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それぞれの動き

 魔法ギルドのギルド員全員が先ほど伝えられた命令に対し、全力で作業に取り掛かっていた。


「儂達が作る物は三つじゃ! 拡声器・通信機・映像機の三つ! 数日持てば不出来でも構わん! 出来る限り多く作るんじゃ! その数によって状況ががらりと変わるからのぅ!」


 王都に置かれた本部ではギルドマスターマーリンの指揮の下、魔道具作りをしたことがある者全員が魔法使い達と協力し魔道具製作を行っていた。



 魔道具の製作手順は物によるが、大きく分けて四つある。


 一つは目的の魔道具を作るための材料を組み立てること。

 今回は個数を増やすために鍛冶ギルド等と協力して器の作成をしている。


 次に中心となる部分に魔石を埋め込み、その魔石の力を使って効果を発揮する回路を刻むこと。

 魔石の属性は置いておき、火を出したいのなら該当する火魔法の術式と、発動キーワードを唱えることで魔石の魔力が使われるよう刻む。

 製作者によって事細かくする場合があるが、回路は銅線、魔石は電池、発動キーワードがスイッチ、魔法が電球といったところだろう。


 だが、それだけでは常時発動し燃費も悪い為、素材は選び抜き、術式や魔方陣は魔石の粉末を練り込んだインクを使う。


 そのため魔道具はどのような低級品でも高級だ。

 だが、それに見合った効果と使用が出来る。



 最低でもこの四つを熟さなければマーリンが指示している魔道具は作れないだろう。



 王国に突然降って湧いた未曾有の危機。

 時期早々に国とギルドが動き出し、事が急を要する手前で食い止められたが、現在も多くの者達が不眠不休で患者の治療と究明にあたっている。


 完全に近い治療が行えた者は極僅か。

 報告には上がっていないが、遠方の村やひっそりと暮らしていた者達の中には死者が出ていると推測されている。


 動ける者が加わっても材料も手も足りていないのだ。



 そんなこと誰もが分かっているはずなのだが、当然の如く周りと同調できない、所謂空気読めない者達が少数派だが存在する。


「あ~あ、めんどくせぇ~。何で俺の様な総本部のギルド員が手伝わねばならんのだ。しかも無償とかふざけている」


 それは王国の民ではない者の中に多く存在する。

 住んでいないからこそ周りと同調できない。

 価値観の違いと客人であるのだからという思考が浮かぶのだろう。


 外に出ようとする者も当然存在するが、どのように感染していくのかは知らされていない為(空気感染以外が無いとは言い切れないからだ)、許可された者以外通行が禁止されている。

 もし後日発症が確認された場合拷問付きの尋問が行われ、国の命令を無視し国家転覆を図り逃亡した、と言われても反論できないのだ。


 国民はレムエルの発令であることと、マスクの無償配布や事情を簡単に説明されているため、協力こそすれ暴動まではほとんど起こさなかった。


「帰ろうにも封鎖ですよ? 私達には関係ないのに……。これで研究が滞り誰かが先に発表したら損害賠償でも払ってもらいましょうか」

「大体国の言うことを聞くとか規約違反だぜ? ギルドは中立であるべし、国の命令を聞いたからには告発するしかねえな」

「チェルエム王国のギルドを調べに着てとんだ事態に巻き込まれました。さっさと帰っていればよかったんですよ」


 彼らはグチグチ文句を言いながらも、一応上司であるマーリンの指示に従い拙い魔道具を作っていた。


 製作速度は遅く、何度も失敗させ、出来上がっても数日持つかどうか怪しいものだった。

 それでもないよりはましだと考え、マーリン達は愚痴を無視して製作を急ピッチで行っていた。


 仮にこの後告発されたとしても言い分は山の様にあるのだ。

 拙い魔道具を見せる、今の会話を逆に告発する、非協力的だった等と。


「というより、この症状は魔力関係なのでしょう? なら私達で研究し発表すればいいのではないですか?」

「お、それは名案だな!」

「だけどよぉ、ほとんどのことは機密なんだぜ? 流石に国の隠し事に首を突っ込めば破滅だな」


 その会話を聞かれているだけで諜報員だと捕まっても仕方がない。



 彼らは王国と魔法ギルドが協力して研究開発した魔法を確かめに来た、魔法大国総本部から派遣された諜報員であることに間違いはない。


 この半年で共同開発された集団・合成・融合・共鳴・調和魔法、それ以外の既存魔法の新たな使い方等を盗み持ち帰る、若しくは情報を得ることを目的としていた。


 魔法大国も最初の内は新魔法に嫌悪を向け、魔法ギルドを通して批判していたが、それを無視されると魔法技術の最先端を行くという薄っぺらい自尊心に傷を付けられ、今回の様な工作などに踏み切った。

 カロンやクレマン教授の様な先進的な考えを持つ革新派はそれを邪魔し、密かに支援をしているというのもある。


 持ち帰った情報は恐らく政治的な使い方をされるのだろう。

 他国の魔法なので握り潰せないが、禁術や禁忌とすることは可能で、異端者の居る国だとレムエルを異端者に仕立てることもできる。


「実験体を持ち帰りますか?」

「いや、それは危ないからやめておこう。患者の一部を持ち帰ればいいだろう」

「それだけで有意義な研究が出来るでしょうね。それと治療薬も作ればウハウハよ」


 彼らは一見自負ある研究者の様な話し合いをしているが、会話から分かるように総本部でも厄介者に指定されている者達だ。

 くだらない実験をする、取り返しのつかないことをしでかす等をした借金まみれ、国からも目を付けられた者達だ。


 彼らが選ばれたのは最後ぐらい役に立てということ。

 情報を持ちかえれば上々、持ち帰られなければ処分し、捕まっても楽に切り捨てられる。


 適当に情報を漏らし送り出しただけなので、知らぬ存ぜぬでいられるというよく使われる手口だ。

 それに気づけないからこそ選ばれたとも考えられる。


「何なんじゃあの馬鹿どもは……。こうなったら新たな魔法ギルドを立ち上げるかの」

「それが良いのではないでしょうか。名前は……魔法使い連盟とかどうですか? 基本中立ですが、向上意識を持った魔法使いが集まり新技術を誓う組織です」

「ほほぅ、面白そうじゃな。ギルドとは別口じゃな? まあ冗談じゃが、総本部が攻撃を仕掛けてくるのなら別じゃ」


 マーリン達は気付いているから放置する。

 始末してしまえばこちらも知らぬ存ぜぬで通せるからだ。

 帰ってこないと言われれば、今言ったセリフでしょっ引くことができる。


 諜報員には向いていない人選過ぎたのだろう。


「そもそも王国に喧嘩を売ってきた時点で決別していたはずです。レムエル陛下はあの手この手で行ったでしょうし、技術を昇華させない意味が理解できませんよ、私は」

「若いというのはそういうことじゃ。お主は権力にも染まっておらぬからのぅ」




 商業ギルドは吸魔草の供給を行いながら登録商会へ情報をリークし、商会が所持している拡声器や通信機を集めている。

 集められた魔道具は会議で決定した場所に設置され、問題が起きないよう健康な警備員が配置された。

 冒険者達もその手伝いを行い、近隣の村々まで伝達を行っていた。






 場所は変わり、治安維持機構――現在は娯楽ある教育施設の様な場所だが、そこでは動ける国民を広場に集め、この状況を打開するための計画の指導されていた。


 指導する主導ギルドは音楽・婦人ギルド。


 王都では症状に罹っている者が少なく、半強制的に中央広場などに集められた。

 不満を言う者もいたが、人の心理と言うのは流されやすいもので、事態が緊迫しているほど大勢の者が動けば自身も駆られて同じように動こうとする。


「この様な事態の時にお集まりいただき感謝します」


 皆が見れる様壇上に立った音楽ギルドギルドマスターオンプの声が響く。

 歌を生業にする彼の声は拡声器を通じて響き渡り、騒めいていた人々の声を小さくしていった。


「時間が無いので手短に言います。現在王国で起きている事態は御存じのことでしょう。国とギルドは全精力を上げて原因究明に尽力していますが、未だにほとんどのことが分かっていません」


 再び騒めきが起き、無責任で自分達が無能だというセリフに不満が爆発しかける。


 百聞は一見に如かず、それは良い事だけでなく悪い事にも言えること。

 相手の苦労は見ているだけではわからず、いじめっ子はいじめられている子の気持ちはわからない。


 国、ギルド、教会……彼らが不眠不休で体を酷使しながら尽力しているのは分かる。

 それでも患者側と治療側の二つに分かれ、お互いに苦労が分からず不満が高まるのだ。


「落ち着いてください。それでもいくつか分かったことがあり、この場に集められた方はこの未知の症状に罹らない可能性が高いということです」

「どういうことだ!」


 精霊の力で治る、それが分かってしまうと暴動が起きかねない。

 元気な者が精霊の食べ物を求め、患者が食べられない。

 子供からマスクを奪うように、配られた料理を子供から奪う。


 それを危惧し情報規制していたため、国民は体力を付ける為に食材を配布しているのだと考えていた。


「その説明は精霊教より説明させていただきます」


 そこに現れたのが皆のよく知る配属されたばかりの女性、レムエルと接点のあるセレンだ。

 ルゥクスの精霊教からエゼルミア精霊教皇の指示で配属替えが行われ、ネシアの推薦もあり司教の地位を得た。


 目的はレムエルとの縁を太くするためのパイプ役だが、本人がそれなりに有能だったのか国民の間では有名だった。

 先の内乱で精霊教を背負っていたのも見られており、崇める人もいるほどだ。


「南部から聞こえてくるのは聞くに堪えない猛威を振るう闇の陰ばかり。噂は誇張されると言いますが、この件に関して言えば想像を超えている、と思い下さい」

「それのどこが安全だというんだ! ふざけるのも大概にしろ!」

「それとも信じる者は救われるとでもほざく気か!」


 これは断じてサクラなどではない。


 セレナは両手を上げて場を治める。


「ですが、皆さんは不思議に思わなかったでしょうか? なぜ、私達は症状が現れ瞬く間に拡散していく中無事でいるのか、と。二、三日ならいいでしょう。ですが、最初に症状が発覚してから十日余りが経とうとしています」


 情報は規制されているとしても国民が見た者は人知れず広がってしまう。

 既に北部で発症した者や近隣の街で千人を超える患者が現れた、村では死者が出たのだという噂もある。


 セレナに言われて……いや、人に言われてやっとそのことに気付いたのだ。

 苦しむ患者を見て自分は何時罹るのかと見えない恐怖に怯えていたが、このところ健康体でいることに疑問を初めて抱いた。


「それは私達にレムエル陛下のお力、私達が崇める精霊の加護が満ちているから他有りません。王国を脅かしている闇は相反する精霊の光で消し去れます。

 レムエル様が王都で使われたあの光景を思い出し下さい。

 神々しくも儚く、慈愛に満ち優しく包む光と微笑み。

 茨の道と分かりながらも私達を救うために手を伸ばされ、ここまで豊かにしてくださった救世主であり英雄、国民の王であるレムエル陛下のお姿を!

 我々が無事なのは精霊の力を身に受けたから他ないのです!」


 最後の文句を溜めに溜めて言い放つ。

 その言葉は国民の心を穿ち、闇を振り払ってくれたレムエルの姿が浮かび上がった。


 当然レムエルコールと英雄コールが始まる。

 知らないところでレムエルは信者、もとい強力な仲間を増やしていくのだった。


「ですが、いくらレムエル陛下の力でも王国全体を救うのは人の理を越え、命を削らなければならないこととなるでしょう」


 セレナに代わってオンプが俯き悲痛な表情で告げた。

 コールは止んだが、代わりに驚愕と怒号が飛び交う。


「そこで、レムエル陛下はとある方法を思い付かれました」

「皆さんに協力を仰ぐことです。一人で無理なら二人でやる。二人でも駄目なら十人で。それでもだめなら百人、千人、いえ王国全体で……」

「それは子供でも知っていることです。以前レムエル陛下が私達に協力を仰ぎ打倒したように、今回も私達は一致団結して闇を払うために隣の者と手を取り合って協力をする時なのです」

『再び皆が笑い合える平和な王国を取り戻すために協力する時なのです!』


 あの内乱のことさえも布石として使う。

 まだ半年前の出来事のことだ。

 吟遊詩人の歌や冒険者の肴、自慢話にもされる。

 一致団結すれば何者も怖くない、彼等はまだそれを覚えている。


 まるで洗脳の様な感じで怖いとレムエルは言うが、洗脳と違い『人として』という部分が強調され、騎士兵士達は訓練で自分の考えを持ち、国民は勉強で考える力を身に付けられる。

 レムエルが言うことに従うだろうが、本当に正しいかどうかはしっかり考えるはずだ。


 そうアースワーズに諭され、レムエルはこの案を採用した。






 再び場所が変わる。


 レムエル達が行動している中、ソニヤとマイレスは数人の部下を連れ、南部帝国国境付近アバキアクルス荒野(孤独の森手前の草原をまっすぐ行くと何もない荒れ禿た大地に辿り着く)と呼ばれる精霊に見放された大地がある。


 アバキアクルス荒野の奥は忘れられた大地とも呼ばれ、中央に孤独の森でも比較にならないほどの凶悪な魔物が住む厳暑と極寒の大砂漠が存在している。

 荒野自体にも魔物は存在し、魔物は生きるために魔物同士で争い、蠱毒が自然体系の中で発生し、更に強力な個体が縄張りを持ち支配している土地だ。


 その魔物達は荒野から出ることが無く、お互いに食らい合いながら今も生きている。

 数年に一度ふらりと迷い込む手負いの魔物が存在するようだが、それでもこちらの魔物とは隔絶した差があり、発見次第遠距離から攻撃して仕留めるようなっている。



 そんな荒野を訪れたソニヤとマイレス達。


 何故かというと完治計画の会議が行われる前、レムエルからとある任務を言い渡されたからだ。


「本当におっかない場所ですね。所彼処から魔物の気配がします」


 冷たい風吹く見晴らしの良い、草木一本無い枯れた大地。

 だが、数百メートル先に見える大岩や地面の下、将又既に朽ちた木からも生き物の気配を感じる。


 この場合魔力といったところだ。


 擬態している魔物ばかり。

 気配は完全に断たれ、微かに感じる魔力のみがソニヤ達に魔物の場所を教えているだけだ。


「まだこの辺りは序の口だ。バダックに聞いたことがあるのだが、一度この先に行ったことがあるらしい。と言っても砂漠を見ることも出来なかったようだがな」

「どうなったのですか?」


 マイレスはバダックの部下ではなかったが、最強の矛と名高いバダックがこの辺りで負けるとは思えなかったのだ。

 それ程バダックの武力は凄まじく、帝国から数十年も王国を守り切っていた英雄だということだ。


「この辺りの魔物なら私達でもサシで相手に出来るだろう。だが、ある一定の距離に近づくと統率個体の縄張りに入るらしい」

「感知され集団で襲われる、と言うことですか。流石に数にはバダック様も手が出せないということですね」

「そういうことだ。統率個体はAランクとされ、集団で襲われた場合Sを凌ぐという」


 背後の騎士から変な声が漏れた。

 人類が住む大陸でSとされるのは竜種や種族の上位に君臨する個体だ。


「ここは見て分かるように厳しい土地だ。お互いに血肉を争って殺し合う魔物は私達が知っている強さより当然強くなる。そこに見えているスライムも同様だ」

「い、言われるまで気付きませんでした……。だ、団長、しかも動きがおかしくないですか?」


 ソニヤ直属の女性騎士が岩陰から出てきたスライムに怯えた声を出す。


 通常のスライムは地面を引きずるように動くか飛び跳ね、形もドロッとしているが丸みがある。

 ところがそのスライムはのっそりと這うように動き、辺りを警戒しているのが分かる。

 核も中心にあるのではなく、手のような形をした中に包まれるようにあり一見壊しやすそうだが、あれでは素早く動かされ生半可な攻撃では躱されるだろう。


「あれもこの土地で生きるための進化だ。擬態、地中、気配を消す、どれもこの土地で弱い個体が生きるための術と言える」

「強さは変わらないようですが、生き延びてきた経験という物が強さを上げているのでしょう」


 スライムはさして興味がなかったのか、違う岩まで移動するとスルッと隙間に飛び込んでしまった。

 そこも通常のスライムでは考えられず、即座に逃げる方法なのだろう。


「わ、私達は無事に帰れるのでしょうか?」


 不安で不安で仕方がないといった心情だ。

 男性騎士もごくりと喉を鳴らし緊張しているのが分かる。


「今回はこれ以上奥へ行くことはない。行っても森が目に入る範囲だ」

「その範囲内ならば大丈夫だと資料に書かれていました。信用できるか分かりませんが、私達の任務は国の命運をかけているといっても過言有りません。なんとしてでも手がかりだけでも探すのです」

『わ、分かりました』


 騎士達はソニヤとマイレスの落ち着きと自信の頼もしさに腹を括り、二人がいれば安全だと己に言い聞かせた。

 これがカリスマ性という物だ。


「無事に帰ることが出来ればレムエル様から褒美があるそうだ。この任務はA判定だが、場合によってはSになるらしい」

「褒美ですか!? レムエル様自らから貰えるんですか!?」


 驚いて喜んでいるが声は小さい。

 保護欲とハラハラとさせる母性を引き出させるムエルは、特に平民の女性騎士からかなり人気だ。

 レムエルは相手が平民であろうと普通に接し、頑張れば頑張るほど労いの声を掛けてくれるのだ。


 レムエルと会い話すのなら黒凛へ、といううたい文句が密かに囁かれているほどでもある。

 貴族の女性達も自衛するためと一種の特技などとして黒凛へ入団する者が多くなっているが、本当の所は平民女性ばかりがレムエルと仲良くして嫉妬しているだけだ。


 知らなくていいレムエルはそんなことになっていると気づかず、女性たちに囲まれるのは嫌でもない為、お礼にジュリア王妃達が作った化粧品や石鹸等を試作品として配ったりする。


 騎士になるから美容が、という女性が多いのだが、入団して初めて騎士になっても美容を気遣えることを知る。

 入団できるまで極秘扱いされ、入団した者だけがその恩恵を知り、心酔していくのだ。

 かなり良い循環が出来始めている。


「レムエル様独断の任務だからな。常闇餓狼に任せようにも、長距離移動と戦闘で酷使し過ぎて満足に動けないとのことだ。褒美に関しては要望を考えておいてほしいとのことだ」

「自ら渡してくれるかはわかりませんが、配給してもらったものと同等の物を達成次第で叶えると言われていましたよ。勲章や地位は極秘任務ですから無理でしょうが、お金や装備品の支給、配偶者や配属、女性にはお茶会ぐらい開いてくれるのではないでしょうか?」

『ソニヤ様、頑張りましょう!』


 分かりやすく言ったマイレスの言葉に、女性騎士達は色めき立ち鼻息を荒くやる気が限界突破した。

 ソニヤはお茶会で食べさせるシーンを想像してしまったが、それ以上過激なことをしたりしているため、どのような褒美を貰おうか考えながらうんうんと顔をほころばせて頷いている。


 レムエルならお茶会だろうと、握手会だろうと、親衛隊だろうと作るだろう。


「さて、そろそろ出発しますか。ここからは魔物との戦闘は極力回避します。体力云々もですが、戦闘音で相手に気付かれるわけにはいきません」


 マイレスは前方を見渡し、目標地点を探りながら気配の無いルートの確認をする。


「私達はレムエル様ほど感知能力が高くない。だが、今の私達なら集中力を高めれば感じ取れるはずだ。日頃のように目に見える範囲だけでなく、自分を中心とした球体を意識して気配を感じ取れ」

『了解しました』


 ソニヤとマイレスを前衛に、極めて感知能力の高い者を中衛、それを囲むように周囲を警戒する後衛の配置に付く。


 これから先は未知の領域。

 魔物だけでなく痕跡一つ見逃さないよう細心の注意と警戒を払い、ソニヤ達はご褒美の為に俄然やる気を出して前へと向かって行った。






 それから二日後、ソニヤ達は帝国と王国の境界付近、人が住めないであろうアバキアクルス荒野にて魔物ではない痕跡を発見した。


 同時刻、王国全土から苦しむ者を介抱し癒す音色が奏でられた。


 後に『慈愛の子守歌(ララバイ)』と親しまれるようになり、王国では大人が子供に伝えていく伝統曲となる。


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