(4) 開幕
「やあ、はっちん元気?」
「朝も会ったばっかだろうがバカヤロウ。つーか、我が物顔で隣に座ってんじゃねー」
「え、俺のために開けてくれたんじゃないの?」
「何でそんなにも頭お花畑なんだ、ちーちゃんは」
笑顔で隣の席に腰掛ける喜多野千里ことちーちゃんに、日加里蜂は適当に答える。
バトルトーナメントは、校舎から離れた体育館にて行われる。
幻想学園の体育館は普通の学校とは比べ物にならないぐらい大きく、どこかの闘技場並みに広い。円形型に椅子が沢山並べられており、バトルトーナメントまでもう十分を切った今、席は満員となっていた。空いている席を探すのも楽じゃないだろう。そんな中、たまたま空いていた蜂の隣に、座る席を探していた千里が腰を降ろすのもおかしな話ではない。
蜂は真っ黒い忍者装束の上から制服を着ている。煤のように真っ黒な髪の毛の間から、くりっとした瞳ときりっとした眉が覗いている。
マスクをした顔ににんまりとした笑みを浮かべ、蜂は「いひひ」と不気味な声を上げる。
「ちーちゃん、どうだった」
「うん。来てた」
「そうかー。まさかこんなに大勢の前で何かしでかすとも思えねーが……。よし、後でオレが様子を見に行ってやるよ」
「はっちんの能力だったら見つからないと思うけど、それは一種の賭けだね。……でも嫌な予感がするんだ。手を出さないって約束してくれるのなら任せるよ」
「いひひ、そんなのお安い御用だぜ。役立たずな困ったちゃんの弱虫より役に立つからな」
「それってもしかして俺のこと?」
「ちーちゃん以外誰がいるんだ」
「……よし。大丈夫だ。俺は泣かないぞ」
「大人の涙なんか、誰にも需要ねーだろうし」
「ね、俺ってまだ二十三なんだぜ」
「成人していたら大人に決まってんだろ」
「はっちんは手厳しい」
視線を前に向けたまま項垂れる千里を、蜂は横目で眺める。
「でも、何かあったらすぐに見つけるからね。はっちんを視つけるのは、俺にしかできないし」
「はんっ。笑わせるッ!」
言葉とは裏腹に、マスクの下の蜂の口がちょっと悲しそうに曲がったのに、蜂自身は気づいていなかった。
千里と出会った日のことを思い出す。
あの時、家族も、親戚も、誰も見つけることのできなかった蜂を、能力により千里は見つけてくれた。
それから、もういなくなった子とされている蜂は、千里と暮らしている。
だから蜂は今でも能力を使うことができていた。
たとえ誰の視界に入らなかったとしても、千里だけは蜂を視つけてくれるのだから。
◇◆◇
「ぴんぽんぱんぽーん! お集まりの皆様、誠にありがとうございます。幻想祭名物、バトルトーナメント、今から開幕です!」
放送委員長のアニメ声の後、割れるような歓声が体育館内に響き渡る。
歓声に負けじと、放送委員長は声を張り合えた。
「では、一回戦の対戦を発表したいと思います!
Aブロックは、一年B組白鳥紗里選手対二年D組山西ジョーカー選手! 一年D組芹沢カナエ選手対一年B組西条めぐる選手! 三年D組根倉夕選手対中等部代表七ッ星蓮見選手! おっと、七ッ星ということは、理事長の息子さんじゃないですか! これは楽しみですね!
Bブロックは、一年A組暮勇選手対二年B組七ッ星睡蓮選手、おっと、また七ッ星です! それから、二年C組山原水鶏選手対三年C組江藤タカシ選手! 三年C組只野剛毅選手対一年E組桐野萌黄選手!
以上、六試合がこれから行われます!
さあ、一回戦の出場者、白鳥紗里選手と山西ジョーカー選手、会場に出て来いや!」
女子生徒と男子生徒が体育館の中央に現れると、歓声は一段と大きくなる。
「ここで、バトルトーナメントのルールを確認したいと思います。
制限時間は無制限!
どちらかが戦う意志がなくなるか、どちらかが動けなくなるか、どちらかがリングからでるかにより勝者が決まります!
致命傷になる行為はNG!
選手は、持ちうる限りの異能を駆使して、楽しく戦ってください!
では、一回戦、選手の用意が整い次第開始したいと思います!」
そして一回戦の結果は……
「今から三十分ほど休憩を挟んだ後、二回戦が行われます。
二回戦には、シード参加者もおりますので、どうぞお楽しみに!」
「優真の出番もうすぐだよ。楽しみだね」
「うんっ。ゆうまおにいちゃん、かつかな」
「優真ならこれぐらい楽勝だよ」
「けがしないといいなぁ」
「楓花がそう願うなら、優真は怪我一つなく生還するだろうね」
「せいかんってなに?」
「それは生きて戻るってことで……この場合相応しくないね」
「ゆうまおにいちゃんはしなないよ」
「学生の遊戯だから、死んだら学校側も困るだろうからね」
苦笑する英は、座席に座っていても目立っていた。
金髪に赤い瞳という彼を、ちらちらと外部客(主に女性)が眺めている。
そんな彼の隣に、姿勢正しく袋小路が座っている。ふんわりと一つに結んでいる髪の毛を座席につけることなく、彼女はじっと前に視線をやっていた。




