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闇夜に奏でるノクターン  作者: 槙村まき
第三曲 前夜祭
21/47

(1) 挑戦状

二話続けての投稿です。前話も忘れずに(^^♪

 朝はいつも通りやってくる。

 ベッドの上で規則正しく目を覚ました唄は、寝間着から制服に着替え、栗色の髪を鏡を見ることなく三つ編みで結ぶと、リビングのある一階に降りていった。

 食卓で父が新聞を読みながら朝食を口に運んでおり、母はキッチンで夕食の仕込みをしているところだった。

「おはよう」

「おはよう、唄」

「おはよう、唄。ご飯すぐに用意するわね」

 リビングにあるテレビは、朝父がニュース番組を観ているのでつけたままなっている。

 何となくテレビを眺めながら、唄は母が運んでくる朝食を待っていた。

 テレビではニュース番組がやっている。とあるビルが映っており、唄はどこかで見たことがあるような気がして記憶を探ろうとする前に、ビルの看板が画面に映った。

 『花鳥風月・探偵事務所』。

 唄は目を少し開く。

 それは数日前に、『怪盗メロディー』に宣誓布告をした探偵のいる事務所だ。

 あれから何も起こることなく、唄自身も風羽や水連のことでいろいろとあったから忘れていたが、そういえばあの時、あの探偵が言っていたっけ。

 ――『僕は、怪盗メロディーを捕まえるために、この町にやってきたのです!』

 今度は何をやらかしてくれるのかしら。

 正直、幻想祭前のこの時期に盗みをしようと唄は思っていないのだが、それでも少しでも気を紛らわすために、こういった催し物に興味があった。

 女性のリポーターが事務所に招き入れられると、彼女の前に黒髪を後ろでふんわりと一つに結った女性がお茶を置いた。もう一つお茶を机の上に置き、お辞儀をすると女性はカメラの外に姿を消す。しばらくして、金髪をパーマした男性がやってくる。赤い瞳を優しげに歪め、人のよさそうな笑みのままリポーターの前のソファーに腰を下ろした。

『さて』

 まるでどこかの探偵のような口ぶりだ。これから謎解きをするのだろうか。どうやら違うみたいだけれど。

 リポーターが口を開く。

『英さん。今日我々をお呼びした件は、いったい何でしょう』

 固い女性の口調に構うことなく、英と呼ばれた男性はカメラ目線で言うのだった。

『昨日の夜、とある方からご相談をいただきまして』

『とある方とは?』

『それは依頼人のプライベートに関わることですのでお答えできかねます。ただ』

『ただ?』

『今回の依頼はとても興味深いものでしてね』

『というと?』

『とある怪盗から、絵画を守って欲しい。という依頼です』

 唄の眉がぴくっと動く。

『そ、その怪盗とはっ。もしかして』

『はい。お察しの通りです。って、一週間ほど前にテレビでも言っていたのですぐわかりますよね』

 コホンと咳をして、赤い瞳の男性が真剣な顔で自信満々に口を開いた。

『十一月六日。怪盗メロディーが僕に挑戦状を送ってきました』

『なんとっ!』

 わざとらしいリポーターの声。けれど、唄の耳に入ってこなかった。

 父の胡乱気な目がこちらを見る。母も心配そうな顔で唄の傍までやってきた。

(どういう意味?)

 困惑して、唄はテレビ画面から目を離すことなく考える。

(風羽が、勝手なことをした?)

 その可能性がなくはない。でも風羽がそこまでするとは思えなかった。

(これはすぐに確認しなくっちゃね)

 唄は母が運んでくれた朝食に口をつけながら、もう一度テレビを見た。

(この探偵。私たちのこと、どれだけ知っているのかしら。私たちは、この探偵のことを全く知らないのに)

 探偵と対決をするのなら、調べなければいけない。

 叩き付けられた挑戦は、受けてたつのが唄の心情だった。唄は相当負けず嫌いなのだ。

(十一月六日って、幻想祭の初日ね)



    ◇◆◇



 ヒカリが家から出ると、向かいの家に住んでいる幼馴染の唄が道路をかけていくのが遠目に見えた。

「って、早! じゃなくって、唄どうしてあんなに急いでいるんだ?」

 まだ八時前だ。学校に遅刻するような時間じゃない。

 ヒカリは懐から携帯を取り出して、友人たちに「一緒に登校できなくなった」とメールを一斉送信すると、もうとっくに消えた唄を追いかけるべく走り出す。ヒカリの運動能力は高校生男子の平均のちょっと上で、運動神経がよすぎる唄に比べると瞬発力とかで劣ってしまうが、それでもヒカリは彼女を追いかけたかった。

 暫くして足を止めると、ヒカリは目を閉じる。

 一部の能力者は、他の能力者の〝気配〟を感じとることができる。〝気配〟と言ってもそれはあやふやなもので、人によってそれぞれ異なる。他人曰く、ヒカリの気配はピリッとする辛子のようだと言っていた。

 ヒカリが〝気配〟を感じとれる範囲はあまり広くない。

 それに唄がこの近くにいる確信もあるわけじゃない。

(学校までの道のりにいればいいんだけどなぁ)

 神経を集中させる。辺りにいる、能力者のいろいろと混じった〝気配〟を振り払いながら、ヒカリは自分が一番好きな気配を探し当てる。

(まだ近くにいる!)

 いくら唄の足が早いからといっても、信号で足止めを受けているのかもしれない。

 瞬間的に通り過ぎていく〝気配〟をヒカリは追いかけるために走り出す。

 暫くすると、信号待ちをしている栗色の髪を三つ編みにした女子生徒の後姿を見つけた。

「唄」

 近くに寄り声をかける。

「ヒカリ」

 訝しげな顔で唄が振り返る。

 ヒカリは満面の笑みを浮かべた。

「おはよう」

「……おはよう。もしかして、私を追いかけてきたのかしら?」

「いや、何か急いでいる様子だったから、つい」

「……まあ、ちょうどいいわ。ヒカリもついてきて」

「え? どこに?」

「図書室」

 短く伝えると、青信号に変わった横断歩道を唄が猛スピードで駆けていく。

 目立つことを嫌っているはずの彼女の様子に、ヒカリは不安を感じながらも唄の背中を追いかけながら走り出す。

 途中で見失ってしまった。一緒の方向に走っていたはずなのに。


次回の更新は、『5月20日』です。

お楽しみに!

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