お忍び ロックス
お姉様タイプにモテやすいのがレムエルみたいな人物でしょう。
それにまだショタっ子でもありますし、その成長過程がモテるのです。
ですが、巨乳美女達にモテるのはうらやまけしからん! と、思いますね。
水上都市アクアスで観光も行ったレムエル達は、次の目的地である鉱山都市ロックスへ向かって出発した。
馬車で四日ほどのゆったり旅で辿り着く。
最近の経済成長により魔物掃討と盗賊討伐・警備が行われ、一番荒れていた南部は一番好景気と治安が保証されている。
対して北部には帝国と事を構えたことも関わり、南部から逃げた盗賊などが多く集まり出した。
国が対処に乗り出し、事なきを得てはいるが全てをと言うのは無理な話だ。
四日の旅は何事もなく進み、水の関わるものが多い地帯からごつごつした岩波の山々の地帯となった。
途中の村や街ではやはり体調の変化を伴っている者がいた。
それでもさほど人数に変化はなく、多少体調の上下はあったが問題はないと判断された。
ロックスでそういった問題が起きていればレムエル達も乗り出すだろうが、アクアスで問題が無いということだったため疑問が浮かんでいた。
「ここがロックス……。鉱山と言うのを初めて見たけど、意外に活気があるのね」
内乱時が王城から始めて出た経験のメロディーネは、当然王都外の街に出たのも初めてとなる。
水で成り立つアクアスの街並みも、高山で囲まれたドーナツ状の街並みも初めてということだ。
「僕が来た時はそうでもなかったよ。でも、鉱山の死亡率は下がったし、新しい物も多く生産されてる。物作りが得意なドワーフや岩人族が多いから、この開発ラッシュで賑わうんだ」
「レムエルは王様やってるのね。お姉ちゃんとして鼻が高いわ」
そんなメロディーネにレムエルが分かりやすく、自分は関係ないかのように説明する。
まあ、本当に自分は何もしていないと思っているのだろう。
それを一番分かっているソニヤは頭を振りながら溜め息を吐き、それがレムエルらしいとレッラと共に笑い合った。
「メロディーネ様も姉君として頑張らなければなりませんね」
「そ、そんなことわかってるわ! アンネの意地悪……」
まだやんちゃなメロディーネに対してアンネが耳打ちし、
「ふふふ、下の出来が良いと上は大変なのはどこでも一緒ね」
「ははは、そうだな。まあ、それで仲が良いのは良いことだ。……他の兄弟も仲良くしてほしかったものだがな」
「……ええ、そうね」
顔が赤くなったところにジュリア王妃とアブラム先代国王は嬉しいような悲しいような感情と言葉を口にした。
周りの貴族におだてられ操られたとはいえ、産みの親としては考えるところがあるのだろう。
自分が不甲斐ないというという所もあり、悔いが残っているのだ。
馬車は門を通り、笑顔と怒声の混じった喧騒な街に入る。
街の外でも鉱山の発掘や旅人や商人達が行き来し、あの廃れる間近だったロックスとは思えない状況だ。
レムエル達は馬車から降り警備員に任せると、その足で以前案内してくれた警備隊長と共にオルカス・ウィーンヒュル子爵の屋敷へ向かう。
いや、既に子爵ではなく伯爵になっているのだった。
「これが噂の魔導昇――きゃっ! う、動いた!? 皆、動いたわ! ……何でもないわ」
『ははははは(ふふふ)!』
案の定初めての経験であるメロディーネは自動で上に上がる魔道具に驚き、感じる重量感に興奮し感嘆の声を上げ、皆に大笑いされ恥かしそうにジュリア王妃の背中に隠れる。
ジュリア王妃も初めての経験だろうが、そこは大人の落ち着きとメロディーネが真っ先に燥いだために冷静さが失われなかった。
「レムエルもそこまで笑わなくてもいいじゃない! プイッ!」
プイッと口に出すところがあざとい。
「ははは、ごめんね姉上。でも、僕も最初これに乗った時は姉上のように燥いだよ。その時ソニヤに笑われて少し恥ずかしかったんだ」
「そうなの?」
笑みを苦笑に変えたレムエルの言葉にメロディーネは首を傾げてソニヤに訊ねる。
「ええ、レムエル様もメロディーネ様と同じく驚かれていました。その反応を見る限りそっくりな姉弟であられます」
「そ、そう?」
「はい」
その言葉に機嫌を良くしたメロディーネは、今にも踊り出しついでに歌でも歌い出しそうな様子でレムエルと共に会話に花を咲かせる。
何と簡単な人だろうか。
これでこの後にオルカスとぶつかればもっとそっくりなのだろうが、今回はそんなこともなく普通に降り立った。
オルカスとの対応後、レムエル達が鉱山都市ロックスの有名防具店ゼノの店等を視察し、最近流行の銀糸を使った体験物作りをしている頃。
王都で事務処理をしているロガンは常闇餓狼からレムエルが懸念している事柄の報告を受けていた。
「――とのことです。このまま調査に乗り出しますが、現状酷くはありません」
全身黒尽くめの背の高い男。
右目に爪跡が残っているいかにもな鷹の獣人族の常闇餓狼現総隊長の『アーヴィン』だ。
「うむ。だが、拡散状況にあると?」
「はい」
四日の内に軽い調査を行い、精度を上げた上で報告する。
これも軍部の報告関連のやり方からきている。
拡散にあると言ってもそこまで深刻ではない。
未だ何が起きているのかすらわからず、調査で来たのも聞き込みや噂の様なもので、治療ギルドや治療院や他の地方までは調査していないのだ。
「それと、その症状はアクアスでは確認されておりません。その周辺の村も当てはまりますが、少し離れると症状が出ているもようです」
「むむ……良い事なのだろうが、よく分からんな」
仮に感染症や流行病ならばアクアスで流行らないというのはおかしい。
アクアスが清い水が有名なため何かしらの効果があるとも考えられたが、それならばそう言ったデータが残っているはずだ。
これと言ってアクアスの者が病気知らずといったところはなかった。
「一番有力なのは――」
「精霊、ですね」
ロガンの言葉を先取りしたアーヴィン。
ロガンは気にした様子もなくその通りだ、と頷く。
「陛下がいく方向は精霊も知っているはず。よって精霊が予め病気を排除した、そう考えるのが妥当だ」
「ですが、もしそうなら精霊はレムエル陛下に報告するはずです」
「危険が無いのならそうなのだろうが、今回は別だろう」
レムエルが悩んでいるのだから精霊が教えないわけがない。
そもそも精霊が病原菌を排除したとするとレムエルは気付いていただろう。
力を行使できるということはその力に敏感でもおかしくない。
「兎に角、今のところは問題はないのであろう?」
「はい。多少の違和感程度らしいと聞きます」
「うむ。ならば、調査を進める方向で動き、何かあれば即座に治療ギルドと連携し、陛下達に連絡を」
ロガンは引き出しから紙を取り出し、羽ペンを使って即座に命令の文章を作る。
一枚は常闇餓狼への調査書、もう一枚は軍部への調査隊派遣許可書だ。
この程度ならロガンの判断でどうにか出来、現在のロガンの地位はレムエル不在ということでトップでもある。
「では、治療ギルドにもこの話を?」
「いや、全ギルドに通達するべきだろう。まあ、それはこちらでやっておく。お前は部下を使い騎士と連携して調査せよ」
「はっ」
全ギルドの通達するのは治療ギルドだけで対処できなかった時の為だ。
通常なら今の段階でここまでしないのだろうが、この緊迫状態で不思議なことが起きるということは何かが起きている証拠で、レムエルが考えているというのも考慮に値した。
ロガンは帝国や創神教が何かしたのではないかと睨んでいるということだ。
もし南部から広がっているとするとその可能性が高く、何者かが侵入しているとも考えられた。
「それと例の者ですが、『鮮血の斧』の一味を雇い放ったそうです」
「なに? あの一味を雇ったのか? てっきり国内から逃げたものかと思っていたが……」
『鮮血の斧』というのは大のつく盗賊団の名前だ。
リーダーの名をブライドとも言い、大きな斧を使った斬殺を行い、血濡れのその斧を笑いながら舐めとることで有名な盗賊でもある。
元々帝国方面から王国の富と腐敗を感じ取り流れてきた盗賊みたいだが、レムエルの登場と王国の強化によりほとんどの盗賊が捕まり大人しくなったため、話題に上らなかったこともあり逃げたものかと思っていたのだ。
「どうやら元々雇われていたようです。そして別荘にでも住まわせていたのかと」
「それなら見つからず、話題が上がらなくとも仕方がなかったか」
ロガンは少し考え、紙にスラスラと付け足した。
「ついでにその者達を捕えよ。出来れば陛下達に見つからぬように……と言うのは無理であろう。だから、出来る限り家族旅行に無粋な真似をさせてはならぬ」
「御意に」
アーヴィンは一礼するとその場からバッと消え去り、ロガンが書き綴った命令書二枚も消えていた。
何とも鮮やかな手並みだ。
「さて、集まっている者達へお灸も据えねばならんか。どうしてこうも良い事が起きれば悪いことが起きるのだろうな」
いやはや世の中は上手く回っているものだ、とロガンは良い事だけが巡って来ないという皮肉を口にした。
当然その部屋にはロガンしかおらず、問いに答える者等いない。
ましてや先の分からない人間が答えなど持っていようもなかった。
アーヴィンは即座に命令書を常闇餓狼のメンバーとアースワーズに伝えた。
また、コトネ達護衛組にも少し遅れて情報を受け渡す。
「分かった。直ちに調査隊を派遣しよう」
「では、私はこれで」
報告を終えたアーヴィンは再び一瞬で消えた。
アースワーズは書類から目を上げ、外にいるであろう待機兵を呼ぶ。
特殊な鈴の魔道具を用いるのだ。
「はっ。何でしょうか」
執務室は機密事項の会話や重要案件の密談にも使われることがあり、王城にある専用の執務室は大概防音と遮断設備が備えられている。
扉の傍に立つ待機兵だとしても聞き耳を立てても聞こえない。
アーヴィン達もまた特殊な方法を持っており、物理的に天井を外して入ってくるなどをする。
物理遮断の結界は張られていないからだ。
「ハースト……は遠征中だったから、マイレス銀鳳団長を呼べ。調査隊を派遣するとな」
「分かりました」
十分ほどでマイレスが待機兵に連れられてやってきた。
「銀鳳騎士団団長マイレス、お呼びとのことで参じました」
マイレスは入ると共に礼儀良く軍敬礼をし、アースワーズもそれに倣う。
「お前は外に出ておいてくれ」
「はっ」
内密な話であるため、一応情報を漏らさないように待機兵を外に出す。
「で、アースワーズ様、何か起きたのですか?」
それを横目で確認したマイレスはいつものような口調に戻し、近づきながら問いかけた。
「起きた、というよりも、これから起きるかもしれない、が正しいだろう」
「ふむ。陛下絡みでしょうか?」
マイレスは瞬時にこれから起きるというフレーズと機密のような話を結び付け、ここ最近の重要事を思い出したのだろう。
「そうだ。どうやら、南部で奇妙な病気、というより症状が出ているらしい」
「症状、ですか? 病気ではないと」
よく分からないといった様子で訊ねかえすマイレス。
アースワーズは頷き、聞いた話をそのまま伝えた。
「今のところ体調不良は出ていない、そうだ。力が湧く、体内の煩わしさ、内部が少しだけ膨れる気がするそうだ」
「だから、病気ではないと。出所は……陛下ですか」
レムエル絡みと南部という単語で気付く。
「レムエルが気付き、少し気になっているから今情報があるんだが、ほとんどわかっていない」
先にその情報だけが来たのだと推測する。
ここでもレムエルが気にしたということだけで何かしらの問題があると思われているようだ。
「この後治療ギルド、定例会議で話し合うそうだ。今のところ分かっているのは症状だけだ。ただ、アクアスとロックスではその症状が確認されていないとのこと。それが余計に奇妙だという」
「確かに奇妙ですね。そのような症状は知りませんし、病気や感染症ではない気がします。未だに南部はきな臭いですから、注意が必要かもしれませんね」
アースワーズも同意とばかりに頷く。
「だが、それもわからない状況だ。そのためにロガンから調査隊の派遣を示唆されている」
「それで私の部隊ですか。王都でも聞き込みをしてみましょう」
「頼んだ」
別の紙に任務内容を事細かく書いていく。
「まずは情報収集が先だ。症状の原因、発症方法と経路などを調べろ。だが、表立って調べてはならん。分かり次第、治療ギルドと連携を取るか判断するとする」
「了解しました。遠征に長けた四番隊に任せます」
「うむ。ついでにこちらでも試作品のあれを作ってもらえ。かなり美味いらしい。遠征の時の感想を聞かせてくれ」
「分かりました」
今大きく動いて騒ぎを起こしたくないということだ。
祭りや誕生会で賑わい王国が落ち着きを取り戻したとしても、半年前まで腐敗し内乱をしていたのだ。
今原因不明の病気等が流行っている、その解明にレムエルが関わり、軍が動いていると流れると……帝国や創神教が何かしたのではないか、そう流れて余計な反発が起きる。
下手すると、この弱っている状態で戦争が開かれかねない。
それだけはしたくないことだった。
「もう一つはハーストの方が良いのかもしれんが、西部の方に遠征中だったからな。一応お前の方で動いてほしい」
人材発掘のための大会も終わり、新人の訓練のために遠征に行ったのだ。
近衛騎士団は一般騎士の集まりでもあり、様々なことが出来なくてはならない。
何かの争いが起きれば遠征が一番組まれやすい騎士団だということだ。
近衛でも城の中だけを護るような団ではなく、王族や貴族が行くところ全てを熟知し、安全な警護と遠征できるよう努める。
勿論それは銀鳳や黒凛でも同じだ。
銀鳳騎士団はマイレスの様に頭脳派が多く、実力は必要だが犯罪者の検挙などを行うため取り調べや拷問等の術がいる。
書類整理などもこちらの騎士団が主に行っている。
攻撃の近衛、防御の銀鳳、特殊の黒凛だ。
「もう一つとは? そちらも陛下絡みですか?」
「ああ、そっちもレムエル絡みだ」
微かに口元に笑みが作られる。
「大丈夫だとは思うが、またあの貴族が厄介ごとを起こしたらしい。まあ、あっちにはソニヤや選りすぐりの騎士がいる。常闇餓狼も数人付いているから大丈夫だろう」
「戦力は十分ということですね」
その分はレムエル達が出発する前から分かっていたことだ。
元々何かしでかすだろうと予感されていた。
追い詰められたネズミは猫をも噛む――所謂窮鼠猫を噛むというやつで、必ず動きを見せれば行動を起こすと読まれていた。
レムエル達を囮にするというのはどうかと思われるが、どう動いても狙われるのだから仕方がないとレムエルは考え、この過剰戦力も迎え撃つための準備でもあった。
ただ単に家族旅行へ行ったわけではない、ということだ。
勿論メロディーネ達にも教えられており、その対策が新しい馬車でもある。
あの馬車は今の技術の生粋を集めたもので、魔力を流すと強固な城塞にもなる魔道具でもある。
その発動は通信機の魔道具を応用したもので、発動させると魔力の回線で緊急報告のランプが着く様になっている。
距離の問題は魔法ではなく精霊の力を使うことで国内であればどこからでも使用可能となっている。
レムエルがいるから使える馬車ということだ。
「問題はその雇われた敵が『鮮血の斧』だということだ」
「はぁー……元を辿れば私達の責任ですか」
マイレスはその名を聞き目を見張ると、片手を顔に当て天を仰いだ。
「そのようだな。俺も関わっていなかったとは言わないが、この有名な盗賊団を逃がしていたのは俺達の責任だ」
「はい。なんとしても捕まえます」
自分達の尻拭いをするために覚悟を決める。
狙われたのがレムエル達だというのもあるだろう。
「南部にはお前が行ってくれ。俺はこっちに向かっているあの貴族の方に関わる。王族がいないというのは拙いからな」
「分かりました。南部には調査目的で行くとしましょう」
「ギルドの連絡が届くよう通信の魔道具を持っておいてくれ。それと治療ギルドに常時連絡が着く様にしておけ」
「了解しました」
ハーストに関しては遠征ということで帰還後に連絡を付け、もし何かしらの非常事態が起きた場合はギルドと連携して動くと決めた。
これもギルドの定例会議で連絡の付け方などを話し合い、王国では全ギルドと良好なやり取りが出来たからだろう。




