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魔法研究所

 チェルエム王国魔法研究所。


 そこでは日々新魔法と国を豊かにするための魔法研究が行われている。

 立ち上げてから一カ月余りが経ち、順調に研究の成果が出始めていた。


 まだ研究所制作費等の出費による赤字が出ているため黒字ではないが、今出ている結果が売れると莫大な金額になると予想されている。


 何も金は売って得るだけではない。

 その魔法によって豊かになり、何かが削減される、育ちが良くなる、人が増える、それらによっても金は増える。

 特に魔法は売るとそこで終わるが、王国が管理して適性者に売り、若しくは取り込み国の魔法使いが施し、伝授費として儲ける方法もある。



 現段階では人数も少ない為、常時人員を募集している。

 募集基準は一定の技術か知識等が必要で、その後面接や実技試験がある。

 既に情報を得ようと密偵が滑り込んできたが、精霊の情報収集能力によって現行犯逮捕され、現在尋問中だ。



 今の研究課題は、

 『集団・合体・合成・融合魔法の研究』

 『歌魔法の研究』

 この二つに絞られている。


 レムエルは花等を使った触媒的な魔法や、生活するための魔法や、現存する魔法の研究もしたいと思っていた。

 だが、人材と費用が嵩張り、片方はフラング国も加わる為いいが、この二つしか間に合わなかった。



 そして、二か月ほどが経った今日、レムエルは研究所の視察に来ていた。


「それでは、先に集団魔法から試させていただきます」

「うん、良いよ」


 この場にいるのはレムエル、魔法師団団長リアムズ、騎士と魔法師団の精鋭が数人、歌魔法に関わることになるメロディーネとアンネ。

 研究所側は研究所主任『デヴィット・キャンベル』だ。

 彼の能力は高く副団長に任命されてもおかしくないのだが、此処に選ばれるだけはあるのか研究一筋だ。

 恐らくマギノア魔法大国ならば革新派に分類される人間だ。


 因みにエルフ族だ。


「手順の説明を先に行い、実際に魔法を見て頂きます。そして、その結果と推測と改良点を話します」


 レムエルはそれに頷く。


「それでは――お前達、開始しろ!」

『はい』


 着ている服は全員白衣で、その下は普通に私服を着ている。

 恐らく雇われた人間だろう。

 まだ来訪者用のカードが存在せず、その制作も行われているのだろうが、今は白衣が来客カードと同じとなっている。


 彼等は右手に補助の杖や魔導書を持ち、返事と共に魔法を発動させる。


「行うのは誰もが使える『火球(ファイアーボール)』です。人数は十人。技量や魔力量等新たに作成した計測の魔道具により事細かく調べ、偏りが無い様にしています。杖や魔導書も多少の誤差はありますが、統一しています。目標は二十メートル先の鉄製の鎧。新人騎士が着る物と同等と思い下さい」


 その間にデヴィットが彼らのことを説明し、平均的な者達が行う集団魔法を見せるようだ。


『――『火球(ファイアーボール)』!』


 集団で放たれた魔法。

 それは一度個人から放出した魔力が周りの者と合わさり、まるで乗算されるかのように巨大な魔力の塊となる。

 そして、魔力は先頭にいた研究職員が纏め上げ、声を揃えて魔法名を口にすると突き出した手から通常よりも高威力の大きな火球が飛んで行った。


「これは、凄まじい」


 初見のリアムズはそう驚きを口にした。

 それは他の魔法師団員と騎士達の心の内も代弁していた。


 レムエルは嬉しそうに頷き、精霊の補助が無くとも使えることに研究が進んでいるのだと満足げだ。



 火球はけたたましい爆音を立てて目標の鎧にあたる。

 離れた位置にいるレムエルの髪を爆風が靡き、焦げた臭いと熱風が肌を撫でる。


 リアムズ達は話にしか聞いていなかったためここまでの威力が出るとは知らず呆気に取られる。


「いいぞ、では次だ!」


 次第にデヴィットが興奮し始め、説明もなしに次へ取り掛かる。


 次に出てきたのは魔法技量に差がありそうな集団だ。


『――『火球(ファイアーボール)』!』


 同様に魔法が放たれ鎧に命中するが、レムエル目線では先ほどと大きく差があることに気付く。


「技量が異なると難しくなり、合わせ難くなる」


 リアムズもすぐに分かった様子だ。


「でも、技量がどの程度か知らないけど周りに引っ張られてるね。まあ、詠唱の時間を合わせないといけないのが問題と言えば問題かな」

「あと、目標へ一気に飛ぶのもだと思います。まあ、集団魔法なので良いでしょうが、高威力すぎるというのも考えようかと」


 逆にそういう意見も飛び、これは使う魔法を考えなければならないと気づく。

 なら、あの時の津波のように地形や広範囲に渡る魔法が好まれるだろう。

 『火球(ファイアーボール)』はそもそも単体魔法で、『小津波(ウォータルウェイブ)』は範囲魔法に分類される。

 その差も集団魔法に関わるだろう。


 その点には気が付いているようで、次に範囲魔法『砂竜巻(サンドストーム)』、続いて広域魔法『激雨(アクアレイン)』、また怪我を負った動物への回復魔法『治癒(ヒール)』や付与魔法『腕強化(アームズ)』による打撃攻撃等様々な魔法が試された。


「見ていただけましたか! 結果、素晴らしい! これほど魔法が興味深いと思える結果はありません! 推測ですが魔力は混じり合う性質を持っているのではないかと思います! 闇魔法に他人の魔力を奪う『魔力吸収(マギドレイン)』で反発し合わないのはおかしい話ですからね! 魔法を発動する時魔力は補助道具を通り放出します! その放出した魔力が合わさり、より強力で均一な魔法となり放たれる! そこに放った技量が存在するのは仕方ありませんが――」

「はい、キャンベル主任そこまででいいです。あとは私が説明します」

「な、何を――」

「はいはい、少し黙っていてください。あ、そう言えば双子が見つかったそうですよ」

「なに!? 後は任せた!」


 まさに嵐の如く怒涛の勢いで話し始めた、興奮して目の前が見えなくなっているデヴィットを何時の間にか現れていた眼鏡が印象的な女性、栗鼠の獣人であろう小柄な研究員が慣れたような言い回しで移動させた。


 その後姿を失礼だと思わず、レムエル達はやはり研究者なのだと納得してしまったという。


「うちの主任が、申し訳ありません。申し遅れました。私は此処の副主任を担っております、フラン・アトワールと申します。この後は私がご案内と説明します」


 栗鼠の獣人、改めフランは軽くお辞儀をした後、大人の笑みを浮かべてレムエルに対応した……が、


「眼鏡ずれてるよ」

「え? あっ、すみません! 私おっちょこちょいみたいで」


 やはり見た目通りの性格なようで、眼鏡がずれ落ちていることに苦笑が広がった。


 フランもデヴィットと同じく個性的な人物だと理解し、同時に研究所の人間は個性的であろうと納得した。

 いや、レムエルはどこか面白そうで、面接をしているのだから知っていて当然と言える。


「こほん。では、先ほどのことから説明させていただきます」


 フランは落ち着きを取り戻し、眼鏡を片手で戻した後話し出す。


「先ほどキャンベル主任が語ったように、集団魔法は見て分かったと思いますが、周りと混じり合いその効果を増します。分かり易く言うと共鳴、魔力や魔法が周囲の同じ魔法と共鳴し、その効果を増幅させていると考えています」


 これがのちに共鳴魔法と考えられる事柄の発端だ。


「ということは同じ魔法じゃないといけないってことね」


 黙っていたメロディーネが目敏くそこに気付く。

 リアムズも同様に気付いていたようで頷き、騎士達は気付いたとばかりに大きく頷いた。


「共鳴というのは音の増幅だからね、魔力が合わさることで大きくなる。僕としては同調でもいいと思うけど、威力が上がるから共鳴で良いと思うよ」


 レムエル達は何となくわかっているようだが、疎いメロディーネ達はよく分からなかったようだ。


「レムエル、どう違うの?」


 メロディーネは公式でなければ、普通に弟として接する。

 周りの者もそこに関してはどちらも成人しておらず、大目に見ているところがあった。


「共鳴というのは音や振動が重なり合って増幅することを言うんだ。原理はよくわからないけど、一人で喋るより、皆で喋った方が煩いのに似てると思う」

「先ほどの魔法の爆破音も似たようなものですな」

「そうだね。で、同調っていうのは、有体に言うと合わせることだよね。例えばメロディーネ姉上と僕が一緒の行動をするとかね」


 レムエルはメロディーネの手を取り、同じ動作をさせる。

 少し頬を染めたメロディーネだが、なんとなく違いが分かった。


「よ、良くわかったわ。でも、レムエル」

「何?」

「女性の手を殿方がいきなり触ってはいけないわ。特にあなたは国王なのよ? 勘違いさせることになるわ」

「ご、ごめんなさい! 次から気を付けるよ」


 どこの馬とも知れない女性を近づけさせない、うっとりとさせる容姿、気安く接されると勘違いするといろいろと含まれていそうだが、レムエルは額縁通りに受け取り謝る。

 頭を下げるがこればっかりは姉と弟だといえ、許容範囲内だった。


「ほわわ~! お似合いですね」

「いや、二人は御姉弟であられるからな。フラン殿が思われているようなことにはならないと思うぞ」

「は! そ、そうですよね~、あ、あはは」


 こちらもこちらでお約束事をこなしたようだ。


「じゃ、共鳴魔法についての研究を行おうか。勿論、集団魔法の纏めを提出した後にね」

「はい、皆に伝えておきます」


 提出された魔法について議論が行われ、その後レムエルが認可することで大々的に発表される。

 全てがそうではないが、そうなるという予定だ。




 引き続き合体魔法、合成魔法の実験を眼にし、フランから説明をしてもらう。


「合体・合成魔法は結果から申しますと失敗ですね」


 合体・合成魔法は二種類以上の魔法を組み合わせることを言う。

 だが、火と水の様に相克を起こす魔法や、火と風の様に増幅する魔法が存在し、合体させるのは難しいという見解になった。

 では、火魔法の二種類――『火球(ファイアーボール)』と『火矢(ファイアーアロー)』を組み合わせればいいのでは、そう考えもしたが、混じり合い爆発する結果となった。


「恐らくですが、組み合わせによるのだと思います。分かり易く例を出すと、『火球(ファイアーボル)』と『火球(ファイアーボル)』、『火竜巻(ファイアートルネード)』と『風竜巻(エアトルネード)』のように同じ魔法か同じ系統だった場合、集団魔法に近い効果も生み、合わさり力が増幅します」

「失敗ではないけど成功でもないってことね。……共鳴魔法が関わってるのかな」


 レムエルの言葉にフランは頷く。


「それは回復方面でも同じことが言えるのか?」


 リアムズは少し考えた後そう訊ねた。

 周りの者も少し気になるようで、もしそうならば節約になると考えた。


「すみませんが、そちらに関してはまだ試しておりません」

「さら、仕方ないか。結果がでたら教えてくれ。勿論失敗でもな」

「分かりました」


 まあ、どちらも組み合わせで威力が増すとわかっただけでもいいだろう。

 一つの事柄に没頭し過ぎる時間もないのだ。

 新たな発見を見つければそちらに目を移し。サッと研究を乗り換えなければ現在人手不足で進まない。


「じゃ、治療ギルドの方にも手伝ってもらって研究を進めてね。あと、もし使えたとしても箝口令を敷く。理由は分かってるね」

「はい」


 言わずともマギノア魔法大国のことだ。

 この一件が片付くまでは研究結果を大々的に発表できないのだ。


 不可侵である魔法大国が攻めて来るとは考えられないが、何でも万が一はある。

 あちらから接触してくるまではこちらから関わることはしない方針だ。


「最後に融合魔法は先ほど申しました通り、ある程度の魔法が使える双子を発見したばかりで、親の許可を得た後面接と契約を行い、実験を始めていこうともいます」


 融合魔法に関しては攻撃だけでなく、様々な面で使えることがシュティーとショティーの協力で分かっていた。

 ただ、きちんとした研究は行っておらず、二人の身分は王子なので、新たな双子が見つかるまで頓挫していた。


「僕も面接しておこう。融合魔法はかなり強力だからね。少し優遇してでも国に所属してもらわないといけない」


 あの時の融合魔法で分かるだろうが、かなり強力な魔法だ。

 この情報は厳しい箝口令が敷かれており、国内にいる双子を調査し、多少の優遇処置を取って国に所属してくれないか話を通しているところだ。

 勿論無理やりやるということはなく、親と本人の許可を経て、双方が損をしない契約を交し、労働力を奪うため税金の免除などもされる。


 ただ、双子だから絶対融合魔法が使えるということはなく、使えると更に待遇が良くなる。

 第二の腐敗者を出さない為に、同時に厳しい規律を持たせることも決定している。


 強ければトップに立てるというのはチェルエム王国では古い考えで、トップでも臨機応変且つ品行方正でなければ努められないよう定めた。

 そして、投票に近い推薦式を取り、認可はレムエルだが、それまでに軍部で決め、貴族会議の場で話し合うことになっている。


 当然反発が起きたが、現在レムエル達に頭が上がらない者が多く、試験的に腐敗しない方法で人事を決めていくことになっていた。






 次はメロディーネのお待ちかね、歌魔法についての研究場所だ。


 メロディーネは音楽が好きで、率先して歌魔法について加わりたいと申して来た。

 フラング国との花のことについてもジュリア王妃と共に進めており、そちらの方面で女性の地位向上を行う。


 これに関しては男性には理解が及ばず、女性に対して眉を細める者もいるが、ではあなたがやってくれと言われても困る為、道楽に近い部分もありそこまでの反発はない。

 結果もすでに出てきているため、フラング国との関係強化のためにも女性差別は禁止されていた。


「では、私はこれで。あとは任せました、カーベルニコフ主任」

「その肩書きは慣れませんね。アトワール副主任」

「あはは、私もですよ」


 そう笑い、フランはレムエル達にお辞儀をした後、眼鏡がずれ落ちずっこけるというお約束をこなし、レムエルに助けてもらいメロディーネが機嫌を損ねるというお約束までこなし立ち去った。


「出来る子なんですが、アトワール副主任のおっちょこちょいは治りませんね」


 その後姿に苦笑して呟いたカーベルニコフ主任――水色髪の男性、フラング国が推す歌の貴公子リングリット――はレムエル達の方へ向き直り、爽やかな笑みでお辞儀をした。


「お久しぶりです、レムエル陛下」

「うん、ひと月ぶりぐらいだね。元気で何よりだよ。もし怪我や病気にかかってたら申し訳ないからね」


 レムエルもそれに倣って笑みを作り、メロディーネ達女性から見ると目の保養に良い空間だった。

 ただ、綺麗過ぎる人間が二人というのはきつい所があるのも確かで、二人の雰囲気が違い、レムエルが子供なのが幸いだ。


「ええ、その辺りは良くして頂いているので大丈夫かと。それに我が国もそこまでは言いませんよ」


 過剰ともいえるレムエルの言葉に、リングレットは身を案じてくれているのだと分かっているため苦笑する。


「僕が呼んだんだけど、まさかあのまま残ってくれるとは思わなかったし、ムスタフも了承するとは思わなかった」

「いえいえ、ファムリア共々あの話を聞いてすぐに願いました。私は貴族ですが、領地を持たない流浪貴族ですからね。帰れば今回の結果によって褒賞も出すそうで」


 リングリットは口元に手を当てて優雅に笑う。


 そうなのだ。

 花の専門家ファムリアと音楽の専門家リングレットは、あの会談の後ムスタフに直談判し、そのまま居残って研究を行っていた。


 勿論ムスタフは一度帰ってから王の裁量の下と思ったが、自分も孫であるレムエルの発想はすぐに形にした方がいいと判断し、越権かもしれないが二人を最低限チェルエム王国と契約した後飛ぶ様に帰った。

 その後ムスタフは王から正式な命令書を貰い、二人を親善大使のような扱いにすることでチェルエム王国との懸け橋となった。

 帰ればリングレットにもファムリアにもその功績を讃える褒賞が出る。


「ファムリアも頑張っていますから、新たな発見もあるようで後程よろしくお願いします」

「うん、用件が終わったら行くつもりだよ」


 二人を受け入れた本人でもあるため面倒を見るのは当然だと思っているレムエル。

 ただ、国王自らという点で恐縮物なのだが、その点はレムエルのオーラというべきか恐縮するというよりそういうもので受け入れるといった感じで取られる。




「姉上、こちらが現在進めている歌魔法の主任でリングリット・カーベルニコフ。知っていると思うけど、フラング国の伯爵だよ。で、こちらが僕の姉である第四王女メロディーネ・シルクス・チェルエムだよ」

「紹介に与りました、リングリットと申します。フラング国の王より伯爵位を承り、現在ここで歌魔法研究の主任を務めております。メロディーネ様には歌がお好きだと聞き及びますので、よろしくお願いいたします」

「ええ、私もレムエルより貴方のことを聞いているわ。両国が作り出したと胸の晴れる物を作りましょう」


 まずは紹介ということで、レムエル自らが二人をそれぞれ紹介する。

 二人もいろいろと気があったようでつつがなく終了する。


「既に話してるけど、姉上には歌魔法研究の室長とでも言うのかな。まあ、僕が言うこと以外は好きなようにしていいよ。ただ、報告だけはよろしくね。マギノア魔法大国とのことがあるからさ」

「ええ、心得ております。――それでは、まずこの日の為に作り上げた曲をお聞きいただきたいと思います。曲名を『静かなる安らぎの旋律』、効果は治癒力が高まります」




 レムエル達は防音されている研究室の中へ入り、楽器を手に練習を重ねていた楽団兼研究員に手を翳す。

 彼らも音楽ギルドと婦人ギルドの推薦を経て、国の面接を合格した者達で、今日のために練習を重ねてきた。


 レムエル達が入ると軽い説明があり、時間も押しているということですぐにリングリットの指揮のもと演奏が始まった。


 曲は名前の通り心に留まる温かくも安らぎを得られる曲で、歌い手もゆっくりと相手に語り掛け傷付いた身体を心配しているようだ。


 楽器の種類は人数もいない為十個程度。

 曲は三分程度だが、それでもレムエル達を心身共に癒した。


「これが歌魔法ですか……。確かにこれは今までの魔法とは異なる系統ですな。危惧されるのもわかります」


 リアムズは曲に浸りながら呟いた。


「一応このことはカロンに伝えようと思ってる。カロンも知らないことだからね」

「その方が宜しいでしょう。ですが帝国といい、創神教といい、頭の痛い事ばかりで」


 一応の決着がついた創神教はまだいいが、帝国の件は頭を悩ませることばかりだ。

 今でも帝国の間者を捕まえたという報告が入ったり、貴族への拷問による取り調べが行われているのだ。


「やっぱり音楽は偉大ね。……レムエルと歌える曲も作っておこうかしら」

「何か言った?」

「レムエルも歌いましょうと言ったのよ。王様だからないと思うけど、一つぐらいは楽器とか弾けた方がいいと思うの」


 それにはレムエルも常々思っており、歌魔法の第一人者が楽器一つ扱えないというのは反対意見が出た時の餌になりかねないとロガンから言われていた。

 光の大精霊がいるにはいるが、あれはまた歌魔法とは別ものだ。

 直接脳内に響かせるものなのだろう。


「時間が取れたら練習するよ。一応ピアノは弾けるし、後は練習するだけだからね」

「大きなピアノを注文しようかな? バイオリンとかが一番かっこいいと思うけど、ピアノも楽器の中では有名よね。レムエルにも似合いそうだし」


 確かにバイオリンは貴族の中では嗜む者が多い。

 理由はいくつかあるが、見た目や音だろう。


 まあ、どの楽器でも構わないが、それがステータスになるのは変わらない。

 特にフラング国では顕著だ。


 そして、ピアノもかなり人気だが、やはり高価で手入れが難しいというのもある。

 ただ、弾ければバイオリンと同じくらい注目を浴びることになるだろう。




「結果は分かると思いますが、この曲は癒しです。この曲を聞いている者は確かに治癒力が高まります。使うとすると治療院でしょう」

「魔法観点から言いますと、確かに魔法の効果が出ています。曲の正確さ、歌い手との一致、思いの強さや込められた歌詞、全てがこの歌魔法に関わるのだと思います」


 演奏が終わり、リングリットが纏め、魔法使いの研究員が魔法としての要点を纏めた。


「リアムズ。僕はこれを大規模戦闘や魔物掃討等での士気向上、怪我をした者達への癒し、式典とかでも使いたいと思う」

「その意見には賛成です。これほど素晴らしい魔法はないでしょう。ただ、まだ魔法としての効果は低いと言えます。それに相手にも効果が現れるのではないですかな?」


 レムエルも深く頷き、そこが問題だと顔を顰める。


「一応魔法だから対象者を絞れるとは思う。楽器もそれ用に改良した方が良いね」

「そこは私がするわ! こんなに素晴らしい物は無いもの! 可愛い弟の為に一肌でも二肌でも脱いであげるわ!」


 そう拳を強く固め宣言する、背後に燃え上がる炎が見えるメロディーネ。


「メロディーネ様……」


 その姿をずっと黙ってみていたアンネが嘆くように呟いた。


 レムエルが関わるとこうまで素が出てくるメロディーネは、ここ最近おてんば姫といった感じで通っていた。

 だが、それは意外に好評で、二人とも容姿が優れているため国民からも絶大な人気を誇っている。


 レムエルの生い立ちや先の内乱等、レムエルに関わることは全て歌や本になり、メロディーネとレムエルの禁断恋愛話も裏で囁かれているとかないとか……。




「このまま研究を進めてほしい。便宜上歌魔法は調和魔法に分類することにする。歌は一人じゃないし、音だけってのもありだしね」


 口々に感想を言い合い出てきた案をリングリット達が書き留める中、時期を見てレムエルが締め括った。


「調和……纏まりや釣り合いですな。確かに楽器と歌と歌詞と音、他にも魔力や気持ちや声と様々な物を調和させる。陛下の仰る通り、調和魔法でよろしいかと」

『異議なし!』


 リアムズの言葉に皆が賛成し、新魔法系統・調和魔法が初めて誕生することになった。


 この魔法はすぐに研究が広げられ、歌だけでなく音楽のみ、踊りの追加、攻撃曲、リズム魔法等様々な物が編み出されていくことになる。


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