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第六話

 処刑は出来るだけしたくないという気持ちは分かるが、今の御時世ではそれを行うことが何よりもの罰となり、死なない戦と作戦を成功させるのは口で言うよりも遥かに困難なことだ。

 こちらはまだソニヤしかおらず、協力を得られたゾディックも戦力として数えるまでは得られていない。レムエルのこれからの行動によって先に見える光の大きさが変わるのだ。

 まだ甘い考えを持ち、現実の一端しか知らないレムエルだが、ゾディックの協力を得ることに成功し、情報収集に入ることにした。


「俺からはあまり言わない方が良いだろ。殿下、自身の目で見て判断してください。現実の民の生活、苦労、怒り、悲しみ、思い、行動の先にあるものを考え、それが正しいのか見極めてもう一度私に自信の思いを教えてください。私はそれまでにどうにか冒険者ギルドを纏め上げます」

「でも、冒険者ギルドってこういうのに参加していいの? 報酬とか払ったり、もしかしたら今がいいと言って国の方に参加する人もいるんじゃないの?」


 レムエルの考えは誰でも思うことだろう。

 この町のようなところに住む冒険者ならば苦労を知り、成功確率と報酬いかんでは参加し、更に王族との縁が結べ、成功した暁には平和が訪れるのだから協力してくれるかもしれないが、国に近い冒険者や貴族にやとわれた甘い汁を吸う冒険者は今が壊れてほしくないと願い、自由が第一に重んじられる冒険者なのだから普通に敵対するだろう。相手の背後には国がいるのだから尚更だ。だが、負けた時のリスクは計り知れないだろう。


 このように冒険者を使うときはいろいろと考えておかなければ後に影響が出てしまうのだ。


「確かに報酬は必要です。ですが、今の殿下にはその報酬自体を払えますか?」


 ゾディックの「無理だろう?」と分かっている質問にレムエルは小さく頷いた。


「僕には何もない。王族かどうかも怪しい。今の僕だと周りが認めても上が認めないと意味がないと思う」

「そうです。貴族の中には殿下に協力してくださる方もいるかもしれませんが、それでも冒険者全員に満足いく報酬を払うのは無理です。最低でも一人金貨数十枚はいるとお考えください」

「そ、そんなにいるのか!? ……い、いや、普通に考えれば負け戦の様な物だから仕方ないのか……? だが、金貨数十枚というのは皆が皆そうではないだろう? 戦力にならない物資運び位なら金貨数枚に落とせるんじゃないのか?」


 ソニヤが驚きながらも即座に計算し、冒険者だったころの報酬を思い出す。

 金貨三枚が最低の報酬額として三十万ヘッセ。現在の一食分が凡そ五百ヘッセ。一日に二回の食事だとして千ヘッセ。普通に考えれば三百日分だが、他の生活費がかかるため二百日分にしかならない。更に冒険者ならば武具などにも金がかかるためもっと少ないだろう。


「ソニヤ、落としても意味ないと思う。それよりも僕は素材をたくさん持っているからお金と素材を一緒に渡せばいい」

「それも一つの案ですが、参加する冒険者が高く見積もって五千だとします。ランクもそれぞれですから、素材の質も問題になります。孤独の森の素材ならば大丈夫でしょうが、殿下に支払えますか?」

「そっか……量もいるし、質の問題もあるんだね……」


 レムエルはグラスから口を離して椅子に体を預けてしまった。

 今まで自分で考えてきたが答えが明確でない、こういったことはほとんどしたことがないため、余計に疲れを感じるのだろう。

 ソニヤは何と声を掛けようか悩むが、元々武力派なため考えることを得意としていないのだ。

 それを見かねたゾディックが一つの案を示す。


「ですが、案がないこともないです」

「ほ、本当!?」


 レムエルはそれに飛びつき、グラスを落としそうになる。


「はい。ですが、これを教えられて実行されるようでは協力できません。殿下が通常の王子であればよろしいですが、王になられるのであればご自分で気付き、実行してもらいたいのです。厳しい言い方ですが、これは王になられるのに必須条件だといっても過言ではありません。また、王以外でも必要です」

「王以外でも? ゾディックさんやソニヤも?」

「現在のソニヤは必要ではないでしょうが、黒凛にいた時は必要だったはず。私は元は入りませんでしたが今は必須条件となりました。正しくはあったから選ばれた、という点が強いです。まあ、冒険者のギルドマスターは少し違いますが」


 レムエルは自分と二人がどう違うのかを考え、いろいろと思い浮かぶものがあるが決定打に欠ける為言い出せない。

 ソニヤもなんとなくは分かるが言葉にするのは難しいと考え、教えるのもレムエルのためにならないと我慢することにした。


「まあ、大半の者がそれに気づくことなく生きているため、必要な立場にいる者も気付かずにいる場合が多くあります。ですが、王になられるのなら気付いてほしく思い、国民の立場でいいますとその方が安心できます」

「安心できることなの? 力とかじゃないよね? 安心はできるかもしれないけど、怖いもんね」

「はい、そうですね。王になるのに力は入りません。あればいいでしょうが、殿下の父君である国王様には低ランクなら倒せるでしょうが、魔物と戦う力はありませんよ? 殿下がどうかはわかりませんが」

「そうなの? 僕は父上を見たことがないからよくわからないや。でも、母上が言うにはとても優しい人みたい。今は体調が悪いみたいだし、母上みたいに死ぬ前に会いたいんだ」

「殿下……」


 ソニヤはそう呟き、レムエルがそっと笑みを浮かべた。


「とりあえず、頑張ってみるよ。自然に身に付く物なんだよね?」

「まあ、そうですね。殿下がこのまま進むのであれば自然と身に付くかもしれません。そうでないかもしれません」


 あやふやな返答に困惑するレムエルだが、とにかく今は頑張ってみることにした。

 まだ、自分が王になる覚悟も、国民の苦しみを背負い解放できる覚悟もないが、苦しんでいる人を救いたいという覚悟は人一倍強くあるため自分ができることをしようと、強く心に刻み込んだ。


「では、話し合いはここまでにしましょう。信用できるギルドマスターには一応訊ねてみます。返答については伝書鳩で教えましょう」

「伝書鳩で僕の場所が分かるの?」

「通常の伝書鳩であれば分からないでしょうが、私が調教した鳩は少々特殊でして魔力を持っているのです」

「魔物じゃないの?」

「はい、『ピジョン』という魔物です。魔物は相手の魔力を読み取ることに長けていますから、相手の魔力を覚えさせればどこにいても探し当て飛んでいくことが可能です。さすがに国内が精々ですが」


 それでも伝書鳩の分類でいうと上位に位置するほどの性能持ちだろう。

 通常伝書鳩というと動物の習性を利用した巣へ帰る本能により手紙を飛ばすことだが、ゾディックの鳩は二点を移動することを覚えている伝書場の上位版と言える。巣から複数点飛ばせるのはこの世界でも数羽といないだろう。


「ただ、魔力を餌とするので手紙の引き替えに魔力を欲するでしょう。報酬だと思ってお願いします」

「それぐらいなら構わないよ。僕も育ててみようかな?」

「殿下の場合、精霊にお願いしたらいいのではないですか? あんなことが出来るのですから声を届けるぐらい簡単ではないのですか?」


 精霊という言葉にゾディックは反応するが、レムエルは気付かずにソニヤに唇を尖らせて言う。


「だって、面白そうなんだもん。動物と遊んだことはあるけど、育てたことはないんだよ? 母上の体調も悪かったから。まあ、今はする気ないから安心してよ」

「当たり前ですよ」

「ちょっと待ってくれ!? 殿下は精霊が見えるのですか?」


 ゾディックは『竜眼』がどういうときに発動するのか教えられていなかった。

 二人は教えたつもりでいたようで頬を掻き簡単に説明する。


「殿下は五歳の頃には精霊と遊ばれていた。現在は姿だけでなく、会話とその力を行使することが出来る」

「そうだね。精霊は友達だからお願いしたらいろんなことをしてくれるんだよ。僕が危険になった時はいつも助けられてるんだ。火はこの寒い時期に体を温めてくれるし、風は疲れた時や寝る時に優しい風を送ってくれて、水は暑い時に涼しくしてくれる。土は実りを良くしてくれたりするけど、一回やり過ぎて怒ったことがあるよ」


 一度だけレムエルの願いに応えようとした土の精霊達が力を行使しすぎたために、冬に春の植物達が芽を出してしまったのだ。すぐに土の精霊は周りの精霊と協力して事なきを得たが、あれは精霊にとってもいい教訓となっていた。

 やり過ぎは身を削る、と。

 意味はやり過ぎる応えは大好きなレムエルから怒られそっぽを向かれるという意味だ。

 精霊達にとってそれはとても悲しいことなのだ。


 初めて知ったソニヤは、今まで快適に村の中で暮らせていたのがレムエルの願いだったと初めて気が付いた。

 確かに実りは良く採れすぎというぐらい採れていたため、近くの村に卸しに行ったこともあるくらいだった。

 普通に育てていれば今頃土の栄養がなくなり不作となっていただろう。


「はぁ……。殿下、今日あたり私といろいろと話しましょう」

「ん? いいけど……なんかごめんなさい」

「いえ、しっかりとお話ししてくださればいいです。せめてこの町を出るまでに全てお話し下さい。いろいろと考えて行動しますので、場合によっては変更できるところは変更します」


 ソニヤは叔父の所へ行くまでレムエルのことをあまり世間に広まってほしくなかったのだ。

 時間がないため早く広めたいが、後ろ盾がない今国から目を付けられるというのは喜ばしくないということだ。


「まあ、いろいろな事情があるみたいだが、殿下は精霊が見えるということでいいのだな? なら、『ルゥクス』に行ったとき精霊教に協力を仰いでみろ。多分、積極的に協力してくれるんじゃないか?」


 精霊教について先日話したと思うが、この世界で一般的に布教しているのが世界が閉ざされた時からある創神教だ。精霊教は一般的ではないが、各地に散らばっているためそれなりの信者がいる。

 宗教にもそれぞれの考え方があるが、精霊教は主に自然に対して祈りを捧げる食事の挨拶、人との挨拶、奉仕活動、祈りを捧げる等生活習慣に関するところが大きい。そのため神の考えを第一に考え金儲けや民を先導し王を傀儡にしたり、やりたい放題している創神教とは仲が悪い。

 お金を持つ貴族達は創神教の信者が多く、国民は生活に施しや清掃をしてくれる精霊教に恩を感じ信者となる者が多くいる。

 お金が欲しい創神教だが、お金を持っていない国民を入信させても懐が温かくならない為、その差があまり布教していない精霊教との差となるのだ。


「そういうことなんだ。それなら、行ってみる価値はあるかもしれないね」

「はい。確か『ルゥクス』の精霊教は本部が置かれていたはずで、総本山にいる教皇とまではいきませんが大司祭が居られます。大司祭ならば枢機卿へ話を持っていき、教皇へと協力を仰げるかもしれません」

「精霊教は味方になってくれるかな?」


 レムエルは外に出てからソニヤしかおらず心細く少し不安で、少しストレスが溜まっているようだ。更にいろいろと考えさせられることが多く、自分の身には重すぎると感じているようだ。

 ソニヤはそれに気が付きそっと頭を撫でる。


「殿下になら出来ます。精霊教は国民のために、という側面が大きいため恐らく協力してくれるでしょう。よく分かっておりませんが国は創神教の手が伸びていると思われます。国は宗教なくしてはいられません。殿下は精霊と話せるということなので、精霊教と繋ぎを持ち、国と国民から金を毟り取る創神教に一泡吹かせましょう」


 ソニヤは何やら燃えている。


「もしかして、ソニヤは創神教と何かあったの? お金を騙されたとか……」

「うっ……。仕方なかったんですよぉ。黒凛の副団長になったことで創神教に入るとかどうとか言われて入信料を地位に見合った分取られたんですぅ。当時の私は十五歳だったんですよ? それまで無宗教に近かったんですから宗教のことを全く知らなくてですね、皆が入っているのなら入るのかと思って入ったのです。その後仲間にいろいろと言われ気付かされまして、すぐに抜けたので私は少々恨まれているかと。もちろん私はあちらよりも恨んでおります。叩き潰したいくらいに!」


 ソニヤは立ち上がって鼻息を荒くする。

 かなりの量を取られたのだなと、レムエルとゾディックは苦笑いを浮かべて可哀想だと感じたという。


「どのくらいか聞きたいところだが、聞くとシャレでは済まない気がするから思う存分晴らすが良い。殿下、ソニヤもこういっていますから顔を覗かせてお会いしてみてください」

「わかったよ。それまでにいろいろと情報を集めてしっかりと判断したいと思う。それとゾディックさん」

「何でしょう?」


 レムエルは少し視線を彷徨わせ、何かを決心してから真剣な目で言った。


「ゾディックさんは敬語じゃなくてもいいよ。まあ、僕は王族みたいだから敬語の方が良いだろうけど、何か似合わないんだ。公の場じゃなかったら普通に接してくれてもいいよ。苦手なんじゃない?」

「そ、そうですが……。まあ、そっちの方がありがたいというのもあるからそうさせてもらう」

「うん! そっちの方が似合ってるよ。ついでに精霊の加護もあげるね。ソニヤにしたのとはちょっと違うけど、緊急時に僕に届けてくれって言ったらなんでも届けてくれるよ。多分伝書鳩よりも早いと思う」

「へ? そんなことも可能なのか?」

「うん。僕にもよくわからないんだけど、精霊ってどこにでもいるんだよ。魔法は魔力が必要で個人の力で使うものだけど、精霊は世界に存在しているからほぼ無限に力を使えるんだ。僕の魔力も必要としていないから、仲良くして時に精霊のお願いを聞いていれば問題なく行使できるんだよ」


 二人はまたしても固まるが、精霊についてはほとんど文献が残っていない為分かっておらず、精霊を感じれる者がいたとしても行使できるというところまで行かないのだ。

 精霊教の教皇が唯一精霊を感じ行使できるといわれている。


「だから、スケールが大きいというのか……」

「そうだね」

「精霊のお願いとは何ですか? 私見たことがないのですが……」


 ソニヤはレムエルが身を削っていないのかと心配になり訊ねる。

 瀕死状態でも治せる加護できるというのは相当の代償を払っていると思っても仕方のないことだが、


「だって、日頃遊んだりすることだよ? よく考えてみてよ。僕達はいろんな人がいて、見えて、話せて遊べるけど、精霊はほとんどの人が見えないからそれを眺めてるだけなんだよ? 仲間外れにされているみたいで寂しいでしょ? だから、定期的に遊んだり、話したり、願いをすることも精霊にとっては遊びをしている感覚なんだ」

「「確かに……」」

「僕もそうだったからよくわかるんだ。僕と一番年が近いソニヤでも十歳以上離れてるし、皆情報集めや警戒、僕を育てるので精一杯で普通の子供が遊ぶようなことする時間なかったでしょ?」

「すみません……」

「いや、責めてるわけじゃないからいいよ。ソニヤ達も僕のために頑張ってたんだからね。そのおかげで今とても楽になってるしさ。それに精霊や動物がいたから結構楽しかったよ。だから、精霊の気持ちがよくわかるんだ」


 ソニヤとゾディックはレムエルが少しだけ悲しい目をしていることに気が付き、何も言えなかった。

 特にソニヤはもう少し早く気付いていれば遊ぶことも出来ていたかもしれないと後悔の念しかない。


「ちょっと待てよ……精霊が万物に宿り、精霊と会話が出来るのなら、精霊から世界の情勢や機密書等を盗めるのではないか?」


 ゾディックがふと思いついたように訊ねて来た。

 レッラが優秀だったために気が付かなかったが、ソニヤも今気が付いたとレムエルを目を開いてみる。

 だが、レムエルは目を閉じて横に首を振った。


「精霊は嘘を付けないし、悪さは出来ても悪事は出来ないんだ。それに世界に人間とは根本的な考え方が違うし、会話と言っても言葉の会話じゃなくて意志の様な物を感じるだけなんだ。今日は何したいじゃなくて、僕が何かをして楽しいという感情を覚える感じだね」

「それでは無理だな」

「うん。苦しんでいるのは分かるけど、何に苦しんでいるのかは僕にはわからないからね。だから各地を見て行かないといけないと思ったんだ。言葉を届けるときは本人の声を届けることになるから精霊の声とは言わないね。まあ、それも時間が経てば精霊ともっと仲良くなれて、言葉も聞けるようになると思う」


 二人はまた精霊の神秘について深く知り、これ以上は頭がパンクすると思い話を打ち切りそれぞれの行動に移ることにした。

 レムエルはゾディックと別れ、初めての町で次の目的地である『ルゥクス』の街への準備をすることになった。


そこまで気にしない方が良いと思うのですが、気になるのがポイントやアクセスですよねぇ。

どうやったら増えるんですかね?

誤字無くすのは分かってるんですが、文章力やストーリーですよね……。


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