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闇夜に奏でるノクターン  作者: 槙村まき
第二曲 幻想祭・準備編
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(4) 少しの接触・下

 昼休み。姉御手製のお弁当を食べ終えたヒカリは、便所に行くべく席を立った。教室から出て、近くのトイレに向かって行く。

 すると、後ろから声をかけられた。

「中澤、ヒカリ、だったか」

 低く響く、聞きなれない声。それが昨日やってきた転校生のものだと思いだし、ヒカリは振り返り相手を見る。

「えっと、優真でいいか?」

「……なんでもいい」

 身長が百六十センチ半ばのヒカリからすると、優真の身長は百七十センチなので見上げる形となる。それでも風羽よりは小さいんだよなぁ、とヒカリは思う。

 気だるげに、灰色優真は黄色のかかった白い瞳で睨みつけてくる。

「何かようか」

 ヒカリは少し感じた寒気を吹き飛ばしながら、笑顔を浮かべる。相手は昨日来たばかりの転校生だ。恐らくまだ緊張しているのだろう。そういえば昨日女子に囲まれていたが、今日は朝から一人で机に突っ伏していた。もしかしたらまだ友達がいないのかもしれない。それなら少しでもクラスに溶け込めるように、俺だけでも仲良くしておこうか、とヒカリは愛想のいい笑みで優真を見た。

 優真はすんっと鼻を鳴らすと、顎をくいっとさせて廊下の隅を指示した。

「ここじゃ話せない内容なのか?」

「そうだ。ついて来い」

 困惑しながらも、ヒカリは優真の後をついて行く。廊下の隅の人気のないところまでやってくると、優真は足を止めて見下すかのような視線を向けてきた。

「単刀直入に聞くが、あんたは『怪盗メロディー』を知っているか?」

 その言葉にヒカリは緊張した。

 どうして今、その名前を?

 考えるが分からなかったので、動揺を悟られないように、ヒカリは唾を飲み込んで笑みを浮かべる。

「え? この町に住んでたら、知らない奴はいねーと思うけど?」

「そうだな。オレはまだ越してきたばかりだからよくわからねぇ。だから、お前の知っていることを教えてくれないか」

「いいけど」

 『怪盗メロディー』。

 能力者の多く住む、ヒカリの住んでいる町を騒がしている『怪盗メロディー』のことを、ヒカリももちろん知っていた。というか知りすぎていた。

 だから余計ないことを言わないように気をつけないといけない。

 だけどどうしてなのだろうか。こんな人気のないところで、どうして優真はヒカリに聞いてきたのだろうか。ヒカリはクラスの男子の中心グループに入っているが、そこまで進んで発言する性格ではない。どちらかというと周りに話を合わせて笑っていることが多い。

 クラスでよくしゃべる奴といえば、荒木とかドーナツ大好きな友人とかがその部類だろう。特に友人は、進んで文化祭の実行委員を勝って出るなど、リーダー的な存在だ。

 いちいちヒカリにこんなところで話かけなくても、クラスで他の男子がいるところで聞けば済む話。それをどうしてこんな人気のないところで、こんなにも威圧的な目で問いかけられているのか、ヒカリは混乱して頭が回らない。

「どうしたんだ。なにもわからないのか?」

「い、いや。別に。話せるけど……」

「けど、なんだ。何か、オレに言えないことでもあるのか? もしかしてオレが部外者だからか? 昨日転校してきたばかりのオレのことを、クラスメイトだと思えないから、話せないのか? それは……少し悲しいな」

 表情は気だるげのままだが、優真がシュンとした犬のように眉を潜めたような気がして、ヒカリは思わず大きな声を出す。

「そ、そんなことはねーよ! 今から話すから安心しろよ。俺はさ、お前のことちゃんとクラスメイトだと思っているからさ」

「そうか。ならよかった」

 表情は変わらないが、雰囲気が少し和らいだ気がした。

 ヒカリはクラスに溶け込もうとしている優真に笑いかけると、自分の知っている『怪盗メロディー』の情報を、少しずつ話し始めた。


 そしてあっという間に休み時間が終わり、予冷の鳴る音で話を切り上げる。

 優真は「ありがとうな」と言うと先に教室に戻って行く。彼の後と追いかけようとして、ヒカリは肝心なことを思い出した。

「やべぇ! 漏れる!」



 そんなヒカリの姿を見つめている人物がいた。

 廊下の隅に消えて行くヒカリと優真をたまたま見かけた風羽は、訝しみ後を追いかけて二人から見つからないように掃除道具入れの横に隠れながら、二人の話に耳を傾けていたのだ。

 風羽は足音を立てて前を通り過ぎて行く優真の背中を見ながら思案する。

(ひとまず、ヒカリが余計なことを言わなくってよかった。テレビで発表されている範囲だったから、仲間だと疑われたりしないだろう)

 話の内容について、風羽は特に心配していなかった。ヒカリは風羽より先に唄ともう一人の仲間と共に『怪盗メロディー』の仕事を手伝っていたのだから、それぐらい考えられるのはわかっている。

 風羽はそんなことはどうでもよく、優真の背中を眺めていた。

(どうして彼は、こんなところで、『怪盗メロディー』の話を聞いていたんだろうね)

 その意味がただ気がかりだった。

(ただの転校生じゃない、かもしれないない)

 予鈴の音ともにヒカリが走りながらトイレに入ってくのを見て、風羽はため息をつく。

「今、これ以上厄介なことが増えるのは避けたいよね」


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