表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/76

第五話

良いのか分からないですが、サブタイトルを考えなくていいと楽です。

「すまない。先ほどギルドに換金しに来た二人で間違いないな?」

「久しぶりだな、ゾディック」

「なっ!? お前は! ああー、いや、お前なら納得だ。とりあえずついて来てくれるか?」

「良いだろう。レム君も付いてくるんだぞ」


 話しかけて来た厳つい声の主冒険者ギルドのマスターゾディックは、話しかけた相手が思いもよらない人物だったためド肝を抜かれた。

 レムエルは怖い人だなぁ、と思いソニヤの背後に隠れたが、ソニヤは久しぶりに会う友人にニヤリと悪戯が成功したような笑みを浮かべて相対した。


「姉さん、この怖い人誰なの? バダックに似ている気がするけど……」

「こ、怖い人だと……。それにバダックだと……?」

「あはは、この怖い人は冒険者ギルドのマスターゾディックだ。意外と繊細な趣味だからレム君と気が合うかもしれんぞ。お互いのことは後にしよう。まずは静かなところに連れて行ってくれ」

「その方が良いみたいだな。行先は変更だ。行きつけの喫茶店にしよう」


 バダックより少し若く背の高い厳ついおっさんが行きつけの喫茶店というと、何やら密輸現場に行くような気がしてとても怖く感じる。

 これでサングラスでもかけていると……ヤクザ以上だ。




 連れて行かれた場所は予想に反してとても落ち着いた小奇麗な場所だった。

 レムエルとソニヤならこの店の雰囲気に合うだろうが、ゾディックは圧倒的に異分子に見える。というより、逆にいることで店に不利益を与えているのではないだろうか。


「マスター、いつものを頼む。お前達も好きなのを頼むといい」

「ん?」


 いつもので分かるほど生き慣れているゾディックの対応によく分からないと首を傾げるレムエルに、ソニヤが簡単に説明する。


「ここは喫茶店と呼ばれる寛ぐところだ。宿屋や食事処と違い飲み物や会話、お菓子などを味わえる。始めて来ただろうから私が頼もう。レム君は甘い物が好きだよな?」

「うん、大好きだよ。でも、甘すぎるのはちょっと……」


 二人の会話にゾディックは姉弟なのかと真剣に悩むが、日々多くの冒険者を見て目を養っているにもかかわらずレムエルのことが分からなかった。

 報告をしてくれたベジュネに感謝し、レムエルに対して興味を持った。

 と同時に、自分の判断がこれから何かを運命付けると睨んだ。


「では、私と同じショートケーキにしよう。――マスター、ジュースとショートケーキ二つずつ」

「はい、ショートケーキ二つ、季節ジュース二つ、裏メニュージャンボパフェを一つですね? かしこまりました」


 上二つはいいが、ジャンボパフェというのは……。しかもこんな厳ついおっさんが……。

 胸やけが数倍は起こると思うのだが……それを見ることになる二人は大丈夫だろうか。


 少しして注文の料理が届き、ゾディックが一口含みながら訪ねて来た。


「で、お前は今までどこにいたんだ? 冒険者になって名を馳せたかと思ったらいつの間にか騎士になっていたし、今回もふらっと消えてふらっと現れやがって。探したんだぞ? あと、そっちの少年は誰だ? 一般人には見えねえが……何も解らんぞ?」


 分かるではなく、理解そのものが出来ない解るの方だ。

 ソニヤは笑みを深くしてレムエルに頼みごとをする。


「レム君、結界を張って音が漏れないように。あと、認識阻害も頼む」

「ん? まあ、そのぐらいならいいかな。……『遮音』『阻害』」


 レムエルが二単語喋ると共に三人の周りをぼんやりと魔法の結界が作られた。

 その速さと正確さに感嘆の声を漏らし、何でもないかのように詠唱破棄で挙動一つなく発動させる技量に呆れた。


 魔法は基本的にイメージ力が必要となり、二つの魔法はそれほど難易度は高くないがこれほどの技量となるとそれなりにあるとわかり、詠唱破棄を気軽に使えるとなると注意人物に入るかもしれないと感じた。


「ありがとう。――で、どこから説明するか……」

「まずお前のことを話してくれ。十数年間もどこをほっつき回っていたんだ?」


 スプーンを口に入れたまま聞いてきた。


「あなたのことを信用して言うが、今から話すことは全て真実であり、これからの国の行く末を決める国家機密よりも重大な物だ。それを踏まえたうえで訪ねるが、ゾディックはそれを聞く勇気があるか?」


 睨むような目を向けるソニヤはゾディックに威圧を放ちながら、首を突っ込む勇気がないのなら何も話すことはないと言外に言った。

 ゾディックはごくりと喉を鳴らし、スプーンを口から離してすでに半分ほどなくなっているパフェに突き刺した。

 レムエルは初めて食べるケーキにご執心であり、甘味に頬を緩めている。

 こういうところは生まれ持って王族なのだろう。

 まあ、話は聞いているようだしいいだろう。


「……いいだろう。ここで聞いたことは誰にも話さん。だから話してくれ」


 ゾディックも真剣な目を向け正面からソニヤの目を見続ける。

 暫くしてレムエルがソニヤの方を向くと場の空気が緩くなり、レムエルが頷くと同時にソニヤは口を開いた。


「わかった、話そう。まず私は国王様の命により約十二年前からとある任務に就いている」

「今もということは、隣の少年に関わることか?」


 十二歳ほどの少年だと判断したゾディックは、レムエルにスプーンを向けた。

 完全に不敬だが、王族としての知識はあっても威厳やプライドの無いレムエルは処罰すら与えないだろう。

 レムエル自身が未だに王族かどうか怪しんでいる節もある。


「はっきり言おう。ゾディック、不敬だぞ?」

「不敬? それほどの身分の方なのか? お前の弟ではないのか?」

「ええ。こちらに居られる方は第八王子レムエル殿下であられる。今あなたがしているのは大変不敬だ」

「はあ!? だ、第八王子!? い、いつお生まれになったんだ? どこにいた? なぜ隠してある? なぜ今出て来たんだ? そして、何をする気だ?」


 矢継ぎ早に言うゾディックに驚き、ソニヤの腕を強く握るレムエルの頭を優しく撫で、キッと睨みつけた。

 混乱と驚愕で狼狽していたゾディックは睨まれたことで落ち着きを取り戻し、改めてレムエルのことをまじまじと確認する。が、これも不敬だろう。

 レムエルは自分が王族なのだと再認識するが、こうまじまじ見られることに慣れていない為、恥ずかしくなりソニヤの腕にギュッと力を入れ俯いてしまった。

 使える主の可愛らしさと頼られることに喜びが噴き出そうになるのを抑え、レムエルを庇いながら続きを話していく。


「まず、殿下は十二年前の冬にお生まれになった。だが、その出生は伏せられるどころか国王様の命により死亡扱いとなった」

「どういうことだ? 当時何か起きた……そういえば、バダックやカロンもその年に止めていたな。だが、それは歳と新たな者が出て来たためだろう?」

「あなたはそれが本当の理由だと思っているのか?」


 普通に考えればおかしいのだろうが、不正や蹴落としが横行している現在の上層部ではおかしくないことだったのだ。

 訝しむ者がいたとしても全てに思惑があり、証拠を掴んだとしても逆に陥れられ身を滅ぼしかねなかった、そのために何が起きたとしても首を突っ込もうとしないのが今の在り方だ。


「いや、まあ俺もおかしいとは思ったさ。だが、その時には俺はもう王都のギルドにいなかったからな。詳しい事情が分からなかったんだ。そういうこともあるかと流したんだが……違うようだな」


 ソニヤの様子に気が付くゾディックは最後に一口を食べ、カランと高い音を奏でて台の隅に器を置く。

 それと交換してマスターに飲み物を頼んでいた。


「ええ。殿下の出生が公表されなかったのは国王様の命による面が一番強い。レムエル殿下には既に了承してもらっているが、殿下にはこれから国を変えるための旗頭となってもらう予定だ。これが私達が姿を消した理由でもある」

「殿下にはそれが出来るというのか? 失礼だが、そのように見えない」


 ソニヤとゾディックは食べ終わり満足しているレムエルを見ると、レムエルは静かに目を閉じ精霊の力を使う。

 どうやら精霊の力というのは英雄システムに関係しているようだ。

 恐らく、魂をいくつも繋ぎ合わせた結果かその魂の中に精霊使いや精霊の王等といった物がいたのだろう。その結果、王の風格・王の威厳・王の素質というべきものが発動し、眼に『竜眼』が出るのだろう。


「そ、その目は……!」

「やっぱりこの目は王族の目なんだね。僕自身あまりその実感がないんだけど……」

「殿下。どう考えても今の殿下は王族にしか見えません。威厳は……残念ながらありませんが、他者を従わせる風格を持っておられます。それに殿下の金の髪と白い筋は王族の証でもあります。二つを同時に持たれた王族の方は歴史上数人しか確認されていませんよ? もう少し自信を持ってください」


 ソニヤな長い進言に少し嫌そうに眉を垂らすレムエルに困惑するゾディック。

 王族に見えない王族というのは珍しく、更に王族の風格と条件を兼ね備えたのにもかかわらず、王族に見えないというのは珍しいどころではない。

 だが、その雰囲気が逆に王族だと思わせる要因ともなる。


「まあ、ゾディック……さん? 僕は第八王子レムエルという。まだ実感はないけど、民を救い、国を直し、膿を取り去るために頑張ろうとしているんだ」


 自信なさげに言うレムエルに何と答えるべきか戸惑うゾディックに苦笑するのはソニヤだ。


「私達は出産から共にいたので間違いない。数年前までは御母上も一緒に居られたのだからな。それで理由だが、殿下が仰られたようにこの国を変えるために行動することが国王様の命となる。正しくは、殿下を今の王族のような状態にせず、立派な跡取りとして育てたうえで国に巣食う膿を取り去り、民を背負った正当な王とせよ、というのがそうだ」


 他の王子達でもよかっただろうが、その王子達の母親が駄目だったり、その派閥が出来上がったためにレムエルとなった。

 レムエルの母親は身分が低いとも言われており、体も弱かったために派閥というものが出来なかった。

 そもそも、上に七人もいれば八人目が王になるとは誰も思えない。


「…………はぁ。聞きたくなたっかなぁ」


 現実逃避気味にそう零すゾディックだが、その目は既に決意に染まっている。


「いいだろう。協力してやる。どうせ、お前は俺に協力してほしかったのだろう?」

「ええ、あなたにしか頼めないことが多くあるからな。殿下には味方が多ければ多いほど良い。それに力づくで国を変えようと思えばできるのだから、味方に付いていたほうが後々いい思いが出来るぞ」


 ソニヤがそんなことを言うが、多分二人いればできるのだろう。

 ソニヤ一人で小規模な街一つを落とせるため、王都を落とすことは無理だとしても城に侵入できれば落とすことはできるだろう。

 まあ、国王が目標ではない為少々困難だが、そこに王族であるレムエルが精霊の力と『竜眼』を持って現れた場合混乱は必須であり、王位継承がレムエルになる確率が相当高いというのが予想だ。

 精霊の力というのは村を出発する前のことで分かっただろうがかなり強い。

 魔法のスケールを大きくした物と言ったが、正しい言い方ならばほぼ違う上位版、古代方式、精霊魔法と人工魔法といったところだ。

 世界の創造たる精霊を人が超えることは出来ず、超えるには神になるしかないだろう。

 だがそれをすれば神の怒りを買い、過去と同じように数万年間も氷で閉ざされるだろう。


「そうかもしれんな。基本的にクーデターには要請がない限り冒険者は参加しないからな。それにクーデターが起きるときは大概冒険者もクーデターを起こす側だからな」


 政府や国に対するクーデターということは民衆が起こすことになり、民衆と同じ立場である冒険者も同じ気持ちであることが多いのだ。

 例外ならば一部の団体のクーデターだろう。


「殿下にはこれから名を広めてもらうことになるだろう。そのために伯父の元へ向かい、各地で困窮しているところを回ったりする。まだ情報も集まっていないし、計画という計画が出来ていないから机上の空論だがな」

「終結はどうなる? 殿下が国王になるのは分かったが、どのような形で終わらせるのだ? 王族を殺すのか?」

「いえ、僕は誰も殺さないよ。向かって来るのなら仕方ないけど、基本的には殺さない。聞いた話では王族は操られている傀儡っていうんだっけ? みたいだから捕まえて牢屋にでも入れておけばいい。終わった後に話し合って、どうするか決める」


 黙っていたレムエルが自分のやり方を語る。

 それを聞いたゾディアックは甘いと言いたく厳しく重ねる。


「ですが、それでは民は納得しません。処刑――目に見える形で償わせれば別でしょうが、それでは殿下に怒りが向かう可能性があります。統治する際にも折角支持を得られたのにもかかわらず亀裂が入りかねません。王子が今まで苦労されたのでしょうが、私同様多くの者がその苦労を知らないのです。もしかすると家族の情で罰を与えなかったといわれても仕方がありませんよ?」

「ゾディック、言いすぎだ。殿下がしっかり考えられておられる」


 ソニヤとゾディックがレムエルを見る。

 レムエルは少し考える仕草をした後に一つ頷き考えをまとめた。


「確かに許さないと思う。だから、それなりの償いをさせる。母上が死んで気付いたけど、死んだら悲しいんだ。死んだ後にこれをして喜ばせたかった、あれもしてあげたかった、一緒にいてあげたかったと思うんだ。とても悲しくなるんだよ」


 ソニヤはその時のことを鮮明に覚えている。


 最後まで寄り添う二人。

 子のために命を捨てる覚悟で傍にずっといた母親。

 苦しいのに子の前では何も言わずに微笑みを絶やさない母親。

 息子はそれに応えようと毎日必死に生き、弱音を吐くと気が合っても母親の前では一切吐かなかった。


 それらを毎日見ていたソニヤは悲しくなるが、レムエルが悲しまないのでグッと抑える。

 ゾディックも何やら感じ取り、少しだけしんみりとした空気となった。


「処刑するのも同じだと思うんだ」

「処刑が母を亡くす悲しみと同じ、というのですか?」


 二人は驚きに目を張る。


「そうだよ。確かに目に見える形で償わせれば国民は怒りを収めると思う。でもそれって向ける矛先がなくなるからだよね? 復讐相手がいなくなるから怒りを収めるのは分かる。だけど、それじゃあ解決したことにはならないんだよ。家族、恋人、知人を亡くした人は本当に悲しみから救われたの? 母上と一緒で帰ってこないよ? だけどさ、その悲しみを救わなければ本当の意味では救われないんだ。意味は違うだろうけどね」


 先ほどよりも静かになったと感じる喫茶店内。

 二人は目を閉じ、レムエルの言葉を何度も反芻させる。

 レムエルが言ったことを短く纏めれば悲しみの連鎖を断ち切るにはしっかりとした償わせ方をしなければならないということだ。

 ただ、それはかなり難しいことでもある。

 もっと進んでいるのならいいだろうが、この世界では処刑が一般的な処罰の方法なためそれ以外で償わせるとなると難しいのだ。


「殿下、一つだけ聞かせてください」

「なに?」

「殿下は一体どのような償いならば国民が許すと考えておられるのですか?」


 ゾディックはこの返答に協力するか否か賭けた。

 満足する回答が得られれば全面的に危ない橋を渡ろうが、命を捧げる覚悟で個人だとはいえ協力すると使うだろう。


 レムエルは少しも開けずに答える。


「国民が許すかどうかは僕にもわからないよ」


 そう苦笑して答えた。


「だけどね、ゾディックさんがもし愛する人を殺されて、その犯人が王族だとして処刑するだけで許せる? まず、王族だから処刑にならないだろうね。もし処刑になっても……僕は許せないと思うよ。僕は一般の王族とは違って僕を愛してくれる人ばかりの元で育ったし、此処にいる人とも違うとても平和な十数年間を過ごした。だから、僕の目は第三者から見ているのかもしれない」


 それで「ああ……」と納得する二人。

 王宮ならば悪意と思惑に満ち、それらを回避し、時に自らも使いながら暮らす。

 市井の中ならば苦しみと上からの重圧に耐え凌ぎながら、時に命をすり減らしながら生きなければならない。

 だが、レムエルの場合名も無き村という外界から隔離されたような小さな国と呼べる、自給自足できる平和な国で育ったのだ。それならば、処刑というのが最も忌避され、搾取や復讐が許せないのだろう。


「だから、まだ一日もいない僕の目から見るとこの町はとても違和感があるんだ。嫌なのに従ってるのは上が言うのだから仕方がないのは分かるけど、意欲がないのは違うよね? 厳しい言い方になるけど、僕の村なら全く関係ないね」

「殿下、そうはいかないのです。民には民の生き方があり、此処を出て生きれなければ意味がないのですよ」

「分かってるって。僕はただそう思うだけ。貴族が相手だからって一致団結すれば倒せたんじゃないの? 本当に嫌ならそうしなきゃ。それは殺されることかもしれないけど、それ、困るのは貴族の方だよ? 先が見えているのなら和解するか、改善するか、話し合いをすると思うけど……意味分かる?」


 レムエルは話している内に自分が言っているのが二人に通じているのか疑問になってきたのだろう。

 なんせ二人はポカーンと口を半開きにしてレムエルを見ているのだから。


「ああー、殿下は何とも先進的な考え方をしますね。忠告しますが、その考え方は危ないですよ? 先進的な考え方は時にして理解しがたいものです」

「そうです。凝り固まった貴族の頭には荷が重いでしょう。逆に国民の場合はそもそも貴族の考え方が分かりませんから賛同してくれるでしょうけど。……殿下は国民を失った、この場合クーデターを起こした領民を失えば領主自身が首を絞めることになる、ということでいいのですよね?」


 ゾディックが少し考えて先にレムエルの考えを口にした。

 レムエルは共感してくれたのか、と喜び大きく頷いた。


「その考え方が人と違うから正しいかはこれからにかかっているのだと思う。でも、それは僕が一貴族だったり、一王族だった場合だけ。僕が王に就いたら少しずつ変えていけばいい。王なら法律を弄ることが出来るんでしょ? 貴族の賛成がいるんだろうけど、少しでも考える頭があれば賛成してくれるはずだよね。だって、自分が抱えている領民にクーデターを起こされて取り分が減るのは困るもの。今の貴族のことをはっきり言うと何も考えていないんだろうね」


 こういう時にズバッというのがレムエルの良いことだろう。

 人とふれあいがなかったためズバッと言ってしまうだろう。

 普段は気弱だが、今は王者の風格のでる『竜眼』を使っているのもその考え方を強くしているのかもしれない。

 国の実情を見て腹も立っているのだろう。


「で、ゾディックさんの問いの答えになるけど、僕は民のために行動させるのが良いと思うんだ。今は情報を得ていないから、今持っている情報だけだと王族を処刑することが出来ないと思う。争いの種を作っているのだろうけど、それだけで処刑にはならないし、相手は王族だから処刑にするのは外聞も悪い。国を落としかねないのなら処刑しかないだろうけどね」

「確かにそうですね。今の情報だけでは処刑は無理でしょう。もしかすると無罪になる確率もあります」

「だよね。だからさ、まずは情報を得て罪状を作り上げる。その罪状によって民に奉仕させるんだ」

「どのようにですか? それこそ難しいですし、民は納得しないかもしれませんよ?」


 ゾディックが唇を濡らして訊ねる。

 レムエルもジュースの甘さを口いっぱいに広げ、口元を綻ばせて言う。


「さっきも言ったけど国民は処刑しても納得しないよ。無罰でも、普通の罰でもないから許すだけ。内心悲しみで満ちている。それを晴らすには相手が改心していると納得することとそれを償おうとしている姿勢を見せることのみ。頭下げただけじゃあ許せないけど、何年もかけて国のために尽くせばまだ許せる」

「では、処刑はあり得ないと?」

「いや、処刑もするよ? ただ、今よりは緩くするつもり。まあ、王になった時に国民が死に過ぎていたらこっちが困るというのもあるけどね。繁栄させるには人が必要なんだ」


 レムエルは先を見越していろいろと考えているようだ。

 確かに今は物凄く国民が減っているだろう。

 国を支えるのは貴族かもしれないが、国民は貴族がいなくとも生きることが出来るのだ。

 そこを知らない貴族達が今の惨状を作り上げたのかもしれない。


「結果を言うと僕は国民の味方で、国民が豊かになることを第一に考える。そのために王になると決心したんだもん。もう母上を亡くすような悲しみを味わいたくないんだ。……だから、僕はあまり人を死なさずに王となり、今までの間犯罪に手を染めていた物にはより一層国と国民のために汗を流してもらう。例えそれが力づくであろうともね」

「力づく、ですか? 反乱がありそうですよ?」

「ははは、それは言葉の綾だよ。……でもないか」

「殿下!?」

「だって、証拠を集めて『さあ捕まえましょう』と捕まえに行って『はい、悪いのは私です、捕まりましょう』とはならないでしょう? どちらかというと『何をする!? 私を誰だと思っている! 私は何もしていない!』と言われて武力抗争になるのが目に見えてる」


 ソニヤはレムエルの考え方を初めて知ったが、少しだけ教育を間違えたのかと頭を悩ませるが、それは決して間違った考え方ではなく、今の現状と比べると国民に対してはとてもいいものだろう。

 国民のためというのが強いため貴族と多少反発があるかもしれないが、そこは側近であるソニヤ達がどうにかしないといけないところだ。


「ゾディックさん。償いを簡単に言うと魔力で償ってもらうことが挙げられるね」

「魔力をどう使うというのですか?」


 ソニヤはなんとなくわかったみたいで何度か頷いている。


「僕の村は魔法で作られているんだ。家は土の魔法だし、明かりも光の魔法だし、料理の水も近くに泉があるけど水の魔法だもの。町では違うみたいだし、国民はあまり魔力を持っていないんだね」


 レムエルは井戸水を汲む住民を面白そうに見ながらそういった。

 それは魔力がないことを蔑んでいるのではなく、バダックのように魔力を持たないことが珍しいと勘違いしているのだ。

 多分、バダックのように力でも強いと思っているのかもしれない。


「ああー、殿下。普通は魔力をそれほど多く持たないのです。多少訓練で伸びはしますが、暮らしを維持するとなると……かなり難しいですね」


 ゾディックが腕を組み唸るように搾り出した。

 ソニヤはしっかり教えられなかったかと苦笑している。


「そうだろうとは思ったよ。でも、それなら魔力による償いは有効じゃないの? さすがの僕でも魔法の技量がないとしっかりとした魔法が出来ないと思う。だけど、飲み水を出すとか、家の基礎である土台を作るとか、夏場に仕事をする人に風を送って仕事をさせやすくするとかできるでしょ? まあ、犯罪者から風を送られるのは怒りが溜まるかもしれないけど、役に立ち、やり過ぎれば命にも関わることはほとんどの人が知っているのだからぎりぎりまでやらせればいい償い方法になると思う」

「殿下……えげつないです」

「え!? そ、そうかなぁ?」


 レムエルは気付いていないのだろうが、魔力酷使をさせればいずれ死にたいと自分から言い出すだろう。

 しかも訓練していないものなら尚更だ。

 魔法を使うには魔力だけが必要ではない。それを使う精神力は勿論のこと、完成させるイメージと耐えうる身体能力も必要なのだ。

 でないと、多くの魔力を持つ子供がバンバン高威力の魔法を打ててしまう。


「それに魔力は薬の原料にもなるんだ。『空の魔石』や『白の魔石』に詰め込めばいい。これもぎりぎりまでね。しかも苦しんで償っているのが分かるように民衆の前で。その魔石は国民のために有効活用させてもらおう」

「またえげつない……」


 ソニヤが鬼のような発言をするレムエルに悲しんでいる。

 こんな子に育てた覚えはありません、と声高々に言いそうだ。


「では、魔力を持たない者はどうするのですか? 確かに貴族や王族は生れ付き多くの魔力を持ちます。ですが、中には国民と同じく魔力をほとんど持たない者が僅かに存在します。そのような人達はどのようにして償うべきですか?」

「その時は罪によるけど、一番考えやすいのが労働だね。今でも鉱山行きとかあるみたいだけど、それって人材の無駄遣いだと僕は思う」

「無駄使いですか? 結構使える、とは言ってはいけませんが活用されているのですが」


 二人にとっては意外な言葉だったようだが、レムエルにとっては首を大きく傾げるほど疑問ようだ。


「だって、鉱山で死ぬ人ってたくさんいるでしょう? でも魔法を使えばその死ぬ人の割合を少なく出来ると思うんだけど。ダメかな?」

「殿下は鉱山で死ぬ人の原因が分かっておられるのですか?」

「あれ? 知らないの? 僕はね、この目を使った時はなぜか知らないけど膨大な知識が流れ込んでくるんだ。いや、流れ込むというより知っていたことを思い出すっていう感じかも。今もいろんな知識が頭の中にあるよ」


 多分だが王者の風格は精霊に関することで出てきている。

 レムエルの魂は世界の狭間に彷徨っている魂の集合体だ。

 魂というのはその者達の記憶でもあるため、死んで新しくなっているとはいえ新たな固体とはなっていないために、『竜眼』を使った時に残っている記憶が蘇るのだろう。


 『竜眼』は千年前の初代国王が持っていたのが有名であり、それがどのような物なのかあまり知られていない。


 曰く、王者の風格が出る。

 曰く、基礎能力が上がる。

 曰く、時代の流れがそうさせている。


 等様々なことが伝えられているが、それが正しいのかさえ分からない。


 だが、レムエルの場合その魂の中に他世界の記憶があってもおかしくなく、妙に大人びたり、知識がこの世界に合わないわけだ。

 だが、その知識を知っているわけではないため上手く有効活用できないようだ。


「それ初めて聞きましたよ。今度からは早めに教えてください。取り返しがつかなかったらどうするおつもりですか? 殿下は国民のために王となると言ったのですからしっかりしてください」

「あ、うん、わかったよ。今度からはしっかり話す」


 怒られることが少ないレムエルはソニヤに疲れたように怒られて少しシュンとなった。

 年相応な姿にゾディックは安心を感じ、レムエルなら王となる資格があるだろうと思った。国民もレムエルなら喜んでついて行くだろうと感じている。


「鉱山で死ぬのは空気が悪くなるからだよ。鉱山っていうことは山でしょ? 山って中に溶岩があるから、ガスが溜まってるんだ。そのガスが有害かはわからないけど、少なくともそのガスが鉱山内の空気を外へ押し出し、呼吸困難とかで倒れるんだ。死ぬ人って苦しみながら死ぬんじゃない?」

「ああ……確かに胸を抑えていたりする者が多かったはずです。そういう理由があったのか……」


 ゾディックは過去に火山方面への依頼を受けたりしたことがあるので知っているのだろうし、鉱山関係に関してもギルドマスターという肩書が魔物調査などで情報を得ることになるのだろう。

 ソニヤも国の上層部にいたのだからそれなりに知っているだろう。


「そのガスを排除するというより、換気すれば死ぬ確率も少なくなると思う。あとは、土魔法で掘り返せばいいよね。肉体労働がいるのは国の発展の方だよ。非人道的だけど薬の開発、道路の舗装、領地拡大のために魔物討伐とかね。だから、魔力がないから償うために処刑はないよ。なければないなりに国や国民のために償ってもらう予定だよ。でも、その前にそれらを行うには僕が王にならないといけないね」


 壮大なレムエルの目標に感心しながらも驚愕と畏れを抱き、まだ甘い考え方だがこの方なら国を豊かに出来るのではないかと考えさせられた。

 だが、先進過ぎる考え方にどうしても抵抗が生まれ、二の足を踏ませてしまうのだ。

 ずっと一緒にいたソニヤでも感じるのだからゾディックはもっと感じるだろう。


「そうか……。まだ甘いところがたくさんあるが、そこは周りの人間が考えることだ。少なくとも殿下は良い王になれると俺は思う。先進過ぎるが国を豊かにするのは間違いない」

「では、協力してくれるの?」

「ええ、協力しましょう。私もどこまでも付いていきます。冒険者ギルドの方はお任せ下さい。殿下は準備が整うまでに名を広げてくださいよ?」

「うん! うん! 頑張るよ。ソニヤもいいよね?」


 レムエルは喜んでゾディアックの手を握り、隣で少し厳つい顔をしているソニヤを覗った。


「はぁ……。殿下は可愛い顔して本当に悪魔のようですね」

「ひどい……」

「ですが、それは嫌ではありません。確かに私も先進過ぎる考え方は身を滅ぼしかねないと思いますが、それらの取り組みに関して実行するのは私達ですから時期を見極めて行動します。ですので、殿下はこのまま前を見て進んでください。前にも言いましたが私達はどこまでもあなた様の味方です」

「しょにやぁ~……」


 レムエルはグッとくる一言を言われ目の大粒の涙を貯め込んだ。

 やはり自分がおかしいことには気づいているようで、話すことは不安だったのだろう。

 それでも国民のために立ち上がると決めたのだから嫌われたとしても頑張るしかなかったのだ。

 これは母親であるシィールビィーとの約束、自信を持ち、仲間を信じ、前を向いて歩いて行く、というのを守るためだろう。


もう少しギルドマスターとの話が続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ