間だったんだね。僕たちを、騙していた」

「そうだ」

 実際のところ、風羽が怪盗の仲間だということまで知らなかったが、弁明するのが面倒だったので優真はそう応えた。

 少し身動きをして、風羽は眉を潜める。

「手を縛られると、痛くって能力も使えないね」

「そうだろうな」

「君は……何の能力を持っているのかな。バトルトーナメント観戦できなかったから、知らないんだよね」

「オレは、まぐれで勝ったようなものだからな」

 あれは相手の自爆だった。

 能力は確かに高いのだろう。だけど、それに体がついていっていなかった。

 あれで勝ったところで嬉しいとは思えない。

 ため息をつく。

「それは残念だ。お互い力を出し切ってなかったんだね」

「てめえのあれは卑怯だった」

「……勝てればそれでいいんだよ」

「似ているな」

「え? 誰に?」

「…………」

 優真は答えない。

 その質問を諦めたのか、風羽は別の質問を投げかけてきた。

「君たち……探偵の目的は何だい?」

「……なんだろうな」

 そんなこと優真だって知らない。英の気持ちなんて、温厚な笑顔の仮面に隠されてわかりっこないのだ。

 風羽は静かな目で観察するように優真を見つめる。

 すんっ、と優真は鼻を鳴らした。

 唐突に、近くから声が上がった。

「よーし、じゃあそれには俺が答えよう!」

 風羽が驚いて窓に目を向ける。

 警戒しながら優真は窓を向いた。

 そこにいたのは、窓枠に座る黒髪の優男だった。

 ひとことで言えばイケメンだ。

 長身の男は人のよさそうな笑みを浮かべている。英と似ているが、その笑みからは好意を感じる。

 優真はまたすんっと鼻を鳴らす。

(もう一人、どこかに隠れているな)

 確かに部屋の中からもう一人の臭いを感じる。見渡してみるが、風羽と優男以外に誰もいない。英の部屋は飾りっ気が無く、隠れられるところなんてどこにもない。

 匂いを感じるが目で見えない。隠れることにたけた能力なのかもしれない。

「君、もしかして気づいた?」

「もう一人、別の匂いがする」

「……よかったね」

 その言葉は誰に向けられたのか。

「兄さん」

 風羽の囁きで、優真は考えるのを辞めた。

 二人を交互に眺めてみる。

 なるほど、確かに似ている。黒髪と目元がそっくりだ。

(兄弟か)

 窓の縁から優男は立ち上がると、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。

「では、少しネタバラシをはじめようか。探偵の目的と、それから袋小路という女について、俺が知っていることを教えるよ」

 その瞳は静かに優真と風羽を見据える。

 見ず知らずの優男がどうして英の目的を知っているのか。

 それに優真は疑問を思いつつも、静かにきくことにした。

 相手に敵意がないことは匂いで分かる。

 風羽が動く気配がないのも匂いで分かる。

 この部屋にいる四人目からも、殺気を感じないのも匂いでわかる。

 それに、楓花に害がなければ、優真はどうでもよかったのだ。



    ◇◇◇



 同じ部屋の中、隅で日加里蜂は体育座りで蹲っていた。

(気づいた)

 日加里蜂の能力は、自分の存在をその場から消すものだ。透明人間といえばわかりやすいだろう。だけど蜂の能力は、人の視界から消えて透明になると同時に、気配も消えて透明になる。いくら別の能力者がいたところで、気配が消えてしまっていたら気配を探ったところで探しだすことは困難になるだろう。

(なんで、だ)

 あの少年の能力はただ身体能力と嗅覚が人並みから桁外れに離れているだけだ。それ以外に、特別な能力なんてない。

 ――千里だけだと思っていた。自分を視つけてくれるのは、千里眼を使える喜多野千里だけだと思っていた。

 小さい頃、家族の前から消えてそのままずっと透明になって過ごしていた時、もういないものとされていた日加里蜂を視つけてくれた千里だけが、姿を消してもなお自分を探しだしてくれる唯一の人だと思っていた。

(もう一人いた)

 まだ、まだ居るのかもしれない。

 自分を視つけてくれる人は、千里だけではなく他にもいるのかもしれない。

 能力者は、他にもまだたくさんいる。

 それに気づいた瞬間、蜂の中で小さな望みが芽生えた。



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