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闇夜に奏でるノクターン  作者: 槙村まき
第三曲 前夜祭
22/47

(2) 翻弄される者・上

 人気のない早朝の図書室。奥のもっとも陽の当たらない場所。

 丁度そこは、入り口からも死角になっており、たまに唄も利用しているところだ。

 そこに、唄に無理やり腕を引かれるかたちで風羽がやってきた。先に来ていたヒカリは、いつにない唄の行動に、「おぅ」という間抜けな声を出してしまった。

 無表情で連れて来られた風羽は唄の隣に座ると、感口一番声を上げる。

「で、どうして僕をここに連れてきたんだい?」

 風羽の言葉に、唄が眉間にしわを寄せる。

「朝のニュース観てないの?」

「ニュース?」

「……『叫びの渦巻き』」

「ッ」

 ピクッと風羽が眉を動かした。

「え? なに、それ?」

 一人だけ話に置いてきぼりにされているヒカリは、負けずと声を出す。

 いくらか冷静さを取り戻したのか、唄は普段通りの仏頂面で淡々と答えた。

「風羽から依頼があったの。風羽の家にある『叫びの渦巻き』を盗んで欲しいって」

「え? 風羽の家?」

「どうやら風羽のお父さんが、その絵画でおかしくなったみたいでね。風羽一人の手ではどうしようもないから、『怪盗メロディー』として盗んで欲しいみたいよ」

「で、やるのか?」

「まだ決めてない。……いえ、決めてなかったの」

「どういう意味だ?」

 ヒカリは首を傾げる。

「考えている、途中だった」

「だった?」

「そう。だったの。風羽がいうには、『叫びの渦巻き』には意思があるみたいだから」

「意思って、え? あの、『虹色のダイヤモンド』と同じの? うっそ」

「嘘だと、私も助かるのだけれど」

 唄が嘆息する。

「けど、本当に意思があるのなら、私の手には余るかもしれない」

「……だから、悩んでいるのか?」

「そうね。もう悩む必要はなくなったけれどね」

「え? どういう意味だ?」

 ゆっくりとため息をつくと、唄が横目で風羽の顔を見た。

「『花鳥風月探偵事務所』って、知ってる?」

「……聞いたことがあるよ。前に、うるさいぐらいニュースがやっていたからね。……ああ、そうか。そういえばあの探偵、『怪盗メロディー』を捕まえるとか何とか言っていたっけ?」

「ええ」

「探偵! うお、なにそれ俺今初めて知ったんだけど!」

「貴方、テレビ見ないの?」

「バラエティしか観ねぇ」

 めんどうそうに唄が息を吐いた。

「地方で活躍している探偵がいたみたいなの。結構有名らしいわ。その探偵が、何を思ったのか一家全員で、私たちの住んでいる町にきたみたいなの。この間までうるさくニュースでも取り上げられていたわね。で、その探偵――『花鳥風月』といえばいいのかしら――が、『怪盗メロディー』に宣戦布告したのよ」

 それを唄はテレビ越しに聞いていた。

 彼女の幼馴染であるヒカリはその時の光景が、まるで見てきたかのように脳裏に浮かび上がる。唄は、恐らくその喧嘩を買った筈だ。負けず嫌いな彼女ならやりかねない。

「で、どうするんだ」

「十一月六日。幻想祭の一日目にね、戦うことになりそうよ」

「な、なんだって!!」

 立ち上がると、ヒカリはおろおろと辺りを見渡す。

「って、あと二週間もないじゃんかよ。どうするんだよ。戦うって、相手は探偵だろ。あ、でも能力者じゃなかったら大丈夫か? そういう問題じゃない!? 俺、どうすりゃいいんだ!」

「取り乱してみっともない。シャンとしなさい」

「……すみません」

 いくらか気持ちを落ち着かせ、ヒカリは再び椅子に座る。図書室に他に人がいなくってよかった。今の台詞を聞かれると怪しまれてしまう。

 ヒカリは胸を撫で下ろした。

 ふぅ、と本日四度目のため息を唄が漏らす。

「で、その探偵が今朝のニュースで言っていたの。『怪盗メロディー』が挑戦状を出したって。どうやら、メロディーは絵画を盗もうとしているみたいよ」

 チラリと、風羽の顔を盗み見る唄。

 風羽が眉をピクッとさせ唄に視線を向けた。

「なるほど、そういうことか。どうして僕がここに連れて来られたのか分かったよ。君は、もしかしなくとも、僕が挑戦状を出したとか勘ぐっているんじゃないのかい?」

「そうよ」

「僕は挑戦状を出していないよ。予告状もね。というより探偵と相対したいと、君自体も望んでいないだろうし。僕もそうだ。『怪盗メロディー』である、君に頼まれたら別だけどね。少なくとも、それを出したのは僕ではない」

「……そう。まあ、いいわ。とりあえず信じましょう」

「助かるよ」

 やれやれと肩の力を抜き、風羽がため息をつく。

「となると、誰が挑戦状を出したのか気になるわね」

「可能性としてはいくらかあるけど、いま言えるのは二つかな」

 風羽が人差し指を立てて言う。

「一つ目は、探偵の自作自演」

 続いて中指も立てる。

「二つ目は、睡蓮」

「水連?」

「そう、睡蓮だ」

「一つ目はまだ可能性があるにしても、水連は『叫びの渦巻き』の存在を知らないのだから、どうしようもないんじゃないかしら?」

「ああ、てっきり君が教えているかと思ったんだけど、そうじゃなかったんだね」

「ええ。本当はね、調べてもらおうとしたのだけど、あの子もいろいろ大変みたいだから」

「そういえばそうだね」

 風羽がうっすらと笑う。

 そんな風羽を唄が横目見て呆れた顔をした。

 一人だけ会話に入れてもらえないヒカリは口を開こうとして、それでも何も言うことが思いつかないので口を閉じると、ムスッとした顔で窓の外を見た。

(どうして俺呼ばれたんだろ)

 この二人を残して今すぐこの場を立ち去りたかった。

「他の可能性は?」

「……いや、あとのは絵空事みたいに確証はないから言えないよ。……やっぱり探偵かな。そうすると、厄介だね」

「そうね」

 唄が険しい顔をする。

 何があんだかわからずに、ヒカリは首を傾げた。

「もしかしたら、私たちの正体まで辿りついているのかもしれない」

「それはやべぇな」

 たらり、と冷汗が頬を伝う。

 ヒカリが汗を拭うと同時に、図書室に誰かが入ってくる音がした。

 唄が顔を上げる。

 風羽は静かに立ち上がると、小さく口を動かして「放課後、外で。ヒカリに連絡する」というとその場を後にした。

 唄が何かを言おうと口を動かし、ヒカリがそんな唄に目を向けたとき、風羽の去った方向から声が聞こえてきた。

「き、喜多野風羽君! や、やあ、久しぶりだね」

 少年にしては高い、中性的な声だ。

 ヒカリが顔を向けると、そこでは風羽と男子の制服に身を包んだ生徒が相対していた。

 その生徒は男子の制服を着ている。けどそれにしては顔立ちは中性的というよりも女性的で、「君」よりも「ちゃん」をつけたくなるほど可愛い顔立ちをしている。

 ヒカリは彼のことを知っていた。というより、二年生で知らない人は少ないだろう。知らないのはあの転校生と、学校にきていない水連ぐらいか。

 『二年C組』の委員長にして学年一位、幻想祭の『バトルトーナメント』にも出場が決まっている男子(、、)生徒――天津帆足(あまずほたる)がそこにいた。

 帆足は身長の高い風羽の顔を仰ぎ見て、胸を張りこう宣言する。

「喜多野風羽君。バトルトーナメント、絶対に君に勝つからね!」

 静かな目で彼を見て、風羽はゆっくりと頷く。

「そうだね。やるからには全力にやらないと。……けど、トーナメントの発表は幻想祭当日だから、君と戦うことになるかどうかは分からないよ?」

「ひ、一言多い奴だな、君は」

 帆足が不愉快そうに顔を歪める。

 風羽はそれで会話を終わりだと思ったのか、彼の横を通り過ぎて図書室を出て行った。

「全く。僕はいつも……ん?」

 うなだれて肩を落とす帆足がこちらに気づき、ヒカリと視線が合う。

 「やぁ」とヒカリは手を上げた。

 帆足はヒカリから目線を逸らし、唄の姿を見つけると瞬間顔を真っ赤にした。

「お、おおおおじゃあぁあ僕はッこれでぇええ!」

 踵を返すと逃げるかのように図書室を後にする。

 ヒカリは手を上げた姿勢のまま首を傾げた。

「どうしたんだ、あいつ」

「知らないわよ。……それよりも、貴方いつまでここにいるの?」

「いつまでって?」

「もうすぐ予鈴が鳴るじゃない。貴方が早く教室に戻ってくれないと、私が遅刻しちゃうわ」

 呆れたように唄が五度目のため息を吐いた。

二話続けての投稿です。

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