お忍び アクアス
レムエル一行の視察。
レムエル達は視察が表の目的であり、慰安と家族旅行が真の目的であるお忍びだ。
そのために乗っている馬車が最新式でも王族の家紋は入っていない。
見た目から高級品で貴族の物と分かり、世間ではお忍びやそれ関係のものだと扱い余り近づかない傾向がある。
お忍びとは言え、レムエル達が完全に忍んで行くのは無理であり、それならば貴族であると装い向かっていくのが良いと考えた。
幸い馬車は大きめに作られ、ソニヤ達(レッラ、アンネ、コトネ)は馬車の中で待機している。
王族栄光騎士は御者の役割をし、数人の黒凛騎士達が前後を旅人を装い付いて来ている。
更に常闇餓狼も数名と遠くから監視を行い、言い方は悪いがレムエル達を餌におびき寄せられる者達の捕獲を裏で担っている。
日程は三週間ほどと考えており、風魔法を用いた軽量高速馬車の車体、ゴムタイヤを使った車輪、通常の馬の数倍ある馬の魔物『バイコーン』に引かせ、行き帰り二週間程度と予定している。
まずは一番近くにある水上都市アクアスへ寄り、丁度開かれるレースを見学。
その流れでロックスへ寄り、工芸品や鉱山発掘の労い等を行う。
次にアーチスト子爵領の城塞『竜精城砦』へ視察に赴き、ルゥクスのシュヘーゼンの屋敷に厄介となる。
最後にマグエストで心まで癒され、帰りはゆっくりと少し遠回りして帰る予定だ。
だが、その日程も出発して早々にあやふやになり始めていた。
「ここでも具合が悪そうな人が多いね」
レムエルが心配そうにそう呟く。
「うむ。だが、今は季節の変わり目でもある。南部は雪解けの時期までもう少しあるから、体調を崩す者がそれなりに居る」
その呟きにいつもと違いゆったりとした服を着ているアブラム先代国王が返した。
「レムエルの杞憂だわ。人数も少ないし、十分動いてるじゃない。もし風邪でも気を付けておけばいいわ」
「そうね。一応流行病ではないか確認を取ればいいと思うわよ」
メロディーネとジュリア王妃も口々に考え過ぎだと笑いながら諌める。
レムエルもそう思っているが、感覚から普通の病だとは思えず何かが引っかかっていた。
精霊に調べさせればすぐに分かることだが、流石に病気の名前は分からない。
その辺りはその道に詳しい治療ギルドか元王宮お抱え特級治療師リウユファウスに聞くしかない。
流石のレムエルも病気にまでは詳しくないのだ。
「あ~、つ~」
「おいおい、大丈夫かよ。治療師に見てもらえばいいんじゃないか?」
多少のお金がかかるが、国との連携により診察程度なら容易に受けられるようになった。
もし重度の病気――怪我ではない――が発覚すれば国も多少支援する計画もある。
重度の病気が何であれ広がれば惨事、そうでなくとも中々罹るものではなく、研究等の為に調べる意味がある。
勿論人権は守られている。
「いや、咳が出るとか、身体が怠いとかじゃねえんだ」
「なら何だってんだ?」
「何て言うのか……こう、身体の内が煩わしいというか、かっかするような、兎に角何か膨れているような気がするんだわ」
「……大丈夫かよ。爆発とかすんなよ」
「するか! まあ、何故か力も出しやすいから悪い事ではない気がするんだがな」
そう言って伸びをしていた男はいつも以上の荷物を抱え仕事を続ける。
その後姿を同僚は少し驚き、感心するかのように頷きながら手を進めるのだった。
他にも様々な事例がレムエル達の耳や目に入っていた。
数人の子供達が遊んでいれば、その中の一人が少しだけあり得ない身体能力を出しソニヤ達を感心させた。
他にも手伝っている十歳程度の子供が水の入った桶を易々と運んだり、冒険者の中にも力の加減が出来ず素材を傷つけたと悲しんでいる声もあった。
人数で言うと百人に一人程度だが、一万人もいれば百人はいる計算となる。
それでも少ないと思うかもしれないが、それはあくまでも現状ということだ。
広がればもっと多くなるだろう。
そもそも広がるかさえ分からない。
そこがレムエルを少し悩ませていることでもあるのだろう。
それに少し煩わしさを感じる程度で力が湧くのなら悪い事ではない。
誰かが言ったように爆発するとかなら国を挙げて当たらなければならないが、特に悪い所はない様で、ギルドの方も扱いに困っていた。
もとよりの街で泊まった翌日、アクアスへと到達した。
「久しぶりにくるが、賑わっておるな」
アブラム先代国王は窓から少し覗き、活気が戻り都市を囲む水上を水飛沫を上げて駆巡るレース者達の船に目を綻ばせる。
「父上はレースを見たことがあるんだね。僕は以前追いかけっこをしたんだけど、結構楽しかったかな」
「あー、あれですか。楽しく活気が戻ったので結果的には良かったでしょうが、あのようなことはしてほしくありません」
ニコニコと思い出して言うレムエルに、ソニヤが苦い笑みを浮かべて当時のことを語った。
それを聞いた皆は苦笑を浮かべ、メロディーネは羨ましさ半分、旅の間そんなこともしていたのかと驚きや心配の感情が湧く。
「レースを見れるのよね? 確か、レムエルが作ったっていう船も作ってるとか」
メロディーネの言う通り、レムエルと精霊の合作船『精霊魔導船』はその形を覚えていた造船技師や船乗り達が力を合わせて船を作り上げたと報告があった。
その船は都市の名物の様なものになり、形だけ模造したため運航は出来ないが魔法を併用することで少しだけ水上を進むことができるそうだ。
現在は都市の中央付近に飾られ、観光名所にもなっているそうだ。
「ロックスにいるドワーフ達に協力を仰げばミニチュアが出来るかもしれないね。でも、ドワーフは水が嫌いだからちょっと難しいかも」
ドワーフは生まれも育ちも鉱山等の山が多く、種族柄筋肉も多いために金槌が多い。
「ままならないのね。ま、レムエルがいればいつでも見せてくれるわね」
「弟を便利扱いしないの。メリーもレムエルに似て好奇心が強いんだから。女の子だから大人しくしなさい」
ジュリア王妃の微笑んだ窘めに、子供らしく騒ぎながら話していたメロディーネは唇を尖らせながらドレスを正し座り直す。
それでもそわそわチラリと外の様子を確認し、傍を船が通り水飛沫を上げる様は爽快で感嘆の声が漏れる。
「姉上と似てるのかぁ」
「何? 文句あるの?」
レムエルの呟きにメロディーネは少し棘のある声で聞き返したが、
「ううん、嬉しいなって。アース兄上達はちょっと違うし、まだ半年なんだ。似てるってのが家族になったって一番実感できるんだよ」
慌てることなく返された言葉に沈黙が流れた。
レムエルは首を傾げるが、皆には思った以上にレムエルの心に負担が来ているのではないかと重くのしかかった。
同時に嬉しい言葉でもあり、しんみりと温かい気持ちが溢れるのでもあった。
ここにシィールビィーがいればと誰もが思った。
馬車はそのまま真っ直ぐ進み、大きな鯨を模した名物でもある領主館へと到着した。
前にも言ったが、領主館は兵士達の訓練場、一階は一般開放などもされている。
最近はウィンディアのコレクションであるレース優勝者達の絵を飾った美術展の様なものを開き、それで集めたお金を使ってレースを開催しているそうだ。
また、船の造船も行い、疑似『精霊魔導船』を作ったのもこことなる。
出来上がったのもここ最近で、レムエルの誕生会にとずらして祭りを開催したそうで、こちらはまだお祭り気分が残っているそうだ。
それに合わせての来訪であるため、レースもかなり盛り上がっているそうだ。
冒険者や吟遊詩人も用いて他国からの観客も続々集まっているとのことだ。
「停止を」
「こちらをどうぞ」
「はい、既に連絡を受けております。ようこそおいで下さいました」
御者に扮した騎士が門番とやり取りを行い、一礼を受けた後中へと入る。
そして、待っていたかのように領主館の正面扉が開き、お供の兵士を連れた青い髪と妖艶で朗らかな雰囲気を纏った人魚族――この都市の領主ウィンディア・ハイドル伯爵が出てきた。
馬車が少し回って止まり、レムエル達が下りると同時にウィンディアは美しく優雅に一礼した。
「お久しぶりです、レムエル様」
レムエルはそれに軽く手を上げて笑みを作る。
ウィンディアはその笑みにつられて本心からの笑みを作り、続いて出てきたジュリア王妃やメロディーネの目がきらりと光った。
「ウィンディア、久しぶりだね。んー、去年の冬明けぐらいだったからほぼ一年だね」
「そうなります。時が経つのは早いですが、この一年はとても忙しく充実したものでした。これも全てレムエル様のおかげです。アクアスを代表して感謝の言葉を」
二人は軽く握手をし、無事の再会と落ち着いて会えることに喜んだ。
「いやいや、これも皆のおかげだよ。僕一人じゃ、まず立てなかったしね。皆いて、頑張って、諦めなかったから今があるんだ」
「レムエル様らしいお言葉です。後日皆に伝えてもよろしいですか?」
「え? う、うん、いいと思うよ」
そう言われてレッラ達の方を振り向いたが、普通に頷かれたので戸惑いながらも了承した。
スラリといい言葉が出てくるのもレムエルの良い所だろう。
だからこそ異性とのやり取りなどが分からずとも、美しければ綺麗だと素直に口にする。
大人びているが子供のように純粋であると言える。
「アブラム様もお久しぶりです。ジュリア様、メロディーネ様も初めまして。ここ水上都市アクアスを治める領主ウィンディア・ハイドルと申します」
ウィンディアはそれぞれを見た後微笑み、軽く頭を下げた。
アブラム先代国王は軽く手を上げ、二人は少し目を細めた状態で観察していた。
「久しぶりだな。この前は折角登城してくれていたのに会えず申し訳ない。今は完全、とは言えないが見ての通り体調は良くなった。今日明日頼むぞ」
「ええ、お任せください」
二人は気安い仲のようだ。
アブラム先代国王の歳から換算するとウィンディアの推定最低年齢が出てくるが、人魚族はエルフ族ほどではないが長寿なので、人族換算でも二十代だろう。
それに加え歌が得意で、エルフ族と同様に妖艶さのある美しい美貌を持ち、歳をとっても損なわれない神秘さも持つ。
オーシャニス海国では海上で歌声が聞こえたら引きずり込まれる等と言う、人魚族に似たセイレーンのお伽噺がある。
だからと言って敵対しているわけではないが。
「ささやかながらアクアスの名物料理をお作りします。お疲れでしょうし、どうぞ中へお入りください」
「うん、失礼するよ」
「お待ちください、レムエル様!」
と、あの時同様ウィンディアの後に着いて入ろうとするレムエルを慌ててソニヤが追い掛け、今は立場が異なっていると軽く注意する姿に場が柔らかいものへと変わった。
その姿にアブラム先代国王も安堵感を覚え、ジュリア王妃達から聞いているソニヤとレムエルの話を思い出し自然と頬が緩んだ。
アクアスの名物料理は淡水系の魚介類だ。
魚は基本都市の周りにある湖から獲られているが、天然に近いものを得ようと考えるとその水が流れる川に行かなければならない。
途中魔物が出るため危ないが、養魚しているものより味が良く大きいのが特徴だ。
水質も良く、泥臭くて食べられない、寄生虫が住むということもほとんどない。
安全に食べられるというものだ。
「うわぁ~、初めて見る料理ばかりだね」
「魚ばっかりだわ。流石水上都市ね」
子供二人は見慣れない料理に喜びの感想を口にした。
そんな二人をレッラとアンネが窘め、アブラム先代国王とジュリア王妃は微笑ましく眺めていた。
二人も王族らしくないところがあり、家族旅行なのだからこのぐらいがちょうどいいとも言えた。
「レムエル様はあまりここに居られませんでしたから、料理をお出しすることが出来ませんでした。ですが、今回は予め聞いておりましたので、美食家のレムエル様の為に腕を振わせていただきました」
ウィンディアがまるで玩具箱を見るように目をキラキラさせているレムエルに向かって言った。
意外にレムエルは健啖家で、食事改善を真っ先に着手したため美食家とも通っていた。
特にシュヘーゼンの所での話が大きいだろう。
「もしかして、ウィンディアが作ったの?」
その言葉に全員がまさか、といった驚きの顔をしてウィンディアも見た。
いや、アブラム先代国王だけは懐かしそうに微笑んでいる。
見られて気恥ずかしかったのか、頬を少し染めレムエルに向かって微笑みながら言う。
「え、ええ、人魚族は料理が出来なければ一人前ではないのです。以前お話した伝承に倣い、古くから人魚族は好きな相手を手料理を振る舞い落とすことになっているのです」
「へぇ~、人魚族は女性しかいないもんね。ほとんどが海の中に住むし、異性を振り向かせるのに料理は最適かもね」
レムエルは気付いていない。
まあ、ウィンディアの心が何処に向かっているのかはまだ誰もわからないことだ。
一応言っておくが、ウィンディアは結婚していなければ、婚約者などもいない。
それにこの地を誰かに任せようと思えば、任せることができる立場にもいる。
女性だから身を引こうと思えば引けるのだ。
まあ、しないだろうが。
「ねぇ、お母様。レムエルは鈍感なのかしら」
「鈍感ではないと思うわ。ただ、考えてないだけね。素直だから言葉通りの意味でしかとらないのよ。この前の誕生会だってそうだったでしょ?」
「なるほどぉ……。しっかり見張っておかないといけないわね」
「ええ、変な虫が付かないように」
普通は女の子に対して使う言葉なのだが、レムエルに向けて言ってもおかしくなかった。
というよりあっている。
「レムエルは大変だな。ソニヤ、お主も頑張らないとな」
「え!? あ、や、そのですね……」
「何を言っておる。お主は伯爵。十分釣り合っておる。親公認だぞ?」
「そ、そう言われましても……」
「あのダンスだけはこっそり見せてもらったが、お似合いだったではないか」
ソニヤはついに仕留められ、顔を真っ赤にして沈黙してしまった。
こんなことが言えるのはアブラム先代国王とソニヤの間柄と言うのもあるだろうが、この場が気安い場でもあるからだろう。
コトネ達も配備されており、聞かれていてもどうといったことはなかった。
噂になれば結婚させてもいいのだから。
「それではお座りください。レースもそろそろ始まる頃ですから」
ウィンディアは収集を付ける為にもそう促した。
「ソニヤ達はどうするの? 僕としては一緒が良いんだけど……」
こういう時だからこそ一緒に食べたいのだろう。
あれからずっと一緒に食べるということが無いのだ。
アブラム先代国王は顎髭を弄りながら少し考える。
ソニヤ達は断ろうと考えているが命令されれば仕方ない。
逆にジュリア王妃とメロディーネはいろいろな話も聞きたいと思っていたため構わなかった。
それにこれは家族旅行でもあるのだ。
大きく考えればレムエルを代わりに育て上げたソニヤとレッラは家族とも言える。
そこに考えがいき付いたのか、大きく何度か頷きレムエルの頭をくしゃりと撫でた。
「いいだろう。お前達も席に着きなさい」
「「で、ですが……」」
「これだけ料理が置かれているのだ。恐らくウィンはそう考えていたのだろう」
アブラム先代国王が違うか? と訊ねるようにウィンディアを見ると、少し困ったように笑みを浮かべ頷いた。
「と、いうことだ。大体、これを食べなかったら昼食抜きだぞ? 遠慮せずに食べると良い」
「そうだね。国王として命令しておく。一緒に食べよう」
既に椅子に座り満面の笑みを浮かべているレムエルの国王命令に、この一か月間振り回される覚悟を決めたという。
ただ、懐かしさと嬉しさに笑みが浮かび、自然と一緒に過ごしていた時のことが蘇るように思い出された。
料理は大きな鰻を使った甘いタレの蒲焼き、鮎の塩焼き、海老のフライや鶏肉を入れたピリッとした味付けのトマト煮、孤独の森にもいた川蟹、水牛や水鳥の唐揚げに水煮(魔力の籠った天然水で煮て調理する伝統料理)、野菜や穀物等も多彩にある。
レムエル王国では環境の違いから小麦だけでなく米の生産もしている。
特にアクアスは水が豊富にあり、気候も穏やかで米の生産に適切だった。
それに連鎖障害も起きないと有名で、南部ではこの米のおかげで何度も命が救われているため『救世の実』と有難がれていた。
「きゃーっ! 勝ったわ!」
「こーら、大人しく観戦しなさい。口にご飯が付いているわよ」
「あ、恥ずかしい。レムエルは……見てないわね」
どこにでもいるような親子のやり取りをする二人。
「レムエル様も零されないように。あと野菜もお食べ下さい」
「あ、うん。でも、苦いの好きじゃない」
「好き嫌いはいけません。肉と一緒に食べればいいのです」
レムエルもレッラに甲斐甲斐しく世話をされ、アブラム先代国王達とレースに熱を上げている。
「ほほう、これが新しい競技か。面白そうではないか」
レースは撮影用の魔道具――帝国にあるという闘技場に使われている観戦の魔道具と同じ技術――によってレースは撮影されている。
皆が皆見れるわけではなく、都市を一周するような選手をずっと見るにはその映像から見るしかないのだ。
まあ、レムエルのように空を飛べるのなら別だが。
「これはあれだね。暴走族を止めた時にやった玉当て」
レムエルの言う通り映し出されているのはあの時とはやり方が違うが、一定のコースを船尾に的の様なものを設置した船が通り、観客がそれに向かって投げる映像だ。
子供や意地悪い大人は選手に向かって投げ、選手自体もそれほど速度を出していない為怪我をすることが無く、補助に二人いる為楽しそうにしている。
投げているのはカラフルな色の玉で、水に濡れると溶けて無くなっている。
「あの球は水に濡れると溶ける、当たっても弾ける柔らかさの二種類の性質があります。水を汚染するような物でもなく、魚の餌と水に溶ける薬を混ぜたものです」
その辺りはよく考えられているのだろう。
まあ、その後に調査や掃除をするのだろうが、一斉清掃を行えば街の環境づくりにも繋がり一石二鳥かもしれない。
「子供達に人気のようだな。それに船に乗っている奴はウィンにぞっこんだった海人族の小僧ではないか」
どうやら『蒼天大海蛇』のリーダーカイシンのことを知っているようだ。
ウィンディアの友人であるのなら愚痴ぐらいあったのかもしれない。
「ええ、今では街の隅々まで警邏してくれる大事な家臣となっています。レムエル様の説教が効いたのでしょう」
「お前はそんなこともしていたのか? まあなんにせよ、良くやった」
アブラム先代国王に頭をガシガシと撫でられ、気恥ずかしそうにするレムエル。
アブラム先代国王もまた見かねていたのだろうが、王族ということで動けなかったのだ。
レムエルは特殊なので違い、恐らく知り合いが困っていれば普通に手を差し出すだろう。
「あの選手も彼らが担っています。船に魔法を併用し上手く避けるのですよ。提案も彼らがしてくれてますし、以前のことから民も鬱憤が晴らせる様でかなり人気です」
「ははは、あの時は僕も楽しかったからね。皆も同じだね」
当たったら当たったで楽しく爽快で、当たらなければカイシン達の嫌味な顔を見て憤慨する。
それがまた楽しく笑いを誘っているのだ。
通常のレースも行われ、夜が更けた後優勝者には特別にレムエル達と一緒に写真を撮るというサプライズもあったりした。
その日はアクアスの話を聞き、少しだけ体調不良がいないか等の話も出たが、特に変わった様子はないとのこと。
もしかすると本当に強くなっていたり、風邪の様なものや気のせいだったのかもしれない。
何はともあれ、杞憂で済んでいるのなら問題ない。
その夜レムエル達が寝静まった頃。
陰の護衛としてついてきたコトネ達常闇餓狼は警護と同時に、話題に上がった病気の有無について調査することにした。
とはいえ数時間でそんな調査が、しかも夜中に聞き込みなども出来るわけが無く、通信の魔道具を使って王都に情報を得るよう促した。
こういった独断は許可が降ろされており、特に危害がありそうなことは小さなことでも取り除くようにロガンから忠告をされていた。
帝国方面へと行くのだから尚更警戒が必要だったのだ。
だが、そのおかげで現在の王都の様子の情報も入手でき、今まで領地に引っ込んでいた貴族が珍しく王都周辺まで出てきたという。
その結果、コトネ達は経験則からこのお忍びの裏で暗躍、若しくは計画が進められていると察知し、ソニヤとレッラにも密かに連絡することになった。
「相も変わらず陛下は狙われていんすね」
「ふん。賢君ともなれば当たり前だろう。今までがおかしかったのだ」
この口調のコンビは城に忍び込んでいた者達だ。
「コトネは陛下の傍から離れるな。あの方のことだ、何処に行くか分かったものではない。片時も離れるんじゃないぞ」
「わかった」
「手でも繋いでおきなんし」
「おお、それは良い考えだ。任せたぞ」
悪い忍び笑いを浮かべた先輩二人の無茶ぶりのような言葉に、コトネはレムエルの手の感触を思い出したのか開閉を繰り返し顔を真っ赤にさせていた。
普通ならわからないだろうが、夜目や感情を読み取れる彼らには手に取るように分かっていた。
こういうときだけは無駄に能力が高いことに苛立ったりするのだった。
ただ、先輩達はコトネに感情が出始めていい傾向だと思ってもいた。




