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創神教との謁見

 日々の執務により疲れが溜まりつつあるレムエルは、レッラ達専属メイドに朝の準備をさせられていた。

 昨日到着した創神教の総本山からの使者と会談することになっているからだ。


 あれから二か月弱が経ち、やっと創神教から話し合うという旨が伝えられたのだ。

 この話が出てから空気がピリピリとし出し、今回の話し合いで創神教とも完全対立するかどうかが決まるのだから当たり前だ。


「レムエル様、何事もないでしょうが、お気を付けください」


 レッラは厳しい口調で注意する。

 玉座の前での謁見だったとしても、相手は現在帝国と同率で危険視されている創神教だから、と口を酸っぱくさせる。


「うん、分かってるよ。今回は傍にソニヤもいるし、各団長もいさせる。相手も数人に絞ったし、城に入った時から精霊に監視を頼むつもりだよ」


 レムエルもこの案件の重要さと危険性を十分理解しているようだ。


 調査結果からあの宝珠は持っていないと確認されているが、精霊でも危険だと言える技術や物を持っているのだ。警戒していても不思議ではない。






「第六十四代国王レムエル・クィエル・チェルエム陛下の御成り!」


 一同が立ち上がり、背筋を伸ばし右手を胸に当てて軽く頭を下げる。

 中央にいる純白の煌びやかな法衣を纏ったいかにもな神官達も恭しく頭を下げる。


 準備を終えたレムエルは背丈よりもやや大きめに作られた精霊と竜の紋章入りマントを身に着け、磨き上げた王冠を被り玉座に座る。

 傍らには母親代わりのジュリア王妃が座り、ソニヤと王族栄光騎士(ロイヤルグロリアガード)が、ロガンやシュティー達文官が、アースワーズ達軍人が分かれて整列している。


「遅れてすまなかった」


 レムエルは出来る限り勤めて威厳があるように喋る。

 微かに『竜眼』の力と精霊の雰囲気を使い、この場にいる者達に否応なく格という物を見せる。


 今回は特に舐められるわけにはいかないとロガン達からも言われているのだ。


「いえ、今し方創神教の方々もお越しになった所です。こちらが忙しいのはご理解いただけるかと」

「そうか」


 レムエルはロガンの方に顔を向けながら短く返すが、横目で創神教の神官達を確認した。

 微かに怒気のような気配を感じ取り、なんとなく考えていることが分かった。


 後ろにいる男性は元副大司教、現大司教のオーヴィスだ。

 彼からは戸惑いのいたって普通の気配を感じ取り、やはりとレムエルは内心笑みを浮かべて思案する。

 派閥までは分からないが、オーヴィスを大司教に据えて正解だったと確信したのだ。


「私が国王レムエルだ。まずは創神教の方々、今日は遠路遥々よく来てくれた。時間もないのですぐ本題へ入りたい」


 下手に出ない言い方をしたレムエルは出来る限り自分は上の存在だと含め、ひっくるめて創神教ということで責任を分散させないようにする。

 オーヴィス大司教を連れてきたのは責任を押し付けるつもりだったのかもしれないが、そうできないように先に先制した。

 そして、遠路遥々顔を出せたのだな、とロガン達が考えた皮肉を口にし、お前達のせいで時間が無いとも付け足す。気付ければお前達と無駄話をする時間はないと言っている。


 勿論レムエルはそう言うつもりはなく、任せられていたら愚痴りながら普通に労い、ニコニコと会話をしていただろう。


「レムエル陛下、私は創神教本山にてアヴィス猊下より枢機卿の地位を頂いているフェベル・フォーエンと申します。遅ればせながら無事の戴冠、心よりお祝い申し上げます」


 フェベルと名乗った男性は張りつけたような笑みを浮かべて祝辞を述べ、心にもないとわかる言葉を並べた。

 レムエルはフォーエン枢機卿のダルマ体型やテカる髪、背後の者達にも目を向け眉を軽く顰めた。


 それなりの地位にいる者を送ってきたということは今回のことが重要だとわかっているということ。

 ただ、この男がレムエルと今の王国を甘く見ていなければという条件付きだ。

 もし敵対することになればチェルエム王国から北部の国々の創神教離れが勃発するだろう。


 それだけ創神教が嫌われているだけではなく、チェルエム王国での騒動が効いているのだ。

 そして、代わりに精霊教が有名になり、現在チェルエム王国が排除運動をしていないからそこまで深刻化していない状況だ。


「時間も押しているのでな、単刀直入に聞く。創神教は先の件どうされたい? 私、いや、王国としては聞いていると思うが良い関係を結べればいいと思っている。今でも神に感謝し信仰している者がいるからな」


 あくまでも創神教に便宜を図り、こちらは何歩も引き誠意を見せていると告げる。

 お前達はこれにどう対処してくれる、そう訊いている。

 ついでにまだ信仰している者がいるのだから、逃げられないという。

 まあ、信仰している人の数は限られているようなものだが。


 フォーエン枢機卿はそれに対して身体を震わせ、笑みを張りつけた上で顔を上げて話し出す。

 ロガンが何か言おうとするがレムエルは気付かれないように風の精霊を使って言わなくていいと阻止し、横目で視線を合わせて軽く首を振った。

 許可なしで顔を上げてはならないのだ。


「私共としましてはどうと言われましても、今回の件は青天の霹靂でして、元コヴィアノフ大司教の暴走としか言えません」


 あくまでも総本山は関わっていませんよ、と責任逃れをする。

 まあ、典型的な口上だろう。


「そうか……。では、これがコヴィアノフという者の暴走だとして、それにより出た被害はどうされる?」

「どう、とは?」

「わからぬのか?」


 レムエルは本気で分からないのかと一瞬素で聞きそうになり、誤魔化すように座り直して訊ねた。

 周りの者達からも呆れや失笑の様な物を感じ取るが、中にはよくわかっていない者もいる。


 恐らく、失態を犯せばその者が責任を取るというのが当たり前だったからだろう。

 だが、それは地位の低い者達だけの話で、国家問題になりつつあることが子供の喧嘩の様に悪い奴がやられて終わり、とはならない。

 いや、子供でも誰かが仲裁したり、年上の子が喧嘩両成敗で叱ったり、大人が仲裁するだろう。


「私は創神教が出した被害はどうしてくれるのか、そう訊ねている」

「ですから、それはコヴィアノフ――」

「元コヴィアノフ大司教が犯したのは分かる。だが、その責任はフォーエン枢機卿、延いてはアヴィス教皇に、その愚行を阻止できなかった監督不行き届きの創神教にあるのではないか?」

「――なっ!」


 レムエルは肘掛に肘を付き顎を撫でながら、不遜な態度でそう言い放った。

 部下の責任を取るのは上司の責任だろう、そう言っている。


 驚いているようだが、レムエル達からすると当たり前だろと言った感じだ。


「それとも何か? 自分達は関知せず、コヴィアノフの独断。だから、自分達の預かり知らぬ所起きたのだから、その者を処罰するだけで許せと?」

「それは……。私共は何もしないとは言っておりません」


 表情を変えずに訊ねるレムエルに見つめられ、口ごもるフォーエン枢機卿。

 流石にそうだと言えば、自分達が無能だということになると気付けたようだ。

 だが、否定すれば、なぜ阻止しなかったと言われ、墓穴を掘ると口に出来なかった。


 そこで、レムエルは手を差し伸べる。


「確かに我が国も創神教、いや、コヴィアノフ達と癒着していた者達が多くいた。無論今は謹慎・隠居・処断したが、そう考えると貴族全体を纏め上げられなかった私達王族に責がある」

「陛下!」

「良いのだ。下の者の失態は上が取る、それは子供でも知っていることだろう? それはその部下を纏められなかった責任が生じるからだ」


 大袈裟にロガンやアースワーズ達が悔しそうにし、貴族達は目を逸らす。

 それを見たフォーエン枢機卿達は皮肉に対する怒りと戸惑いを浮かべ、目の前にいる人物が見た目だけの存在ではないと思い知る。だが、既に時は遅い。


 勿論これも茶番の様な物で、客人の前で一斉に分かり易い顔を出すというのに気付かないといけないだろ。


「だからこそ私は創神教を許した。苦しい思いをした者達には済まないが……。全責任を取って自害しろとは言わん。だが、監督不行き届き、国内での蛮行、貴族との癒着と賄賂問題、帝国との受け渡し、国民への恐喝や暴行等々……それは、責任を取らなければならないのは分かっておるであろう」

「は、はい。目が届かなかったとはいえ、我々にも責任があります。アヴィス猊下もこのことを重く思われておりまして、大変申し訳なく思っています」

「それで創神教としてはこの事態をそこまで調べられなかったとして、コヴィアノフ大司教を止めさせただけか? だが、その人物は既にこの世に居らんぞ? それは分かっておるのか?」

「え、ええ……」


 弱冠十二歳という成人もしていないレムエルなら言い包め、二か月で証拠隠滅できると考えていたのだろう。


 だが、実際は次々に証拠が押さえられ、逆に創神教自体が責任を取らなければならないのだと、上から押さえつけられるように言われる。


「ところで、フォーエン枢機卿は今回の件の顛末を知っておるか?」

「え? あ、そのー……」


 突然の話題転換に付いて行けず、曖昧な受け答えとなる。

 だが、レムエルからするとそこまでの話題転換ではない。


「そ、それは、元コヴィアノフ大司教の犯したこと、でしょうか?」


 恐る恐るといったようにそう訊ねた。


「勿論そうだ。フォーエン枢機卿達に内乱の顛末等いっても無駄だろう? 既に知っているだろうし、あまり関与しないことまで追求しようとは思っておらん。この場はチェルエム王国と創神教の話し合いだ」


 レムエルは少し身振りを加え、傍にいるロガンに目を向けながら言った。

 特に関係の無い行為だが、フォーエン枢機卿から見るとレムエルが勝手に言っているというように見えるだろう。


「確か、元コヴィアノフ大司教は戦場に出て倒されたとか。先ほども申しました通り、少なくとも私はコヴィアノフがあのような行いをする人物だと知りませんでした。知っていれば降格処分、若しくは猊下より処断されていたことでしょう。この度は大変ご迷惑をおかけしました」

「もう謝らずともよい。――それは、自分達に非があると認めるのだな? 一応訊ねるが創神教の地位はどのように決まるのだ?」


 レムエルの子供のような質問にフォーエン枢機卿は何か友好的に使えないか思考を高速回転させる。

 だが、訊ねられている意味が分からなければ墓穴を掘る可能性が高い。


「地位と言いますと世襲のことですね。こほん、差し障り無いので語らせていただきます。創神教では基本的に推薦と日頃の態度等で決まります。上の者がこの者ならという者を推薦し、上司が試験を行い許可されます。大司教クラスとなりますと、枢機卿達が話し合いで決定します。教皇は指名制が良く取られます」


 次第に落ち着きを取り戻し、レムエルが面白そうに聞いていることに活路を見出す。

 だが、果たしてこのような話から活路など見いだせるのだろうか。


「となると、コヴィアノフをこの王国の大司教に添えた人物がおるということだな?」

「え、ええ、はい、そうなるかと思います。私は若い方ですから、当時のことを知りません」


 レムエルは軽く眉を上げた息を吐く。

 ビクリと彼らの身体が震えた。


 喋る度に創神教の無能さが露見している気がする。


「では、改めて聞くが、既にこの世に居らんコヴィアノフの代わりに誰が責任を取り、のさばらせていた創神教はどう王国に報い、しでかした摩訶不思議な宝珠とやらをどうするつもりだ?」

「ほ、宝珠ですか? は、はて、私にはそのような物……」


 レムエル達はその反応が見れただけで満足だ。


「創神教がなぜ、帝国と同じ技術を持ち、そのような物を持ち出して暴れたのかはどうでもよい。知らないというのなら王国は創神教に対して対応を考え直さなければならん」


 そうだなロガン、とレムエルは横目で見つめる。


「陛下の仰る通り、多くの者が創神教の元大司教様が行った行為と、それにより起きた現象や被害、更には王国の国民への犯罪行為や神と言う名を使い蛮行を行う」

「流石にその言葉は神罰が下りますぞ」

「では、神の名を語り我が国民に仇名した創神教はどうなのだ? まさか、創神教の信者全員は神の名の下に全てが許される等と馬鹿げたこと言わんよな? そんな犯罪を許容する宗教があっては困る。そんなこと言われては我が国から排除せねばならん。それは私自身に敵対するということだからな」


 そこでレムエルは精霊の力を行使し、腕をひと振りすることで精霊を顕現させる。

 この場で最も効果のある天使の様な姿をした、純白の翼と白銀の鎧を身に纏った光の上級精霊を三体呼び出し、神々しい光を発させる。

 これもあらかじめ決めていた演技だ。

 くるくると回転しレムエルの傍に降りるのは精霊の遊び心だろう。


「お、おおぉ……」


 街中を飛び交っていた精霊の姿をオーヴィス大司教は見ていたため、大精霊ではないにしろその光を覚えていた。

 フォーエン枢機卿達は目を白黒させ、眉唾物とでも思っていたのか驚愕が見て取れる。


「さて、話があっち飛びこっち飛びしてしまったが、もう一度訪ねる。創神教は我がチェルエム王国にどう報いるのだ?」


 今度の言葉には重圧が乗り、レムエルが抑えさせているが光の精霊から何とも言えない力が出ていた。


「大体私は先の争いの前に創神教宛に手紙を書いていた」


 態々自分で差し出しに行った手紙のことだろう。


「内容を要約すると、国を解放するために協力してほしい、だ」

「そ、そのような話は聞いておりません!」

「そうだろうな。でなければ、創神教が敵対するはずがない。なら、私自らが創神教本部へ出した手紙はどこへ行ったのだ? 捨てたや無くしたのなら仕方がないが、私の協力要請を突っぱねたのは紛れもない事実。――そうだな? オーヴィス大司教よ」


 一斉にオーヴィス大司教の方へ視線が向き、彼は顔を上げて震えながら頷いた。

 それにフォーエン枢機卿達は睨み付けるが、現段階でオーヴィスはレムエル側にいるのだ。

 現在王国内にいる敬虔な創神教信徒は、横柄な総本山よりも受け入れ活動を許してくれたレムエルに傾いていた。

 その行為は創神教の除名を防ぎ、浪人するスラム暮らしを防ぎ、最悪命を繋いだのだ。


「証拠……証拠はあるのでしょうか? それと手紙を出されたというのは何時の話で? 本山は何も知らされておりません」


 逃げようと足掻くフォーエン枢機卿。

 だが、全て墓穴を掘っていく。


「それは部下の監督が出来ず、存続に関わる判断の報告も出来ず、コヴィアノフ達を制御できなかったのは自分達にある、そう取るぞ」

「な、なぜそうなる!」

「近づくな! それ以上近付けば狼藉者として殺されても文句は言えんぞ」


 一歩踏み出し怒り狂うフォーエン枢機卿に、剣こそ抜いていないがアースワーズが怒気を投げつける。

 それをレムエルは手で制す。


「出したのは当日だ。だから、総本山に知らせがいかなかったのは分かる。だが、創神教にも通信手段があるだろう? そもそもなぜ国の内乱に創神教がしゃしゃり出てきた? お前達がした行為はなんだ。教会が国政に関わるとはどういうことだ? 要請されたのかもしれないが、王都を囲まれてまだ勝てると思っていたのか? 勝った後どうするつもりだったのだろうか」

「ぐ、くっ……そ、それは……」


 レムエルは自分に非があると言いながらも全ての責任を創神教に償わさせる。

 人というのは両者にも罪があると言われればそれで納得しやすく、しかも相手が譲歩した段階ならば尚更だ。


 それが王国での創神教存続という譲歩ならば、それ以上ないものだろう。


 レムエルは立ち上がり、マントを軽く靡かせると同時に数多くの精霊を呼び出す。

 ついでに『竜眼』を眼に宿し、高圧的に告げる。


「最後にもう一度訪ねる。創神教は我が王国にどう詫びるつもりだ。答えよ、フォーエン枢機卿よ!」

「い、一度総本山へ帰りアヴィス猊下にご相談を……」

「ならん! 王国は創神教へ最大限の譲歩をしている。これ以上の譲歩はあり得ないと思え」


 何としてでもこの場で約束してもらう。

 レムエル達にとって創神教などどうでもで良い。

 創神教が罪を償ったと知れ渡り、大きな顔が出来なくなればそれで満足なのだ。


「わ、私では全てを確約できません! で、ですが、もうこのようなことが無いよう最大限に努め、後日正式な謝罪と賠償をいたします! 陛下の慈悲は強く感じておりますが、こればっかりは一枢機卿である私にも判断できかねます」

「それは自分達が無能だというとわかっているのか? それと少なくとも我が国内でお布施の強制徴収、強制勧誘を止めてもらう。暴行を働くなど論外だ」

「は、はい、そのように伝えます」

「そして、謝罪には私だけでなく、今まで苦心を飲ませた国民にもしてもらう」

「そ、それは……分かりました!」

「最後に他宗教を異端者と呼び、現存する精霊を馬鹿にするな。これ以上精霊の不快を買ってみろ。少なくとも創神教は衰退するぞ」


 レムエルはそう言い終わると玉座に座り直し、目を瞑ってしまった。

 精霊達も姿を消し、最後に一睨みしてレムエルの下へ向かった。


「これにて謁見を終了とする。オーヴィス大司教様には引き続き王国内で創神教を盛り立てて頂きたい。得た情報によりオーヴィス大司教は元大司教を諌め、その際に怪我を負ってしまったと聞く。そのような方がトップに立たれるのなら、私共としましても良い関係が築けるのではないかと考えております」


 最後にロガンが下手の人物を送られないよう釘を刺し、人柄を知っているオーヴィス大司教をこのまま据えた状態にしろ、と命令する。


「わ、分かりました。アヴィス猊下にお伝えします」


 焦燥しきった顔でそう搾り出し、一気に老けたような足取りでフォーエン枢機卿は立ち去っていく。

 その姿は白く燃え尽きているが、レムエルは大きな体を見て欲に塗れたやつらと同じだと何度と思ってしまう。


 オーヴィス大司教は軽く頭を下げて一礼し、レムエル一同それに目礼を返した。

 レムエルは嫌な気分が晴れたかのように笑みを返す。

 だからこそオーヴィス大司教を逃したくないのだ。


 そして、扉が閉まると同時にレムエルはどっと疲れたように肩を落とし、傍にいたロガンが微笑みながら声を掛ける。


「陛下、お疲れ様でした」

「ロガン、あれでよかった? っと、謁見は終了したから皆も休んでいいよ」


 とレムエルは言うが、誰も休むことはない。

 まあ、レムエルなりの気休めの言葉といったところだ。

 公式ではなく多少の無礼があっても許す、といった感じだ。


「あれだけ言えば大丈夫でしょう。結局のところ私達は創神教と帝国の繋がり、国内での治安、創神教が謝罪をするのならそれでよかったのです」

「そうだね。これで人族以外が蔑まれることもなくなるし、敵対する可能性が減った。僕としてはアヴィス猊下って人が何をするか不安だけど」


 それは皆分かっているが、考えすぎても溝に嵌るという物で、創神教を受け入れている時点で争うという選択肢を取れないだろう。

 もしそれをすると創神教自体の存続が怪しくなり、北側で創神教離れが進むだろう。


 勿論今回の出来事は予め精霊教の教皇に知らせてある。

 他宗教の所にも知らせ、教義を守り法律を守るのならある程度許容すると。

 そして、創神教に一矢報いれるのならと感謝されたほどだ。


「レムエル陛下、ありがとうございます。これで多くの種族が住みやすくなります」


 バレボス公爵は笑みを浮かべてこの先の明るい未来に感謝する。


「うん、人族だけで何もかもできるという考えがおかしいと思うよ。種族がいるってことはそれにあった物があるってことだからね」

「それは多くの者が痛感していることでしょう。軍人ならば力や足の速い獣人族が、魔法研究ならエルフ族や妖精族が、先のフラング国とは多くの種族の知恵を借りております」

「南部はまだ厳しいようですが、西部は友好国との関係強化により防備が強化されました。これも陛下のおかげです」


 口々にレムエルが国王になってから二か月もしない内に効果が出だしたと喜びを口にする。


 自分がしてきたことを棚に上げるような感じだが、無理もない話だ。

 これから真面目に貴族の義務を務めれば多少の罪ぐらいは洗い流せる。

 全貴族を粛正するわけにはいかないのは国民もわかっており、レムエルのおかげで潤い始めているのだから我慢してくれているのだ。


「僕は教義を否定するつもりはないけど、流石にやり過ぎはねぇ」


 人としての道を外すのは絶対にいけない。

 レムエルは神と異端者という言葉を使い勝手な希釈をする創神教に呆れていた。

 神がいるかは知らないレムエルだが、流石にそれを許容するのはおかしいだろ、と思っている。

 不敬になるのだろうけどそれは邪神の類じゃないか、と思っていた。


「まあ、創神教はこれで懲りただろうね。少なくともデカい顔はさせない。何か起きた場合は各自すぐに上へ通達する様に! では、解散」

「陛下、最後までしっかりなさってください。――それではこれで終了とする」


 ロガンが最後に締めたことで貴族達は一礼して立ち去っていく。

 レムエルのギャップに苦笑する者が多くいるが、それはそれで良い王だと見え、まだ成人していないのだから多少の面は了承している。


 対外的にきちんとできるのなら今は十分と言えた。

 今回の謁見は貴族達への牽制でもあったのだ。






 それから二週間ほど経ち、創神教から新たな使いがやってきた。

 アヴィス猊下が来ないのは仕方がないとはいえ、創神教はかなりごねた。

 立場が分かっていないのか、それとも創神教の威光は勝っていると思っているのか。

 挙句にコヴィアノフの独断だからどうの、神を愚弄した国、精霊への侮辱、人族以外を蔑む発言、レムエルを蔑ろにする行動等をとる。


 勿論表向きはそう見えない巧妙さがあるが、陰で何か言っていることは筒抜けで、ロガン達にも知らされていった。


 結果、創神教はレムエルとの付き合いを間違えた代表格に上げられ、帝国同様に精霊から見放されていくこととなる。

 既に総本山では異変が起こりつつあるだろう。


 その後、アヴィス教皇の遣いという者が現れ、正式な賠償と謝罪がなされた。

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